step.6-3
数分後、デニスさんは錆色の髪に翡翠色の瞳を宿した、私と同い年くらいの少年を連れてやってきた。ルクスのような青年を想像していた私は、あまりの若さに、失礼ながら内心驚いてしまった。
けれど、それと同時に憧れの気持ちも胸に抱いた。私と同い歳くらいに見えるのに、もう見習いとして働き始めている彼の姿は、何だか光輝いて見えた。周りに助けられながら生きている私とは大違いだ。
私が『凄いなぁ』と尊敬の眼差しを向けていると、デニスさんが彼の背中を軽く前に押し出して、紹介をしてくれた。
「お嬢様、お待たせして申し訳ありません。彼が見習いのロイです。事情を説明したところ、快く了承してくれました。ロイ、お嬢様にご挨拶を」
「……どーもよろしくお願いします」
ロイというらしい彼は、億劫そうに口を開くとそっけなく言った。彼のこの態度は、もしかしてデフォルトなのだろうか……? 顔はにこりともしていないし、全くよろしくされている感じがしなかった。デニスさんは快く了承してくれたと言っていたけれど、本当にいいのだろうか。
明らかに気が進まない様子の彼を見て困惑をしていると、デニスさんは顔を僅かに顰めた。
「ロイ、お嬢様に対して失礼だぞ」
しかし、ロイは注意なんてお構いなしという風に、ツンとした表情を一向に崩さない。その様子を見たデニスさんはハァとため息を吐くと、私の方に向き直り軽く頭を下げた。
「申し訳ありません、お嬢様。愛想はあまりないですが、根は優しくて真面目な子なのです。私の方から後で、キツく言い聞かせておきますので」
「いえっ、私は大丈夫です。どうか気にしないでください」
何だか雰囲気が少しだけ、険悪になってしまったような気がする。私がお願いごとをしてしまったせいで、2人の関係を気まずくさせるわけにはいかない。気持ちのすれ違いほど怖いものはないのだ。私はこの空気を何とかするために、話を逸らすことにした。
「えぇっと、それよりも……貴方は私のことを、本当に手伝ってくれるの? 断っても罰したりはしないから、正直に言ってちょうだい」
「俺はやりますよ。そう決めたんで」
私は表情と言葉から彼の真意を読み取るために、そう問いかけた。けれど……まっすぐと私を貫く瞳、ハッキリと断言する様に放たれた言葉。私には、彼が気持ちを偽っているようには見えなかった。
もちろん、私の観察力が乏しいから……あるいは、そうであって欲しいと願っているからかもしれない。ただ、先程の様子を見る限りでは、彼は自分の気持ちにかなり正直な人なのだと思う。嫌なら嫌だと、ハッキリ言いそうだった。だから、作業を手伝うという言葉に嘘はないように思えた。
「……そう。園芸は初めてだから物凄く助かるわ、ありがとう」
「別に、お嬢様のためにやるわけじゃありませんから」
この言葉は、気を遣わせないために言ったことなのか。本当に何か別の目的があるのか。私にはよく分からない。けれど……
「どんな理由があろうとも、手伝ってくれるのは嬉しいわ。色々と迷惑をかけてしまうかもしれないけれど、これからよろしくね」
せっかく一緒に作業を行ってくれるというのだから、彼と仲良くなっていきたい。私は期待の気持ちを込めて、ニコリと微笑みかけた。
「こちらこそ」
彼は相変わらずな態度で、呟くようにそう言葉を返したのだった。
良くも悪くも自分の気持ちを真っ直ぐにぶつけてくるロイの存在は、私の中の何かを変えてくれる、そんな予感がした。