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学園の入学式

前回から、3年ほど経ちました。

3年間で、あどけなさは、消えてしました...


キミハが入学します!

私、キミハ・サクラグリは12歳になりました。


私は目を覚ます。

部屋の壁にかけてある時計を確認する。


やば!


起きる予定だった時間はとうに過ぎている。

私はベッドから跳ね起きた。

急いで支度を始める。


ベッド横の小さな机から眼鏡を素早く取ってかける。

さらに同じ机から黒のリボンをとり、自分の焦げ茶色の長髪にポニーテールを素早く作る。

部屋の壁にかけたクリーム色のブレザーと赤色のスカートをサッと着た。

学年色の青色をあしらったトゲトゲの花の形をしたブローチを左胸につける。


そして、自分の部屋を飛び出した。


居間では朝ごはんの準備がなされていた。

白い髪が丁寧に整えられたタキシード姿のご老人が無駄のない動きでお茶を淹れている最中である。


「もぉ、セバスチャン、起こしてよ」

「キミハ様も、一人暮らしを始めるのです。このセバスチャン、心を鬼にして、放置致しました」

「むぅ、いじわる」


一瞬、私は口をとがらせたが、2人で笑顔になる。


私は今日から学園に入学し、寮に入る。

この家を出て、一人暮らしが始まる。


ずっと一緒に暮らしていた人と離れ離れになるのは寂しいね...


この3年間、私は王国の外れにあるこの名もなき農村に暮らしていた。

居間と私の部屋とセバスチャンの部屋しかなくて、風呂もない家だ。


ここにきた初日は、馬小屋ですかっ?、とか私、言ってたね...

懐かしいよ...


両親を失った私にとって、セバスチャンは親代わりだった。

セバスチャンがいなかったら、健やかに成長はできなかったと思う。


私は落ち着きのある手つきで食事をする。

セバスチャンは私が食べやすいように給仕をする。

最後の食事は静かなものだった。

この3年間であったことを私たちは頭の中で思い出していた。


貴族だった私が平民と暮らすのは簡単ではなかったよ。

もちろん、セバスチャンも貴族に仕えてきたので、知らないことも多かったからね...

紆余曲折を経て、今があると思う。

セバスチャンとは共に助け合ってきた。


朝ごはんもいつもセバスチャンが作っているわけではないよ。

ローテーションを組んで回していた。

家事の〝か〟の字も知らなかった私も今では掃除、洗濯、料理なんでもこなしている。


食事が終わり、私は玄関に立てかけていた魔剣を手に取る。


その刀身は細いが凛々しく、美しいものであった。


しかし、手に取ったと同時に剣の大きさであった魔剣がナイフのサイズに小さくなった。

私はブレザーの胸の裏のポケットに魔剣をしまう。


「それでは、いってまいります。セバスチャン、留守を頼みます」

「いってらっしゃいませ、キミハ様」


私は元気よく、王都に向かって駆け出した。


3時間ほど、歩いて、王国の首都クトリーゼの大門に着いた。

ここから、さらに中心街にある学園まで1時間ほど歩く。

門番に身分証明書を見せる。


私は学生書を取り出そうとして、ギルドカードを取り出してしまう。


ちがうちがう。形が似ているんだよね。


私は学生証を門番に見せる。


「おお、今日が入学式か。頑張ってこい」


学生証には誕生日、性別、名前、階級が記されている。

さらに私の制服姿を見る。

袖口の灰色のデザインが気になったようだ。


学園の制服は平民、貴族、王族で袖口のデザインだけが違う。

平民は灰色、貴族は銀色、王族は金色となっている。

門番との軽い会話を終え、王都のなかに入る。


懐かしいな。王都…


3年前まではここに暮らしていた私には少し懐かしさが蘇る。

セバスチャンは時折、王都に足を運んでいたようだが、私は農村の近くにある規模の小さな街にしか足を運んでいなかった。

農村には屋台もないし、人も多くない。

コミコミとした感覚は久しぶりだ。

時間にそう余裕はないので、サッサっと歩き始めた。


歩いていると、近くを歩いていたおばあさんに走っていた若者がぶつかった。

おばあさんはその勢いで尻餅をついてしまった。

若者は気づかなかったのかそのまま走って行ってしまった。

おばあさんの持っていた買い物袋も地面に投げ出され、りんごが5、6個、コロコロと転がっている。

周りに気づいている人はいるが急いでいるのかそのまま行ってしまう。


むぅ、ぶつかったのに、そのまま行ってしまうなんて...

これだから、若者は...

私も若者だけどさ...


ふと、リュウさんにおじじの脳とか言われていたのを思い出す。


今はそんなことを考えている場合じゃない!

助けなきゃ!


私はすぐに駆け寄った。


「大丈夫ですか」

「あぁ、お嬢ちゃん、ありがとう。大丈夫じゃよ」

「私、りんごを拾ってくるので」


私はおばあさんに肩を貸しながら、そう言った。

りんごを探そうと周りを見渡していると、同じ学園のブレザーを着た青年がリンゴを2個拾って、こっちに寄ってくるのが見えた。

青年の頭は赤髪で髪の毛が逆立っている。


奇抜な髪型だね...


「おばあさん、大丈夫ですか?」

「あぁ、坊やもありがとう。年になると足腰も弱くなってしまって」

「お怪我もなさそうで安心しました」

「りんごです」


同じく学園の制服に身を包んだ物静かな銀髪のショートカットの女の子が残りのリンゴを拾ってきたのか寄ってきた。


「あぁ、こっちのお嬢ちゃんもありがとよ」


青年が私のブローチを見て、新入生だと気付いたのか、声をかけてくれる。

先輩のブローチは赤色なので1つ上の学年だと思う。


「君、新入生だろ。早く、行きな。入学式はもう始まるよ」

「あとは、私たちに任せて」


本当に時間がないので、ここは甘えることにする。

私は先輩方に向かって、言う。


「すいません。先にいかせてもらいます」

「お嬢ちゃん、ありがとう」


おばあさんは笑顔でお礼を言ってくれた。


嬉しいね!


もともとギリギリの時間だったので、歩いては間に合わない時間になっている。


さて、走りますか!


私は駆け出した。


私は学園までたどり着いた。

走った甲斐もあり、間に合った。

学園には馬車を使って登校している生徒の姿も見える。

私は周囲からの視線を感じた。

視線の理由は考えなくても分かる。

周囲の人はこの袖口の灰色が気になっている。


貴族の多い学校だから仕方ないよね…


時間もないので、入学式が行われるアリーナに向かうことにする。

入学式が行われるアリーナは円形で新入生500人を優に超える人数を収容できる広さがあった。

観客席もあり、観戦もできるようになっている。

新入生たちの家族だろうか、入学式を見にきている人たちがたくさんいる。

小さな子供もきている。


セバスチャン、元気にしているかな…


まだ、別れて4時間ほどしか経っていないのに、少し寂しく感じた。


新入生は整列が行われている。

前から、王族、貴族、平民の順に並ぶみたいだ。

貴族の中でも、細かい序列があり、序列が上の人が前に並んでいるようだ。


今年の新入生には王族の子はいなかったみたいで一番前の列には袖口が銀色に光る子たちが並んでいる。

きれいなワインレッドの長い髪をした女の子がみんなの目を惹いていた。

スタイルもよく、身長も高い。


私には眩しすぎる…


自分の体を確認してため息をつく。


こうね、もっと、ボン、キュッ、ボンして欲しいよね...


すると、すぐ隣でも、ため息が聞こえた。

私は、思わず、隣に顔を向ける。


隣にいた女の子も驚いてこちらを向いている。


金髪のロングツインテールの女の子だ。

金髪と言うよりも黄色い髪と表現する方が良さそうだ。

身長は私よりも低い。


お互い、笑い合う。


私は口を覆って笑ったので、その時、女の子は私の袖口に気づく。


「あっ」

「うん、私は平民」


女の子は自分の袖口を私に向ける。


「私もです」


女の子はにこやかな顔を私に向ける。

私も平民の同級生を見つけて安心する。


「今年、入学できた平民の学生は私たちだけなんです」

「そうなんだ」


道理で校門を入ったらじろじろ見られるわけだ。

女の子によると、合格の掲示板で平民と貴族の欄は分かれていたらしい。

Aランクのハンターであったセバスチャンとリュウさんの推薦があったので私は試験も受けずに合格していたので合格発表も見に行っていない。

ちなみにAランクのハンターは今の王都にも2、3人しかいないらしい。

セバスチャンとリュウさんの凄さが分かるよね。

貴族の人たちは基本合格らしいので、合格発表の掲示板も閑散としていたらしい。


「これからよろしくね」

「はい、よろしくお願いします。あっ、私、ヒカリと言います」


そういえば、名乗っていなかったね。


「私はキミハ・サクラグリ。キミハって呼んで」

「キミハちゃん!!」


ヒカリはぴょこぴょことカールしているツインテールをたなびかせていて可愛らしい。


うん、是非とも、抱き枕にしたいね。

...

...

...

一応、言っておくけど、私はノーマルだからね。


話していると、大きな鐘の音がなった。

と同時に、前方に用意されていた壇上に学園長が上がった。


女の人だ。

遠いので細かな容姿は確認できないが思っていたより、若い。

胸も羨ましい。


本日、2度目のため息が出る。


その瞬間、強烈な殺気を感じた。

私はサッと左手でブレザーの裏のポケットに持つ魔剣の柄を握った。

そして周囲を確認した。


ヒカリは突然の私の行動に驚いた顔をしている。


気のせい…?


私は前に向き直った。学園長と目があった。そして、学園長は微笑んだ。


むぅ、なんかめんどくさい事にならなければいいけど…


学園長は私から視線を外し、前に並ぶ生徒たちを見渡す。

挨拶が始まった。

形式的な話だ。


入学式では、先輩から新入生に送る言葉があったり、王国の歌を歌ったり、先輩方による剣舞を見たり、つつがなく行われた。


その中で生徒会長、風紀委員長、会計委員長の先輩の自己紹介が行われた。


生徒会長は2年生の女の子だ。

この学園、唯一の王族で、名前はシャティリア・アヒタ。

アヒタという家名は王家のものだ。

しかし、シャティリア先輩は王家の本筋の血からは遠く、王様になることはできない。

はずだった。

この話をすると長くなるんだけど、今は王様がいない。

それも、先の魔族との戦争で王様だった者は殺されてしまった。

その後継だった娘も行方不明である。娘は遺体が見つかっていないので、あくまで行方不明という形らしいけど…。

今は恒例を廃止してでも、王家の血を引くものに後継を、とシャティリア先輩にも白羽の矢が立っているらしい。


話が逸れてしまったけど、風紀委員長は今朝のリンゴコロコロ事件の時の男の先輩で、会計委員長は女の先輩だった。男の先輩は袖口が灰色のデザインになっている。一年生はそこに気づいて、ざわついた。


入学式が終わり、私はヒカリとクラス分けの掲示板を見に行く。

その時、後ろから、話しかけられる。


「キミハさん、担任のキヨルデです。このあと、すぐに学園長室に行ってもらえるかしら?」


私は後ろを振り向く。


メガネをかけた女性が立っている。

確か、入学式の教師紹介のときは1年1組の担任だと紹介されていた女性だ。


ということは私は1年1組なのかな。

とりあえず、私は入学式が終わるや否や呼び出しを喰らったようだ。


まあ、確実にさっきのやつだろう。

めんどくさいことにならなければいいけど...


「はい。わかりました」


キヨルデ先生は微笑むと人の波に消えて行った。


「ヒカリ、ごめん、私、学園長室に呼び出されちゃった」

「はい、一緒にクラス発表を見に行きたかったけど、仕方ないです…」

「一緒のクラスになれたらいいね」

「なれなくても、また、話してください」

「もちろん」


そう言うとヒカリは嬉しそうに微笑んだ。


可愛いね!


私は重い足を学園長室に向けた。

ハンター時代、キミハは度々、じじくさいことを言っていたのでおじじの脳とリュウさんに言われていました。

せめて、おばばとかもあったろうに...


次回は学園長室に行きます!

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