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step.3-3

「それで、だけど……かなり印象が変わったみたいだね。何か、心境の変化でもあったのかい? もちろん、言いたくなければ言わなくても大丈夫だけれど」


 クライド様のその言葉に、私の胸は大きくドキリと反応を示した。ついに、自分の意思を伝える時が訪れたのだ。私は姿勢を正して、クライド様にしっかりと顔を向けると、あらかじめ考えておいた文章を口にした。


「クライド様、今まで申し訳ありませんでした……今回、怪我をしたことで私は目が覚めたのです。私は自分のことばかり考えていて、周りが全く見えていませんでした。クライド様にも、そのことでたくさんの迷惑をかけてきたと思います。だから、そんな自分を変えていくために、これからは行動を改めることにしたのです」


 クライド様は私の突然の謝罪に対して、少しの間、困惑していたようだった。けれど、私が放った言葉を理解すると、穏やかな口調で話し始めた。


「そう、だったんだね……僕はエルシアのことを、迷惑だとは思っていなかったよ。でも、自分を向上させたいという気持ちは、凄く良いことだと思う。だから、僕もできれば協力がしたい。何か力になれることがあったら、気兼ねなく言って欲しい」


 クライド様が酷い言葉をかけるはずがないと、頭ではちゃんと分かっていた。それでも、心の部分ではかなり気を張っていたようだ。クライド様の言葉を聞いた瞬間、胸の内に巣食っていた不安な気持ちが霧散して、一気に心が軽くなるのを感じた。


 これで一応、今日の一番の目的を果たすことができた。緊張をしていたにも関わらず、ちゃんと自分の気持ちを伝えることができた。そのことに対する安堵感から、私はホッと息を吐いた。


「……エルシアは、既に変わってきているようだね」


「え?」


 唐突に、クライド様が呟くような声でそう言葉を紡いだ。具体的にどこが変わったのかが分からなくて、私は思わず首を傾げた。


「ほら、今だって。エルシアがそんな顔をするのは初めてだ」


 そんな顔とは一体、どんな顔なのか。不思議に思った私は両手で顔に触れて確認をしてみたけれど、自分ではよく分からなかった。


 すると、その様子を見ていたクライド様がクスリと微笑んだ。


「自分では気が付かないかもしれないけれど、表情がかなり豊かになったと思うんだ。エルシアはいつも、笑っている時でさえ、顔がどこか強張っていたから……その変化を、僕は嬉しく思うよ」


 クライド様が告げたその言葉に、私は僅かな衝撃を受けた。自分はいつだって、普通の表情をしていると思っていたからだ。けれど、考えてみれば、そのことに対する心当たりが色々と頭に浮かんでくる。


 クライド様にお会いする時の心の中は、どんな時でも変わらない。クライド様のことが好きだという気持ちと、嫌われるのが怖いという気持ちが、ぶつかり合っているのだ。私はそれらの気持ちを、ちゃんと自分の内側に留めていると思い込んでいた。けれど、実際には全てを隠しきることはできていなくて、表情に出ていたのかもしれない。


 勿論、その相争う気持ちは、今でもなくなってしまったわけではない。前世の記憶を思い出した後も、クライド様のことを想う気持ちは一切、変わっていなかったのだから。むしろ、改めてクライド様の魅力を知り、好きだという気持ちがより増していった。


 それなのに、私の表情に変化が生じたのは、きっと自分が一人ではなかったことに気が付いたからだろう。クライド様だけが支えだったあの時よりも、使用人の存在を知った今の方が遥かに気持ちが楽だった。だから、変に気負うことなく、ありのままの私でいられるのだと思う。


「ありがとう、ございます」


 自分でも気が付かなかったことを、クライド様に見つけてもらえた。実感はあまり湧いていないけれど、外見だけではなく、内面もちゃんと成長していた。私はこの溢れんばかりの喜びを伝えたくて、心からの感謝の言葉を口にした。顔に浮かんでいる表情は、今までのものとは違う、自然な笑みだった。

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