step.4-1/シャンプー&リンス作り
クライド様がお見舞いに来てくださってからというものの、私の心境には少しの変化が起きていた。自分の至らなさを改めて実感したからか、『何かをしなければ』という想いで満ち溢れているのだ。そこで、私は今までやったことがなかった、新たなことに挑戦していくことに決めた。
実は、私には前世を思い出した時から、密かに欲しいと思っていたものがあった。
それは、ヘアケア用品だ。
前世と比べると、あまり発展していないこの世界には、シャンプーとリンスが存在していなかったのだ。
髪は石鹸を使用して洗っているせいでかなり傷んでいるし、洗い上がりは物凄くゴワゴワとしている。一応、香油を塗って潤いを与えてはいるものの、そのせいで髪はいつもベタついていた。
前世はうるツヤ髪だった私としては、この現状を何とか変えていきたかった。そこで、ちゃんとしたヘアケアをしていくために、シャンプーとリンスを作りたいと考えたのだ。
作り方については、ここ数日の間に考え続けたお陰で、ある程度は決まってきている。
まず、シャンプーには色々な作り方が存在しているけれど、私はその中でも石鹸を使った作り方が良いのではないかと考えている。
最初は重曹を使って作りたいと考えていたのだけれど、前世と環境に違いがある今世では難しいと判断をしたのだ。いつもスーパーで購入をしていたので、自然界のどこで手に入れることができるのかが、全く分からなかったのだ。
その一方で、石鹸は庶民も一般的に使用している、割と安価な品だった。それ以外の材料もお湯と油くらいで、簡単に全て揃えることができそうだった。
もちろん、効果においても特に問題はないと思う。石鹸は洗浄力が非常に高いので、皮脂の汚れやベタつきをしっかりと落としてくれることが期待できそうだった。
作るのに少し手間が掛かるというデメリットはあるけれど、それさえ気にしなければ、最も条件が整っている作り方だと考えた。
そして、次にリンスについてだけれど、石鹸シャンプーを使用する場合は、作り方が必然的に決まってくる。
石鹸で髪を洗うとギシギシになってしまうのは、石鹸が持つアルカリ性によって、キューティクルが開いてしまうからである。そこで、髪を中性に戻してキューティクルを閉ざすために、酸性のリンスを作らなければいけないのだ。
この世界にはビネガーやレモンなど、様々な酸性を持つものが存在している。どれを使ってもリンスを作ることはできるけれど、今回は使いやすさからビネガーを選ぶことにした。
そして、最後にこれらを作る際に、ハーブも合わせて使用したいと考えている。必ず必要というわけではないけれど、質や効果を向上させることができると思ったのだ。
とはいえ、こちらについては、まだどのハーブを使うかまで決め終えていない。これから色々と調べて、吟味していく予定なのだ。現時点では取り敢えず、殺菌効果や血行促進効果などがあるものを選びたいと考えている。
こんな風に、頭の中で完成像を思い描いてはいるけれど、実際に作るとなると、いくつもの関門が目の前に立ちはだかることだろう。
まず第一に、作業を進めていく上で火を使用するので、厨房を借りなければいけない。そのためには、執事長や料理長に話を通して、許可を得る必要があるのだけれど……私は公爵家の御令嬢。怪我をする危険もあるので、なかなか難しいだろう。
次に、もし許可が降りて作ることができたとしても、それが成功するという保証が一切ない。前世の私は実際に作ったことが一度もなく、知識もうろ覚え状態だった。この世界には存在しない知識なので、作り方を誰かに聞いたり、書物で調べたりすることも出来ない。
完成するまでには、かなりの時間と労力が必要になることが予想できた。
けれど、同時にそんな苦難を乗り越えて、ちゃんと作り上げることができたなら、自分の中で何かが変われるような、そんな気がするのだ。
だから、不安な気持ちはあるけれど、途中で諦めることなく精一杯取り組んでいきたい。
両手を胸の前まで上げてギュッと握りしめた私は、『頑張るぞ』と自分に気合いを入れたのだった。