雨のなか
カタカタ、カタン。
放課後です。
今日も七宮さんは資料をまとめています。
「七宮さーん、模擬店の紙、お願いしていい?」
「はい、大丈夫ですよ」
最近は、同じ学部の人たちからも声をかけられるようになりました。
毎日いろんな人と話すようになり、友だちが増えたようで楽しいのです。
「ヒカリ、そろそろ帰るよー」
風花ちゃんが声をかけます。
「わかった」
ちらりと窓の外をみると、灰色の空が目に入りました。
雨が降りだしています。
「……走ればいけるかなあ」
朝寝坊して、遅刻ギリギリだった七宮さん。
バタバタして、傘を忘れていました。
「俺が送ろうか?」
見上げると、黒髪に優しげな瞳の男の子がたっています。
手には紺色の傘を持っていました。
「三上くん。いえ、そんなわけには……」
「ヒカリ、せっかくだから一緒に帰りなよぅ」
風花ちゃんが、勝ち気そうな瞳をいたずらっぽく輝かせました。
「え」
「じゃあね!」
「気をつけてね、ひかりちゃん」
にこにこ微笑むしずくちゃんと一緒に帰ってしまいました。
後には七宮さんと三上くん、二人だけです。
「帰ろっか」
三上くんは爽やかに笑いました。
サアサア。
「バス停までだったよね」
「はい」
雨が降るなかを紺色の傘がすすみます。
七宮さんが視線をあげると、すぐ近くに三上くんのきれいな顔があります。
あわてて目をそらしました。
さりげなく歩道の外側を三上くんが歩きました。
「……」
話すことはあっというまに無くなってしまいました。なにか言おうと口を開きます。
「「あの!!」」
かぶりました。
驚いたようにふわふわのくせ毛がぴょこりと跳ねます。
「さ、先にどうぞ」
あわあわと七宮さんは答えます。
「七宮さんて、」
少し間をおくと、三上くんは大きく息を吸い込みました。
「好きな人いるの?」
サアサアと、雨の音だけが響きます。
ちょっと考えて、七宮さんは答えました。
「はい、いますよ」
ふわふわのくせ毛がきげんよさそうにゆれました。
「、それは、」
「秘密です」
七宮さんは相手を見上げると、口もとをゆるめました。
「そっか」
三上くんは、ぽりぽりとほおをかきました。
「ね、文化祭で俺、ライブするんだ。みに来てよ」
「ふふ、いいですよ」
七宮さんは今日もしあわせ。