ネコらいふ。その二
「コハクちゃん、お風呂だよ」
手をのばすと、するりと茶色いふわふわの子猫が逃げていきます。
七宮さんは五分ほど、子猫を追いかけまわしていました。
「待って」
ついこの間まで小さかったのに、鳩サイズからカラスくらいまで、ちょっぴり大きくなりました。
七宮さんも、なんとか子猫との接し方に慣れてきたところです。
「つかまえた!」
手のなかの茶色い毛玉は、これから何をされるのか分かっているのでしょう。
腕から逃げ出そうともふもふの手足をばたばたさせました。
洗面所にバスタオルとドライヤー、爪切り、抜け毛をとるためのコームを用意すると、お風呂場につれていきます。
ミィー。
ねぇ、行かなくちゃだめ? とでもいうように、琥珀色の瞳が七宮さんを見上げました。
ふわふわのしっぽがゆらゆらと揺れます。
「う……可愛いけど、ダメです。キレイになろうね」
七宮さんは子猫を優しく抱えて膝にのせました。
コームをかけて、抜け毛をとっていきます。コームは茶色い毛だらけです。
次に、ぬるま湯のシャワーをゆっくりとかけていきます。しっぽの先まで丁寧にかけます。
顔は嫌がるので、後でタオルで拭くつもりです。
ピクリと三角形の耳が動いて、まん丸な瞳がすがるように見つめてきます。
ミィー。
「う、嫌だよね。ちょっと待ってくださいね」
洋服が毛だらけで、シャワーで濡れてしまいましたが気にしません。
ネコ専用のシャンプーで、ゆっくりと洗っていきます。ふわりといい匂いがひろがりました。
「コハクちゃんも、乾かしたらいい匂いになるのかな」
ふわふわのくせ毛が楽しそうに揺れました。
シャワーで流して、タオルでしっかりと水気をとります。
小さな手足はタオルで包みこんで、そっと乾かしました。
ミィー。
するりと子猫が抜け出しました。
「わ、まって!」
七宮さんもあわててお風呂場からとびだしました。
部屋にふわりといい匂いが広がります。
「つかまえた!」
七宮さんはふわふわの子猫を抱えると、ほっとしたように微笑みました。
「もう、しょうがないなあ」
七宮さんは今日もしあわせ。