初めてのホームルーム
1年1組は一年生の建物の最上階にある。
最上階といっても三階だけどね。
階段が建物の中心にあるんだけど、教室はフロアの端なので、一番遠い。
この校舎には昇降盤がないので、魔法陣が使えようと使えまいと、出入り口からの距離は変わらない。
私は階段を駆け上り、教室に急ぐ。
なんか、階段駆け上ってばっかりだな、今日は。
教室にたどり着く。
教室には扉はないので、後ろの出入り口から静かに入る。
教室は後ろに行くほど段々に高くなっていく構造になっていた。
普通なら遅刻した理由などを担任に言うべきだろうが、今回は把握しているだろうから省かせてもらおう。
私は後ろの席で縮こまっているヒカリを見つける。
ヒカリと同じクラスとわかり、嬉しくなる。
ヒカリの隣の席が空いていたので、隣に座った。
ホームルームはすでに始まっていて、何かの話し合いが行われていた。
「委員なんて、雑用は平民にやらせておけばいいだろ」
「そうですね。せっかく、平民のお方がいらっしゃるので」
ん、なんか、すっごく失礼な感じの物言いが聞こえたのは気のせいかな?
女の子が一番前の教壇の前に立ってみんなに意見を求めている最中であった。
「委員長も風紀委員も会計委員も雑用のお仕事ばかりですから」
入学式の時、一際、目を惹いていた、ワインレッドの髪の女の子はそう言い放った。
隣でヒカリが震えているのはそういうことですか。
うん、私も怖いよ。
確か、セバスチャンの話だと委員はもちろん雑用みたいな仕事もあるけど、メインのお仕事は委員が常時身につけることが義務となる専用のブレスレットを決闘で奪い合いをするはず。
もし、会計委員が会計のブレスレットを奪われたら、クラス予算がゼロになってしまうということになる。
授業で使えるはずのものが使えなくなったり、教室の割り当てもしょぼくなったり、学園祭での予算が無くなったりするはず。
ぶっちゃけ、魔法陣も満足に使えない平民の子を委員に取り立てるのは見当違いのように感じる。
「では、平民が委員をやるということでよろしいでしょうか。意見が他にある方は挙手していただけますか」
誰も挙手しない。さすがに平民の私が意見する雰囲気ではない。ヒカリに至っては頭の回転も止まっていそうだ。
「キミハさんかヒカリさんに委員をしていただきましょう」
このまま、成り行きを見守るのもいいんだけど、ヒカリは明らかに委員をやりたくなさそうだ。
「ヒカリさん、引き受けたい委員はございますか?」
「は、はい、え、ええと…」
みんなの視線がヒカリに集まる。ヒカリはさらにおどおどしてしまっている。
「すべての委員でいいですか?」
ヒカリは言葉も出せない状態になっている。貴族であるクラスメイトたちが馬鹿にしたように笑っている。
「では、ヒカリさんにすべての委員を引き受けていただきましょう」
なぜそうなる。
まあ、おどおどしている平民を見て楽しんでいるだけだと思うけど。
貴族に逆らえないのが現実だからね。
ヒカリのことはまだよく知らないけど、元貴族だった私と比べれば、明らかに貴族に対しての耐性も経験値も違うと思う。
ここは、今後のことも考えると、私が委員を引き受けた方が丸く収まる気がする。
「待って」
私は勢いよく手を挙げて、待ったをかける。
「キミハさん、どうかなさいましたか」
ヒカリを見て笑っていたクラスメイトも黙る。
「委員は私がやる」
「すべてですか?」
「もちろん」
私が答えた瞬間、クラスメイト全員が笑い始めた。
まあ、子供だからなんだけど、貴族の品位の欠落は元貴族の私からすると嘆かわしい。
「では、キミハさんに委員をしていただきましょう」
教室の端で委員が決定するのを待っていたキヨルデ先生は立ち上がって、教壇の上にブレスレットをおいた。
ざわついていた教室は静かになる。
「これは委員の証を表すブレスレットです」
ブレスレットの本体はブルーとブロンズの小さい輪っかを連ねて作られている。
そこに、赤色、水色、緑色の球体型の宝石が結われている。
ブレスレットについて、キヨルデ先生が説明してくれた。
本体のブルーは第一学園、ブロンズは一年生、宝石の赤色は委員長、水色は会計委員、緑色は風紀委員を表しているらしい。
各種手続きの時にこのブレスレットが必要になるとのことだ。
全てを引き受けた私はコンプリートされたブレスレットを身につけるということだ。
私は教壇のところまで行き、ブレスレットを受け取って、元の一番後ろの席に戻った。
正気を取り戻したらしいヒカリが私に話しかけてくる。
「キミハちゃん、ごめんなさい、私」
目に涙を浮かべている。
そして、甘える小動物のような表情。
うん、抱きしめたくなるよ。
この子は将来、男を惑わす女の子になりそうだ。
「ヒカリのせいじゃないんだから、謝らないの」
「だって、私のせいで、キミハちゃんが委員に」
「私は委員をやりたかったから、ラッキーぐらいに思っているから気にしないで」
もちろん、嘘だ。
無駄に目立ちそうな委員は正直、避けたかった。
目立つと私の秘密がバレる確率も上がるだろう。
まあ、でも、そこを度外視してでも、ヒカリを助けたかったのだから仕方ない。
後悔はしてないよ。
「ほんと…?」
「もう、ほんとだから、泣かないの」
私はヒカリを抱き寄せて慰める。
「キミハさん、今日、ホームルームの後に会計委員会があるので出席してください」
前からキヨルデ先生の声が聞こえた。
ヒカリを優しく、席に座らせ、前に向き直って、返事をする。
「はい、わかりました」
ホームルームも終わり、私は会計委員会へ向かうこととなった。
短いですが。一旦切ります。
次回は会計委員会に行きます!