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初めての体育祭(6)〜波乱の借り物競走〜

私は第一競技を第1位でゴールし、係の先生から、1位の印として、金色のメダルを10枚貰った。

1位が10枚、2位が5枚、3位が1枚だ。

40クラスも参加しているのに、1位から3位までしか金色のメダルはもらえない。


なかなか、厳しいよね。


このメダルには用途がある。

アリーナの中央で七色の炎が螺旋状に天に向かって燃えている。

その炎に投げ入れるのだ。

そうすると、ポイントが集計されていくのだ。


私は10枚のメダルを投げ入れる。

すると、七色の炎は炎の威力を強めた。


おおお!すごい!


シャティー先輩とYu-A先輩も投げ入れると、炎が変化する。

アリーナの中央の天井付近に大きなクラスの旗が現れた。

中央の一番高いところに、1年1組のクラスの旗が。

二番目に高いところに2年1組、三番目の高いところに3年1組だ。


「一番人気は、1年1組か!」


Yu-A先輩が隣でそう言う。


私は心の中で違います、とツッコミを入れておく。

シャティー先輩も顔から察するに、ツッコミを入れている。


1年1組の旗は、ウサギをモチーフに作った。

この旗を作成するときのデザイン決めで、アリスが、ウサギがいいの一点張り、でウサギになったのだ。

まあ、ウサギは、私とアリスの思い出の動物でもあるけどさ...

可愛い出来になっているし、デザインも悪くない!


2年1組の旗は、銀色の天使と金色の天使のシルエットがメインのデザインとなっている。

おそらく、シャティー先輩とシオリ先輩をイメージしたんだろうね。


3年1組の旗は、Yu-A先輩の肖像画だ。

みんな、崇めているんだね...

ハハハ...

Yu-A先輩の性格は憎めない性格だよね。

ネジは飛んでるけど、人気はあるのだろう。


とりあえず、第一競技で倒れたクラスメイトを救護しないと...

見渡してみるが、一通りの治療も終わって、倒れている人はもういない。

脱落組の大移動が、始まっている。


私は一旦、先輩方と別れた。


後ろから、声をかけられる。


「キミハちゃん!お疲れ!」

「ヒカリ!ヒカリもお疲れ!」

「うん、1位になれたね!」

「みんなのおかげさまだよ」

「なんか、凄かったね!」

「うん、凄かった!」


アリスとナルとローラも合流する。


「はあ、疲れました〜」


そうナルが言った。

それにローラが相打ちを打つ。


「いや、こんなにも、他のFC(ファンクラブ)と協力できたのは初めてでした。やはり、主人に奉公するんだっていう忠誠心が、みんなを団結させたのでしょうか」


そんなので団結しないでって言いたいけど、その団結力に助けられたのは確かだ。


「ええ、ナルとローラのいつものアホな活動がこんなにも、役に立つとは思いませんでしたわ」


アリスはそんなことを言う。


いや、それ、褒めているように見えて、褒めてないよね!


ナルは反論する。


「アリス、私たちの活動を侮辱してはいけません!それはキミハがアホと言われているようで我慢なりません。そこは活動ではなく、私がアホだと罵ってください!」


いや、ナル、それもどうなの?

それに、私は、すでにこの前の決闘の時にアリスに面と向かって、アホアホ言われている...


ローラもその話に入ってくる。


「そうです!私たちは知能の全てをキミハに捧げているのです。キミハ以外の事を考えては脳のリソースの無駄なのです!アホは私だけなのです!」


もう、怖いよ!

この人たち!

何を言っているのか理解ができないよ!


ヒカリがまとめてくれる。


「キミハちゃん!人気者だね!」


うん♪

そうだね♪

怖いけどね♪


ヒカリの言葉に私はハハハ、と苦笑いをする。


こんな事を話していると、アナウンスが入る。


『第二競技に出場する選手は集まってください!』


「あ、行かなきゃ!」

「キミハちゃん、ファイト!」

「うん、がんばってくる!」


アリスたちも応援してくれた。

私は、握り拳で声援に答えて、アリーナ前方のスタート地点に急いだ。


スタート地点の人数は、10人ほどまで減っていた。

全滅したクラスが、30クラスほどあるということだろう...

1年生は1組以外は全滅したみたいだ。


恐ろしい体育祭だよ、本当に...


スタート地点に見知った人を見つけた。

ちょうど、目があった。

私は気づかないフリをして、目を逸らす。

目があった人物はこっちに歩いてくる。


「おい、目、逸らすなよ」

「あ、ナミク先輩じゃないですか!」


私はいかにも、今、初めて見つけたという演技をする。

ナミク先輩は、私の顔真似をして、ツッコミを入れてくれる。


「あ、ナミク先輩じゃないですか!じゃ、ねーよ!なんで、目を逸らすんだよ」

「なんで、ですか?話したくないから、ですか?」

「おい、そっちを取り繕えよ!」

「めんどくさいので遠慮しておきます」

「めんどくさがるな!」


ああ、でも、さっきは助けてもらったし、お礼は言うべきだろう。


「一応、さっきのお礼を言っておきます。ありがとうございました。おかげさまでナミク先輩の2年1組をくだして、首位に立つことができました」


私はそっぽを向いたまま、そのように言った。


「お前な、お礼くらい、素直に言えよ」

「私の名前はお前じゃありませーん」


私はそっぽを向いてナミク先輩から離れていく。


「おい、キミハ」

「名前で呼ばないでくださーい」

「じゃあ、どうやって呼んで欲しいんだよ」

「呼ばないでくださーい」


私はさっさと歩く。


「なんで、逃げるんだよ!」


ナミク先輩は私の肩を掴んで静止させる。


「なんですか?」

「なんで、逃げるんだよ?」

「わかりませんけど、ナミク先輩と話していると、なんだかいつも通り会話ができなくなるんです!」

「なんだよ?それ」

「知りません!ナミク先輩、なんか変な魔力でも飛ばしているんじゃないですか?」

「お前な...」


前から学園長の声が聞こえる。


「みんな、位置についてください!」


他の生徒はスタートラインに並び始める。


「ほら行くぞ」


私はナミク先輩に腕を掴まれて、スタートラインに連れて行かれる。


優しいのに、地味に乱暴だよね、この人...


って、どうでもいいこと考えてないで集中だ。


この借り物競争はさっきのように、闘技場をぐるっと回るのではなく、闘技場の中心に向かって走る。

そして、準備された机の上の借り物が書かれた紙を、早いもの順に選んでいく。


まあ、早く走れば、その分、借り物をする時間も増えるから、有利といえば有利だが、そこまで大きな差にはならないと思う。


この競技は、ルール上、競技者以外がブレスレットを奪ってはいけない。

しかし、競技者同士でブローチは破壊してもいいし、ブレスレットを奪ってもいい。

借り物の条件が悪ければ、相手の紙を奪おうと強行手段に出る生徒もいるだろう。


私はブレスレットも持っているから、気をつけないと...

まあ、隣にいるこの人もブレスレットを持っているから、是非ともそっちを狙って欲しいものだ。

同盟中だから、ナミク先輩は味方だ...


ち、奪って、一泡吹かせてやりたかったのに...


「おい、今、悪いこと考えただろ」

「もう、そんなこと、気づかなくていいです!」


『位置について、用意』


ドオオオオン!


過激な学園長のスタートの合図とともにスタートした。


上級生たちは、身体強化の魔法陣と加速の魔法陣を重ねがけして、一気に紙を取りに行った。

私は、魔法陣を使わずにできる限りのスピードで走る。


そして、横にもう1人。


「ああ、遅いな〜」


ナミク先輩は、身体強化の魔法陣だけ使い、私のスピードに合わせてくる。


「先に行けばいいじゃないですか!」

「同盟中のやつ、置いていけねーだろーが!早く走れ!」

「むう、ひどい!」


言い合いをしながら、私たちは中央にたどり着く。


紙はどこかな?

あそこにあった!


私は机の端っこにあった紙を手に取る。

4つ折りの紙に書かれていた、私の借り物は...


『彼氏』


ななな!

よりによって...

こんな、真っピンクな縁もゆかりもないやつをとってしまうなんて!


ちょ、これ、私が取っても、観客が盛り上がらないやつじゃん!

何をしてるの、私!

バカあああああ!


せめて『彼女』だったら、ヒカリを連れて行って、ごまかせたのに...

よりによって、異性はハードルが高すぎるよ!


「おい、お前の借り物は何だ?」


ナミク先輩は私の紙を覗き込もうとする。

私は素早く4つ折りにして、隠す。


「なんで、隠すんだよ?」

「いいじゃないですか!ナミク先輩に見せないといけない義務でもあるんですか?」

「いや、ないけど、俺の借り物、これなんだよ」


ナミク先輩は私に借り物の紙を見せてくる。


『リボン』


「俺もお前の借り物に協力してやるから、そのリボンを貸してくれ」


このリボンはお守りだ。

解いて渡すわけにはいかない。


「このリボンは、お守りなんです。リボンだけは貸せません!」

「じゃあ、お前ごと、借りるから、貸してくれ」


ナミク先輩にはなんやかんやお世話になっているので借りられてあげることにする。


「はあ、わかりましたよ、私ごと、借りてください」

「おう、助かる。で、お前の借り物はなんなんだよ。その紙、見せろよ」

「むぅ!見ても笑わないでくださいよ」

「笑わねーよ」

「本当に本当ですか?」

「本当の本当だよ、早く見せろよ。他のクラスに負けるぞ」


私は渋々、4つ折りに封印した紙を開いて、ナミク先輩に、赤くなりながら見せる。


「ハハハハハ」


大きな笑い声が聞こえる。


「笑わないって言ったのに!」

「よりによって、こういう系の紙をお前が掴むなんて、なんて神様は意地悪なんだよ」


そう言って、さらに大笑いしている。

もう、そのツッコミは自分でやったから!

神様も恨みまくったから!


「じゃあ、ナミク先輩が今度は私に借りられてください!」

「俺でいいのかよ?彼氏だぞ」


私はバカにしてくるナミク先輩にムカついて、他に探しに行こうとする。

そんな私の腕を掴んで、静止する。


「ごめん、悪かったって、俺をお前に貸してやるから、許してくれ」

「本当にごめんって思ってます?」

「ああ、思ってる!思ってる!」

「絶対、思ってない!」

「早く行くぞ!」


ナミク先輩は、私の腕を掴んだまま、ゴールに向かって、走り出す。


むぅ、相変わらず、強引!

なんか、私が駄々をこねて話をややこしくしたんだろ?みたいなスタンスが解せぬ!

ムカつく!


私は怒りなのか、周りが見えなくなっていた。


そんな時にタイミング悪く魔法攻撃が、後方から飛んでくる。

私は気付いていない。


ナミク先輩がいきなり、抱き寄せる。


え!


「何を...」


私の横すれすれを、魔法攻撃が通過した。


「油断しすぎだぞ!」


え、なんか、かっこいいのこの人...?


「はい、庇っていただいてありがとうございます...」


ナミク先輩は私にドヤ顔をする。


むぅ、ムカつく!

ちょっと、かっこいいと思ってしまった私の乙女心を返せーーー!


そんなこんなで、ゴールも目前だ。

これはナミク先輩とワンツーフィニッシュできるのではないだろうか。


私たちは闘技場の中央の机まで走って引き返してきただけなので、移動距離は最短だと思う。

そんな事を考えていたら、後ろから大群の音が聞こえる。


何、この足音?


見てみるとYu-A先輩が、大量の自分のファンクラブメンバーを引き連れて、走ってきている。


なに事?


Yu-A先輩の声が聞こえてくる。


「みんなは私にとって、『一番大切なもの』だから!ファンクラブのみんながいなければ私はアイドルとしてやっていけないから!一人一人、みんな、大切だから!誰一人も欠けてはダメ!みんなでゴールするのよ!」

「「「おおおお!Yu-A様、一生ついて行きます!」」」


すっごい、暑苦しい集団きたーーー!


暑苦しいとか、言うのはダメだね!

それは悪口だ。

偏見だ。

言い直そう!


すっごい、好きなものに一途な軍団がきたーーー!


「おい、キミハ、さっさと、ゴールするぞ、巻き込まれるぞ」

「うん...」


不意に名前を呼ばないで欲しいよ...


私は結局、一位でフィニッシュした。

二位にナミク先輩、三位にYu-A先輩となった。


総合順位は変わらずだ。


順調だね!このまま、優勝できたらいいね!


私は先生から、10枚のメダルを受け取って、七色の炎に投げ入れた。

七色の炎は、豪快に燃えて、私たちの第二競技の一位を祝福してくれた。

次回、キミハは出店の方に休憩をしに行きます!

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