めざせコハクちゃん
「ふう、気持ちよかった」
首にタオルをかけた七宮さんは、リビングのクッションに腰かけました。
お風呂上がりです。
体がぽかぽかして、ほっぺたもちょっとだけ赤くなっています。
「さ、始めますか」
すう、と深く息を吸い込みました。
フローリングにぺたりとすわると首を左右に倒します。そのあとくるりと一周回して、反対にも。
片手を腰にあて、反対の手を頭の上に伸ばします。そのまま横に体を倒して側面を伸ばしました。
「……いてて」
ぴりぴりと筋がひっぱられます。
最近始めたばかりで、あまり体が柔らかくはありません。
ミィー。
部屋の隅で、茶色い子猫が七宮さんを見つめています。
後ろ足で器用に耳のあたりをかきました。
さすがネコ。とても体が柔らかそうです。
ふわふわのしっぽがゆらゆらと動きます。
「お師匠さまだ」
まあるい琥珀色の瞳をくるりと回しました。
まるで、頑張りなさいと言われているようです。
「うう……」
次は、両足をそろえて前屈します。
前は足首までしか届きませんでしたが、もうそろそろつま先に手が届きそうです。
最後に、開脚。
「む、むり……」
七宮さんの足は、まだ九十度ほどしか開きません。
いつかはバレリーナのように、百八十度まで開けるようになりたいものです。
頑張って、十秒数えました。
「ふう」
大きく息をつきます。
そろそろと足の付け根をさすりました。
ストレッチは大変でしたが、体が温かくてすっきりとしています。
「♪」
ふわふわのくせ毛がふりふりと揺れました。
七宮さん、なんだか機嫌が良さそうです。
お布団にもぐり込んで、目を閉じました。
「おやすみなさい」
七宮さんは今日もしあわせ。