嵐とペットボトル
「七宮さん、パァース!」
「っ!」
飛んできたバスケットボールを必死に受け止めます。
めまぐるしく赤と青のビブスが入り乱れました。
とにかく、ボールを誰かに投げれば良いのです。
七宮さんは、目の前の集団に向かってボールを投げ込みました。
ピィー!
「そこまで! 終了!」
膝に手をついて、ゼエゼエと息をつきます。
足はガクガクと震えていました。
ふわふわのくせ毛も首筋にへばりついています。
「なんで、大学に入ってまで……」
七宮さんは若干恨みがましく目を細めました。
どうして体育なんてものが大学生になってもあるのでしょう。
運動が苦手な七宮さんにとっては逃げ出したい以外の何者でもありません。
しかも、スポーツではチームを組むことが多いのです。七宮さんのペアは毎回体育の先生でした。
「つかれた」
ベンチに座ってひと心地つきます。
腕もぷるぷると震えていました。
体力の限界です。
ぐったりしていると、目の前にペットボトルが差し出されました。
「大丈夫!?」
金髪のショートカットと、勝ち気そうな瞳が印象的な女の子です。
「はい、大丈夫です」
目を白黒させながらも、何とか答えることができました。
「うそぉ! 七宮さん、めっちゃプルプルしてたじゃん! ほら、遠慮しないの!」
七宮さんに、女の子はペットボトルを押しつけました。
「あ、ありがとうございます」
「いーのいーの! ね、七宮さんて下の名前何て言うの?」
「星ですが……」
「おっし! ヒカリね! 友達なんだから気にしないで! じゃね!」
ニカッと笑って、女の子は嵐のように去って行きました。
「……夢?」
手の中には確かに冷えたペットボトルがあります。
「じゃあ、友達って言ってたのも……」
ゆるりと口角が上がります。
そわそわとくせ毛が揺れ動きました。
「ともだち……」
七宮さんは、今日もしあわせ。
お読み頂きありがとうございました。