七宮さんは今日もしあわせ。(文化祭後編)
「はい、どうぞ」
黒髪に優しげな瞳の男の子が戻ってきました。
「ありがとうございます」
七宮さんは大きめのカップに入った飲み物を受けとります。
大きめのストローとふたがついていました。
中には黒くて丸い粒がたくさん入っています。
「これは……」
「タピオカだよ。知らない?」
三上くんが爽やかに微笑みました。
二人で並んでベンチに座ります。
夜空には星が輝いていました。
遠くからたくさんの人が騒ぐ声が聞こえてきます。
「たぴおか」
そういえば、模擬店リストの一覧にあった気がします。
「そうそう。ミルクティーにした」
三上くんはずるずるとストローをくわえてすすりました。
げほげほごほっ。
気管に入ったのでしょう。涙目になって思い切り咳き込んでいました。
七宮さんもおそるおそるストローに口をつけます。
「!」
たぴおかはつるっとしていて、もちもちとした食感がクセになります。
ミルクティーの甘さとあわさって、口のなかがしあわせです。
「……これ、美味しい」
口もとをふにゃりとゆるめました。
ふわふわのくせ毛がふりふりと揺れます。
こんなに美味しいものを教えてくれるなんて、やっぱり優しい人です。
「三上くん、ありがとうございます」
七宮さんは、ぱあっと花が咲いたような笑顔を浮かべました。
「っ!」
三上くんは、耳の先から首まで真っ赤です。
「大丈夫ですか? 具合わるいですか?」
七宮さんは心配になって、思わず顔を近づけます。
あわあわしている男の子のひたいに手をあてました。
「~っ!」
ぱしり。
「ね、七宮さん」
伸ばした手首をとらえて、三上くんはいいます。
かすれた低い声が、とても近くで聞こえました。
「俺のこと、嫌いじゃないんだよね?」
ちょっぴり照れながらも、三上くんはまっすぐな瞳でこちらを見据えました。
「俺、七宮さんのことが……」
ドォン!
あたりに大きな音が響きました。
花火です。
頭の上できらきらと光が飛び散りました。
「きれい……!」
七宮さんは夜空をあおぎます。
つぎつぎにあがる花火を夢中で見上げました。
三上くんは、そんな七宮さんをじっと見つめています。
と、七宮さんの口がひらきました。
ふわふわのくせ毛をゆらして振り返ります。
ほんのりほっぺたを染めて、へにゃりと嬉しそうに笑いました。
「わたし、三上くんのこと、好きですよ?」
「え」
「だって、とっても優しくて、女神さまみたいですから!」
がさがさっ。
近くの茂みがゆれて、誰かが出てきました。
「ヒーカーリー……」
なんだか怒ったような声です。何かしてしまったのでしょうか。
七宮さんはつぎの瞬間、風花ちゃんに肩をつかまれて、がくがくとゆさぶられていました。
「あんたって子はぁー!!!」
「ふぇ!?」
「あんたのそれはライクなの!? ラブなの!? はっきりしなさいよこのほんわか天然あくま!!!」
がっくんがっくん。
ぐるぐると目が回ります。頭のなかもぐるぐると混乱しました。
ようやく揺さぶりが止まると、目の前にはほおを膨らませる風花ちゃんが。
ベンチには、なぜかしょげている三上くんと、肩に手をおくしずくちゃんの姿がみえました。
「うふふ、まだまだね。三上くん」
しずくちゃんはニコニコといい笑顔です。
「……ああ、うん、がんばる」
三上くんは片手で顔を覆っていました。
りんごのように顔が真っ赤です。
「七宮さん」
七宮さんはのんびりと目を向けます。
「なんですか?」
優しげな黒い瞳が、ちょっとだけ涙で潤んでいます。
「今度新作のスイーツが出る店知ってるんだ。一緒に食べにいこう?」
ふわふわのくせ毛がピクリと動きます。
まっすぐな口角がみるみる上がりました。
「はい! もちろん!!」
しあわせそうに七宮さんは笑いました。
「ヒカリのばか……」
「あら、こういうのがいいんじゃない」
七宮さんはいつもしあわせ。
これで完結とさせていただきます。最後まで七宮さんを見守って頂きありがとうございました。
これからもゆるゆるのキャンパスライフは続いていくのです。
以下おまけ
「ねえ、七宮さんってどういう人がタイプなの?」
「へ?」
「……好きな人のタイプ」
お店のテーブルにほおづえをついて、なんだかやけくそな口調です。
ちょっとほっぺたが赤くなっています。
なんで突然そんなことを聞くのでしょう。
「んー……」
七宮さんはぼんやりと考えます。
「優しい人?」
こう、おいしいものを一緒に食べてくれたり、さわやかに笑ってくれたり、ギターをかっこよくひいて歌っていたり、おいしいものを一緒に食べてくれたりする人です。
「ふーん、そうなんだ……?」
ふと、目の前の男の子に視線がすい寄せられました。
「ん?」
目があうと、その人は首をかしげて小さく笑います。
「どうしたの。ほら、ケーキ食べるんでしょ?」
……さわやかに笑って、ギターが弾けて、ケーキを一緒に食べてくれる…………
「はい、口あけて」
「んむ!?」
何かがつっこまれました。甘いクリームとフルーツの酸味が口のなかでとろけます。
「ふはっ。……七宮さん、可愛い」
「?……??」
なんだかドキドキしながら、七宮さんは顔を真っ赤にしたとかしなかったとか。
おしまい