表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/46

うつしあわせる

 

 その日は、雨が降っていました。



 バスを降りた七宮さんは、薄暗い帰り道を歩きます。


 コンクリートの道には水溜まりがたくさんできていました。



 サーサーと灰色の空から水滴が落ちてきます。  

 ビニール傘に当たってぽつぽつと弾けました。



 ミィ。


 雨ではない音が聞こえました。


「あれ?」


 見回すと、二メートルほど先に、ふやけた段ボールが置いてあります。


 道の端に寄せられたそれを覗きこむと、子猫がいました。


 ちょっと膝をまげて、茶色い段ボールに傘をさしかけます。




 毛の色は薄汚れてよくわかりません。

 体は雨で濡れそぼって、小さな箱の中でぶるぶると震えています。



 ミィ。


「ごめんなさい。私のアパートは原則イヌやネコは飼えないんです」


 さしかけられた傘が引かれました。


 七宮さんはそっとつぶやいて、一歩を踏み出しました。


 ぴちゃんと重たい水が弾けます。



 ミィ。ミィ。




 ぱちゃり。


「……」


 二、三歩あるいた所で七宮さんは足を止めました。



 ぽつりと一匹で鳴いている様子は、まるで少し前の自分のようです。


 七宮さんには風花ちゃんやしずくちゃんが声をかけてくれましたが、この子には一緒にいてくれる人がいるのでしょうか。



 ぱちゃり。





「……原則、禁止なだけですから」


 とってかえすと服が濡れるのもかまわずに、震える小さな体をすくいあげました。


「大家さんに相談してみますね」


 まずはお風呂できれいにして、それから病院で一度見てもらった方が良いかもしれません。


 先のことを考えながら、ふにゃりと七宮さんは微笑みました。



「ちょっと待っていて下さいね」



 ミィ。


七宮さんは、今日もしあわせ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ