鳴り響く (文化祭中編)
──『文化祭でライブやるんだ。見に来てよ』
七宮さんは、ライブが行われるカフェテリア前の広場に来ていました。
たくさんの人が集まっています。
広場にはステージや巨大なスピーカーが持ち込まれて組み上げられ、迫力あるセットが完成していました。
隣にいる風花ちゃんに尋ねました。
「次のライブ、しずくちゃんも出るの?」
「うん、三上クンと同じバンドだってさ」
風花ちゃんはいたずらっぽく瞳を輝かせます。
さらさらの金髪が夜風になびきました。
時刻は午後六時。
いわゆる後夜祭の始まりです。
空は少しずつ藍色に変わっていました。
ふいに、暗くなっていたステージにスポットライトがあたります。
中央には、ギターをかまえて楽しそうに笑う、黒髪の男の子が。
カンカンカンカン。
ドラムスティックのカウントと共に、曲が一気に始まりました。
低い振動が空気をふるわせます。
耳から離れないまっすぐな声がマイクを通して響きました。
カラフルなライトがステージを駆けまわります。
「かっこいい……」
思わず七宮さんは呟きました。
ふと、ステージにたつ男の子と目があったような気がしました。
その人は爽やかな笑みを浮かべます。
たじろいでひゅっと息をのみました。
ほっぺたが熱いのは気のせいです。
曲はそのままクライマックスへ。
絶え間なくドラムの連打とベースの重低音がかき鳴らされ、シンバルの響きが高まって。
最後の音とともに、わあっと歓声が上がりました。
「あれぇ、ヒカリ顔赤くなーい?」
風花ちゃんがニヤニヤしています。
「ら、ライトのせいです……」
もにょもにょと七宮さんは答えました。
ふわふわのくせ毛がおろおろと動きます。
「ふーん……ほらヒカリ、終わったよ? 会いに行ってくれば」
楽しそうな声で、トン、と背中を押されました。
「な、なにゃみやさ!?」
ギターを抱えた三上くんは、あわあわして手に持っていたコードをとり落としました。
ほどけたコードはバラバラです。
「お、おつかれさまでした」
しずくちゃんがドラムスティックを手にステージから降りてきます。
「あらひかりちゃん、ライブはどうだった?」
七宮さんはすぐに答えました。
きらきらと瞳が輝きます。
「はい! とってもかっこよかったです!!」
バラバラバラッ。
三上くんが拾い上げたコードをもう一度落としたところでした。
耳が真っ赤です。具合が悪いのでしょうか。
「大丈夫ですか?」
しずくちゃんの瞳がきらりと光りました。
黒いロングヘアーがさらりと揺れます。
「そうねえ。ひかりちゃん、片付けはかわるから、三上くんをお願いしていいかしら?」
そういいつつ、すでに三上くんからギターを回収し、コードをさっとまとめあげます。
ね? と微笑まれて、七宮さんはこくこくと頷きました。
七宮さんは今日もしあわせ。
後編に続きます。