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ふみだす (文化祭前編)

 

 ぱりっ。


 芝生の広場にあるベンチに座った七宮さんは、フランクフルトをほおばりました。


 香ばしい皮にかじりつくと、中からじゅわっと旨味のある汁がこぼれます。


「……美味しい」


 口角がちょっぴりあがりました。


 ふわふわのくせ毛がふよふよと揺れます。



 今日は文化祭本番です。

 

 アイス、綿菓子、たこやき、チャーハン、ワッフル。

 いたるところで華やかな出店が並び、楽しそうな騒ぎ声が聞こえます。


 仮装をした人たちが看板をもって呼び込みをしていました。



「ヒカリー!」


 風花ちゃんとしずくちゃんがやってきました。


 腕には七宮さんと同じ、学生会の腕章をつけています。

 手には焼きそばを持っていました。


「はい! ひとつあげる!」


 プラスチックのトレイに入った焼きそばが差し出されます。


 受けとるとまだ温かくて、ソースのいい香りがしました。


「ありがとう」



 風花ちゃんはにぱっと笑います。


「いやー、模擬店の最終チェックとかまでやってくれてほんと助かったよ!」


 しずくちゃんもおっとりと微笑みました。


「ひかりちゃん、保健所への連絡から機材の貸し出しまで皆とやってくれたものね。ああフウカ、次のステージのセッティングなんだけれど……」


 文化祭には学校の外からも大勢の人がやって来ます。


「あれ」


 子ども連れのお母さんでしょうか。


 困ったように辺りをキョロキョロと見回しています。


 横の二人は何やら話していて、気づいていません。


「でもなあ」


 もともと人に話しかけるのが苦手な七宮さんです。

 行ってみて、別に困ってませんなんて言われたらどうしましょう。



 ──『ともだちなんだから! はい、あげる!』


 ふと、いつかの風花ちゃんが七宮さんにペットボトルの飲み物をくれたことを思い出しました。


 気にかけてもらえて、とても嬉しかったのです。


 腕につけた学生会の腕章をきゅっとにぎります。



「っ、あの!」


 七宮さんはベンチから立ち上がると、親子の方へ駆け出しました。



 残された二人は遠くから七宮さんをながめます。


「ヒカリ、前よりいきいきしてるよね。明るくなったていうか?」


「そうねえ、自分から動いたり、言ってくれることも増えたかしら」



 七宮さんはふう、と息をつきながら戻ってきました。


「よかった、トイレの場所を探してたみたい」


 ちょっと良いことをした、とでもいうようにふわふわのくせ毛がゆれました。




「これで三上クンの気持ちにも気づいてあげれたらねえ」

「あら、天然なところがいいんじゃない」


七宮さんは今日もしあわせ。



中編に続きます。

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