表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/30

step.4-2

 翌日、私はシャンプーとリンス作りに使うハーブを決めるために、屋敷の図書室へと訪れていた。クロッカス公爵家は代々、宰相を務めている家系であるためか、蔵書数が貴族の中で最も多いそうだ。図書室は壁一面が巨大な本棚という造りになっており、いつ見てもあまりの壮大さに圧倒されてしまう。


 とはいえ、今日は目的があってここにやって来たのだから、いつまでも呆けているわけにはいかない。私はハーブ図鑑を探して手に取ると、日当たりの良さそうな窓際の席にそっと腰を下ろした。そして、表紙を開くと早速、内容を読み進めていくことにした。


 この図鑑は見開きで4種類ずつ、効能や使用部位などといった基本的な情報が事細やかに記載されている。挿絵も一つ一つ丁寧に描かれており、読んでいて非常に分かりやすい一冊となっていた。


 実は、今世は前世と異なる世界であるはずなのに、植物や生物など、文化以外のことはほとんどが共通していた。だから、自分が知っているハーブを見つけると、それに関連する前世であった色々な出来事が、頭の中に思い浮かんできた。


 風邪をひいてしまった時、お母さんがいつも淹れてくれていたカモミールティー。おつかいの帰りにお父さんとこっそりと食べていた、チョコミントのアイスクリーム。


 私はエルシア・クロッカスであり、前世の人格とは全くの別物だ。けれど、魂にはあの頃の私の心が、強く刻み込まれているのかもしれない。私は懐かしさに浸りながら、ページをめくり続けたのだった。



 *****



「うぅ〜ん、疲れたぁ……」


 私は体の疲れを取るために、両腕をグググっと上に向かって伸ばした。夢中になって読み続けていたようで、気が付けば5時間もの時が経っていた。外を見れば、高かったはずの太陽がもう沈みかけている。


 けれど、そのお陰もあって、どのハーブにするのかをちゃんと決めることができた。今回は、今の季節でも手に入れることができるか、効能は髪のケアに向いているか、などを基準として消去法で選んでいった。


 まず、シャンプーはラベンダーを使うことにした。


 ラベンダーと言えば、安眠作用やリラックス効果を持つ、フローラルで優雅な香りが特徴的なハーブである。けれど、ラベンダーの効能は、香りだけではないそうなのだ。


 例えば、抗菌・殺菌・消炎作用によって雑菌の増殖を抑えると共に、痒みなどといった頭皮トラブルの予防をしてくれるそうだ。他にも、皮脂の分泌を整えて、頭皮のべたつきを抑えるなどの働きもしてくれるらしい。


 次に、リンスにはローズマリーを使うことにした。


 ローズマリーと言えば、香草焼きなど、料理の香り付けや臭み消しとして、よく使われているハーブである。けれど、『若返りのハーブ』と呼ばれているくらい、美容においても非常に良い効果を持っているそうなのだ。


 例えば、血行促進効果によって毛根に栄養を行き渡らせて、抜け毛の予防や髪の成長を促進してくれるそうだ。他にも、収れん作用によって頭皮を引き締めると共に、フケの予防もしてくれるらしい。


  ローズマリーもラベンダーも、市場で普通に出回っているハーブであり、5月のこの時期でも収穫がされている。効能においても非常に優れているので、特に問題はないだろう。


 いきなり色々なハーブを使っても混乱するだけだと思うので、暫くの間はこの2つに絞って、シャンプーとリンスを作っていくつもりだ。


 これで、後は材料を全て揃えて、厨房の使用許可を貰うだけになった。せっかくここまで考えてきたのだから、何としてでも作り上げたい。私は執事長と料理長への説得を頑張ろうと、やる気をたぎらせるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ