初めての体育祭(10)〜体育祭の裏での出来事〜
医薬品の匂いがする。
おなじみの匂いだ。
私は、目を開けた。
おなじみの天井を眺める。
もう、夜になっていた。
体育祭は無事に終わったのかな...?
「あ、キミハちゃん、おはよう」
ヒカリは軽いノリで挨拶してくる。
私が倒れることにも慣れたのだろう。
ヒカリは読んでいた教科書を閉じて、立ち上がった。
そして、アリスちゃん、呼んでくるねと言って、出て行ってしまった。
また、救護室は静かになった。
体育祭、楽しかったな...
大変だったけどね...
迷惑もかけたけどね...
ヒカリはアリスを連れて帰ってきた。
「キミハ、目覚めたのね」
「アリス、ごめんね。迷惑かけちゃって」
「いえ、キミハは、大きなことを成し遂げたのですから、謝る必要なんてないですわ」
ヒカリもアリスの横で、うんうん、と頷いてくれている。
私はいい友達を持ったね...
「ありがとう、ヒカリ、アリス」
私は2人の顔を見て、お礼を言う。
2人は嬉しそうにする。
「それで、あの後、どうなったの?」
「ええ、1年1組は第十競技で勝利を収めて、競技は優勝いたしましたわ。出店も、投票ランキングで1位になって、ダブル優勝を成し遂げましたわ!」
「うんうん!」
ヒカリはアリスの横でぴょんぴょんと飛び跳ねて、長いツインテールを揺らした。
「おお、やったね!」
「みんなの頑張りですわね!」
「うんうん!みんな頑張ったよ!」
アリスは、詳しく、私が気を失った後の話をしてくれる。
「キミハが気を失った後、私はキミハを抱えてすぐに先生方に勝負に決着がついたことを報告しました」
「ごめんね、運搬させてしまって」
私は、申し訳なさそうな顔をする。
アリスは手を振ってさらに続ける。
「いえ、この体育祭の一番輝いていた友達を介抱できて光栄でしたわ。学園長がすぐに、不可視の結界を解除しましたわ。確かに騒ぎにはなりましたけど、大きな騒動には発展しませんでしたわ」
「そっか、じゃあ、何事もなく、体育祭は終えれたの?」
「まあ、一番大変だったのは、Yu-A先輩を倒したキミハの力をどう誤魔化すかでしたね」
「それはめんどくさいことに巻き込んじゃったね...」
「そんなことは気にしないでください。結局、Yu-A先輩は魔力の限界で、魔法陣を使わない戦いになり、キミハが競り勝ったと説明しましたわ」
「うん、ごめんね、ありがとう」
アリスは聞きづらそうな顔をして、私に聞く。
「やはり、キミハは魔法陣を使えないと振る舞わないといけない理由があるのですか?魔族のこと以外に...」
私は返答に困る。
アリス、ヒカリには、魔族ということは知っている。
あの戦争から3年経った今、魔族というだけでは、極刑になったりはしないだろう...
私が本当に、隠さないといけないこと、それは、魔族国の姫であるということだ。
そして、王国の姫であるということ、これも知られてはいいけない。
少なくとも、モノノケは私の命を狙っていると思う。
魔族国の姫である私は、平民となって、身分を隠すまで、何度も命を狙われ続けた。
王国を懐柔しようとしているモノノケにとって、モノノケのことを知っている私に王国の姫という立場に返り咲かれることは都合が悪いのだ。
魔族国の姫という情報が漏れるだけで、モノノケたちの一番の標的にされてしまう可能性が高まってしまうのだ。
そうなれば、周りにいるみんなの危険性が増してしまう...
私がなかなか、口を開かなかったのでアリスが口を開いた。
「ごめんなさい、キミハ、困らせるつもりで聞いたわけではないのです。ただ、私はキミハの力になれればと思っただけで...」
「うんん、違うのアリス、単純に私は魔族ということが知られたくないの...」
私は嘘とも本当とも言えない答えを言っておく。
アリスは私の心中を悟ったのか、笑顔で返事する。
「はい、わかりましたわ。しかし、何か力になれることがあれば、なんでもおっしゃってくださいね!」
「ありがとう。そんなふうに言ってもらえて、私は幸せだよ」
私は笑顔で答える。
この笑顔は本物だ。
ヒカリも、私も力になるからと笑顔で言ってくれる。
私はありがとうと答えた。
ヒカリが私に言う。
「キミハちゃん!もうすぐ、優勝パーティーが始まるよ!」
「おお!企画だけして、準備しなくてごめん!」
私は、体育祭の幹事のアリスに優勝したら、優勝パーティーをしようと相談していたのだ。
その提案はクラス全会一致で受け入れられたのだった。
私は企画だけしといて、何も準備を手伝うことなく、今、パーティーが開催されようとしているらしい。
「キミハちゃんがいないと、始まらないから!いこ!」
ヒカリはぴょんぴょんして、私の手を引く。
私はヒカリにグイッと手を引っ張られて、ベッドから出される。
ちょ、ヒカリ、待って!
私はリボンとメガネをまだ付けていない!
「ヒカリ、タンマッ!メガネとリボン付けさせて!」
そう言うとヒカリは手を一旦離してくれた。
それでも、ヒカリの顔はウズウズしている。
当たり前のように、ベッド脇の台の上に新しいリボンとメガネが用意されていた。
用意してくれたのはおそらく、学園長だろう。
ありがとうございます。
私は心の中でお礼を言ってから、リボンを手に取る。
ちょうどそのときだった、シオリ先輩が救護室に入ってきた。
シオリ先輩のブレザーは脇腹が大きく切り裂かれ、血がついている。
私は驚いて声を上げる。
「シオリ先輩、血が!」
「ごめん、治療が終わっているから大丈夫!キミハ、目覚めてすぐで悪いんだけど、少しだけきてもらってもいいかな」
なんだろう...?
「ごめん、ヒカリ、先に、シオリ先輩のところに行ってもいいかな?」
ヒカリはすぐに、シオリ先輩の真面目な雰囲気を察してくれたようだ。
無理に、私の手を引かずに、了承してくれる。
「うん、了解。優勝パーティーは寮でやるから、きてね!」
アリスとヒカリは私に手を振って、すぐに出て行ってくれた。
シオリ先輩はついてきてと言って、すぐに出発する。
どこに?
私はとりあえず、ポニーテールは諦めて、メガネだけかけて、シオリ先輩についていく。
私はシオリ先輩に聞く。
「シオリ先輩!どこに?」
「生徒会室だよ!」
同じフロアだね...
私は、シオリ先輩についていく。
そして、生徒会室に入る。
「失礼します...」
中にはシャティー先輩とナミク先輩がいた。
シャティー先輩が私の元に来る。
「キミハ、ありがとうございました。私はあなたのおかげで...」
「いえ、私を庇ってくださってありがとうございました」
本当に私はシャティー先輩に感謝している。
もし、私があの魔法陣を喰らって、強制魔力放出なんてことになっていたら...
私の四肢は瞬く間に、引き裂かれただろう...
ナミク先輩は私の方をじろじろ見ている。
私はじろじろ見られるのも嫌なのでナミク先輩に言う。
「なんですか?私の顔になんかついてます?」
「いや、髪を下ろしている方がお前っぽいなって思ってな」
「なんですか?変態発言ですか」
「おい」
ナミク先輩は私にツッコミを入れる。
いや、本当に、変態だからね、それ...
まあ、確かに、私も風呂場でアリスたちをじろじろ見て、避けられたけどね...
都合の悪いことは忘れるに限る。
シオリ先輩が私に言う。
「キミハ、私も髪を下ろしている方がキミハっぽいと思う」
いや、私っぽいってなんですか?
シャティー先輩は私たちを呼び戻す。
「シオリ、ナミク、本題に入りましょうか」
「ああそうだな」
ナミク先輩は頷き、私たちは本題に入った。
「体育祭は無事に終了したんだが、実は裏ではちょっとした事件が起こっていたんだよ。その事件がお前にとっても無関係じゃないと結論付けたから、話しておくよ」
「はい、お願いします」
「この体育祭の開催中、第二学園の生徒がこの第一学園に入ってきていたんだ」
「他の学園の生徒は入っちゃダメなんですか?」
「いや、入るところまではいいんだ。問題はその生徒が制服ではなく、私服を着て、一般人に紛れて入ってきていたところなんだ」
「ええ、変装ではないけど、それに近いことをしていたということですか?」
「ああ、そういうことだ。明らかにおかしいだろ?別に制服で来ても咎められることはないだろう」
私たちは学園外でも制服の着用が義務付けられている。
それは、私が通う第一学園に限らず、王国にある他の学園でも共通のルールとなっている。
「はい、でも、どうして?私服だったのにその生徒が第二学園の生徒だと気づけたんですか?」
「順を追って話すよ。俺たち、委員長は警備の仕事も担当していたんだよ。体育祭の前日にも、キミハを呼び出したけど、その時はシオリはこの場にはいなかっただろう」
「はい、シオリ先輩はどこにいったんだろうって思ってました」
私は素直に思ったことをそのまま伝える。
ナミク先輩は私の言葉に頷いて、話を続ける。
「ああ、その時には、すでに異変が起きていたんだ。シオリは一定範囲にいる魔力を探索する魔法陣が得意なのだが、青の夜も警備のために念のために、探索魔法陣を起動してもらったんだ」
シオリ先輩はヒカリが誘拐された時も、その探索魔法陣を使って、探してくれた。
その甲斐もあって、すぐにヒカリを発見し、救出出来たのは記憶にも新しい。
ナミク先輩は話を続ける。
「その夜、学園の生徒でない生徒の魔力を学園内で探知したんだよ」
「学園内で忍び込んでいたということですか?」
「ああ、そういうことだ。だから、シオリはその場所に行って、確認したんだ。でも、すでに、人影はなく、その場所に何も痕跡は見つからなかったんだ」
「どのあたりで魔力を探知したんですか?」
「アリーナのあたりだよ。だから、体育祭に介入してくると考えて、俺たちも警戒していたんだ。結果的には、昨日、魔力探知をした同一人物が、俺たちの鼠取りに引っ掛かったんだ」
「シオリ先輩はその時に怪我を?」
「ああ、その生徒は俺たちに捕まりそうになった時に、自分に向けて、高攻撃力の魔法陣を放って、自決しようとしたんだ。それをシオリが庇って、大怪我をしたんだ」
「大丈夫なんですか?」
私はシオリ先輩の方を向いて、心配をする。
シオリ先輩は笑顔で答える。
「うん、大丈夫だから。治癒の魔法陣は使ってもらったけどね...」
治癒の魔法陣を使わないといけないのは大丈夫じゃないですよ...
ナミク先輩は話を続ける。
「それで、シオリの活躍もあって、第二学園の生徒を捕縛して、風紀委員会の独房で簡単だが尋問したんだ。すると、その生徒はこんなことを言うんだ。『キミハは生きてちゃダメだ。あいつは殺さないといけない。お前たちは騙されているんだ』と」
え、なんですか...
意味が分かりませんが...
私は意味がわからず、固まる。
...
...
...
画作したのが誰なのかはわかる気がする...
これは、モノノケの人たちの仕業ではないだろうか...
第十競技の明らかに変な魔法攻撃は、モノノケたちが作った設置型の魔法陣だった可能性もある...
学内に侵入できる人の力を作って、仕掛けさせたのだろうか...
不審な動きをしていたその生徒が怪しいことには怪しい...
ナミク先輩はさらに続けた。
「俺たちはキミハがそんなことをする人間ではないと分かっているから、その生徒の言葉は、その場の言い訳だと判断をしたよ。しかし、キミハの名前が出た以上、伝えておくべきだと思ってね。今日は少し、時間をもらったんだ」
シャティー先輩がさらに続ける。
「来週には、第二学園との交流戦があります。キミハには出ていただこうと考えていたのですが、このような事態ですから...」
シャティー先輩は取り下げようか迷っているようであった。
モノノケであろうが、他の者の画策であろうが、もし、私がイレギュラーの動きをすれば、また、誰か他の人が標的になるかもしれない...
でも、私が交流戦という多くの観客の目がつく場所で試合をすれば、その観客を危険に巻き込むかもしれない...
いや、もしモノノケが、今回のような設置型の魔法陣を仕掛けてくるとするならば、私がイレギュラーな動きをする方がまずい気がする。
私のために仕掛けられた魔法陣が違う形で、今回のように起動して、私ではない人が被害を被るかもしれない。
それなら、私が死のうとも私が受けた方がマシだ。
「シャティー先輩、私は出場させていただけるなら、謹んでお受けいたしますので」
「しかし...」
「大丈夫ですから、私を出場させてください!」
「そこまでいうのでしたら...私もしっかりとキミハを守りますわ」
私は、先輩方を含め、学園の平和を守るんだ...
一応、確認しておいた方がいいかな...
その生徒を...
もしかしたら、カナフィルディア伯爵のように何かの魔法陣で操られた可能性が高い...
ならば、その生徒も助けないと...
優勝パーティーは、企画者のキミハがいないままに準備されたようです!
次回は、捕縛された生徒を助けられるか、魔剣で試します。
その後、優勝パーティーに向かいます!




