初めての体育祭(4)〜体育祭前夜〜
時は流れを止めない。
体育祭は明日に迫っていた。
それも時刻はすでに午後9時。
今は1年1組のクラスルームで看板の仕上げの最中だ。
予定では三日前ぐらいに終わっているはずだったんだけど、まだ終わっていない。
予定は遅れるものだよね。
出店の看板なんだけど、私、普通に絵を描くだけかと思っていたよ。
違うかったみたいだ。
料理人の格好をした可愛いウサギが看板から立体に飛び出して、魔力で右左に揺れる仕組みになっている。
その横で立体のピザがグルグル回っている。
なんか、看板を販売したら、売れそうだね。
非売品だろうけど...
「ヒカリ?あとどれくらいかかりそう?」
「うーん、あと3時間くらいかなあ。一旦、絵具を乾かしてから、細工したいところがまだあるの」
「そっか、私、寮に戻って、みんなの夜食を持ってくるよ」
「キミハちゃん、ありがとう!」
「うん、これくらいは!」
私はクラスルームを出て、寮に向かおうと1年生の校舎内を駆ける。
階段を下りていると、珍しい人物と出会う。
「あ!」
私は話すのがめんどくさいので、気づいて声が出たがそっぽを向いて寮に向かう。
「おい!」
ナミク先輩がそう言って、私の肩を掴む。
「なんですか?私が可愛いからって襲うんですか?」
私は目をパチパチして、できる限り可愛い動作で聞いてみた。
「俺はどうせ襲うなら、もっと可愛い子を襲うよ」
「わあ、ひどい!ナミク先輩、絶対彼女とかいないでしょ」
私はジト目をしながらナミク先輩に聞く。
「そういうお前もな!」
いないんですね。
図星ですね。
「で、なんですか?1年生の校舎まで私の嫌味でも言いにきたんですか」
「ああ、嫌味の次いでに、少し話したいことがあって来た」
優先順位が逆ではないかな?
「どうぞ、お話ください、ナミク様」
私はめんどくさいから早く話せと言わんばかりの態度で丁寧な所作をしてそう言う。
私は執事っぽく、右手を胸の前に持って来て、軽く頭を下げて、待機する。
「ここじゃ、まずいから、生徒会室まで一旦、来てくれ」
そう言って、空いている私の左手を掴んで、私を先導する。
ちょ!いきなり!手をつなぐなーーー!
私は鼓動が高まる。
「ナミク先輩、その...手をつなぐの...恥ずかしいんですけど...」
私は真っ赤になる。
ナミク先輩は今日一番の笑みを浮かべる。
「お前も、可愛いところあるんだな。いつもそうやっておけよ。モテるぞ」
お前って言うなぁ!
可愛いって言われた...
「手を離して...」
私は先導されている繋がれた左手をブンブン、力なく振る。
しかし、力が入らなさすぎて、到底、解けない。
「はあ、仕方ないな」
私はその言葉に、ほっとする。
ナミク先輩は私の元によってくる。
「へ?」
ヨッと言って、私をお姫様抱っこにする。
ななな!なんでーーー!
ナミク先輩はすました顔で、私を運んでいく。
私の心臓は弾けそうになる。
「ちょ、ナミク先輩...」
「手は解いてやったぞ」
「グ、グレードアップして...どうするんですか...」
「嫌なのか?」
私はナミク先輩のその質問にすぐに答えられなかった。
私は、真っ赤だった顔がだんだんいつも通りの色になっていき、考えるモードに移行する。
嫌なのかな?
嫌じゃないのかな?
わからない...
ナミク先輩は考えこむ私にそっと笑い、生徒会室にそのまま運んでくれた。
「あら、いらっしゃい、キミハ、いえ、キミハ姫かな?」
生徒会室に入るや否やシャティー先輩に茶化されて、また顔が真っ赤になる。
私はおろしてー、とナミク先輩の胸をポコポコ叩く。
ナミク先輩はおろしてくれる。
私はいつもの調子に戻り、ナミク先輩を睨む。
「凶暴なキミハに戻ったな」
「ナミク先輩、嫌いです!」
私はむぅ、と口を尖らせる。
ナミク先輩は笑う。
「で、話ってなんですか?」
ナミク先輩を睨みながら、言う。
ナミク先輩は真面目な顔になる。
「ああ、明日の体育祭の話だ」
私も真面目な顔になって聞き返す。
「体育祭で何か起こるのですか?」
「キミハ、座って話しましょう」
シャティー先輩は私に椅子を勧める。
私はソファのような椅子にモフッと座った。
「キミハ、単刀直入に言うわね」
「はい...」
シャティー先輩の真剣な眼差しに唾を飲み込む。
ゴクリンコ。
「競技で協定を結ばない?」
「へ?」
私は魔物が出る!
とか、モノノケが攻めてくる!
とか、娘を溺愛した親たちが競技に乱入してくる!
とか...
そんな感じのを期待していたので、思わず変な声を出してしまう。
「おい、キミハに戻れ」
ナミク先輩が下界に呼び戻す。
私は下界に帰ってくる。
「はい、協定とは?」
「ええ、説明するわね。今現在、委員のブレスレットを持っているのは、1年1組と2年1組、3年1組というのは知っているかしら」
うん、逆にシャティー先輩は物知りだね。
1年生のブレスレットを私がまとめて預かることになったのは2週間前の話だ。
シャティー先輩にも情報が伝わっているんだね。
「はい、知っています」
「話が早くて助かるわ。そこでなんだけど、2年1組と組んでくれないかしら」
「不戦協定を結ぶということですか?」
「ええ、不戦と同時にお互いのブレスレットが危険な時に守りあう協力もしたいわ」
「どうして、1年1組と協定を結ぼうとするんですか?3年1組の方が...」
その答えはナミク先輩がくれる。
「3年1組のあいつは、そんなの守るタイプじゃないからだな」
あいつって...
Yu-A先輩のことだよね?
一応先輩だよね?
シャティー先輩がナミク先輩に私の心を代弁してくれる。
「ナミクくん、一応、先輩だからね。去年は協定を結ぼうとナミクくんがね、お願いしにいったんだよ、そしたらね...」
シャティー先輩が去年のナミク先輩とYu-A先輩の小噺を聞かせてくれる。
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「Yu-A先輩、お時間、よろしいですか?」
「うん、どうしたの?君はナミクくんだったかな」
「はい」
「聞いたよ、1年1組の快進撃。1年生の委員のブレスレットを片っ端から、奪っているって、なーに?私のも奪いに来たの?」
Yu-A先輩は左手のブレスレットをジャラジャラとナミク先輩に見せつける。
「いえ、体育祭の時に一緒に協定を結んで、ブレスレットを奪ってくる相手から守り合いができればと思いまして」
「えーー、それじゃあ、面白くないよ!」
「面白くないとは?」
「これはね、一種の人気投票なんだよ!私を慕ってくれる人は、何も言わなくてもどのクラスであろうが守ってくれるの!もちろん、私だって、簡単に取らせる気はないけどさ!そう、ブレスレットを最後まで守り切った生徒がこの学園で一番のアイドルなんだよ!」
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ハハハ、人気投票って...
「それで、ナミクくん、意味がわからないと言って、帰ってきたのよね」
私、初めて、ナミク先輩と息があった気がするよ。
「じゃあ、シャティーは分かるのかよ?」
ナミク先輩がシャティー先輩に聞く。
「まあ、私はアイドルではないので...でも、思うことはありますよ、自ら進んで我が身を持って守ってくれるそんな人がいたら幸せな気分になれるだろうな、とは」
シャティー先輩は乙女チックな目になっている。
でも、それは同感かもしれない。
さっきのナミク先輩とした話じゃないけど、そんな人を私は是非とも彼氏にしたい。
まあ、彼氏とか、思い人とか、今はどうでもいいんだけどね。
ナミク先輩は脱線した話を戻し、話をまとめる。
「だから、1年1組と組んでおきたいんだよ。Yu-Aはマジでやばいから。シャレにならないほど強い。そんなYu-Aとお前を敵に回したくない。お前の魔力解放した強さは次元が遥かに違うからな」
「それは褒め言葉ですか?」
私は意地悪い、笑みをしてナミク先輩に尋ねる。
「ああ、お前の強さはずっと前から認めているよ」
私は予想外に素直に認められて、少し恥ずかしくなる。
面と向かって、そうやって、認めてもらのは気恥ずかしいんんだけど...
それにずっと...?
「どうだ、協定を組むか?」
「具体的にはどうやって組むんですか?ブレスレットを預ければいいんですか?」
「いや、互いにブレスレットを持ったまま、守り合う感じで戦うんだよ」
まあ、面倒なことが少なくなるならいいかな...
「わかりました。不戦協定ってことで」
「キミハ、ありがとう!」
「でも、第十競技はどうするんですか?」
「おそらくYu-A先輩が残るでしょうから、Yu-A先輩を協力して倒しましょう。その後、タイムアップでポイント山分けというのはどうでしょうか?」
「はい、わかりました。そのようにクラスにも伝えておきます」
「ええ、では、第一競技が始まったら、ブレスレットをつけた左手をこんな感じでグッとやってくださいませ」
シャティー先輩は、左手で拳を作って、顔の前に持ってきてノックする感じに手を振る。
「この拳と拳を合わせる動作は協定関係を表します」
「わかりました。第一競技はシャティー先輩が出場ですか?」
「はい、私です。よろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
私は生徒会室を後にして、急いで寮に戻る。
「あ、キミハ、おかえり」
「ただいま」
アリスがちょうど、エントランスでゆっくりしていた。
「ヒカリたちはどう、終わりそうだった?」
「うん、佳境かな。もう少し時間がかかるみたい。夜食を持っていってあげようと思って」
「晩ご飯、どうしようか迷っていたのですよ」
今日はアリスがご飯当番だからだ。
「私たちもクラスルームで看板組と一緒にご飯にしよっか」
「そうですわね」
私たちは寮のキッチンにある一番大きな鍋で、コンソメの野菜スープを作る。
「あ、そうですわ、忘れるところでした。先ほど、タバルさんが来てくださって、差し入れと言って、大量のパンを届けてくださいました。こちらを持っていきましょうか?」
アリスは思い出したように、エントランスに戻って、その隅に置いていた大きなバスケットを持ってくる。
中には小さなパンが数種類、数十個入っていた。
「そうだね。明日も食べる時間があるか分からないし、持っていこっか」
パンはできてすぐに食べた方がおいしいからね!
私はクラスルームに持って行こうとキッチンのコンロの上から大きなお鍋を持ち上げようとする。
ぐぬぬ...
だが、持ち上がらない。
重い...
それを見たアリスが私に言う。
「キミハ、私がスープを持っていきますわ」
アリスは身体強化の魔法陣を起動して、大きな鍋を軽々持つ。
こういう時、魔法陣が使えないのは不便だよね...
私はアリスがおいた、大きなバスケットとスープを入れるための紙のお皿を持つ。
そして、アリスとともにクラスルームに向かって歩き出す。
アリスと私はふと、空を見上げる。
「ここは星が綺麗に見えますのね」
「そうだね、森の中は、明かりが少ないからね。でも、私が住んでいた農村だったら、もっと綺麗に星が見えるよ」
「そうなんですか?」
「うん、全くと言っていいほど、灯りがないからね」
「キミハの住む村に行ってみたいですわ」
「夏休みとか長い休みになったら、招待しようか?」
「はい!是非、よろしくお願いします!」
アリスはすごく嬉しそうな顔をする。
まあ、何もないところだけどね...
私たちはアリスが纏っている魔力の波動のおかげで暗い森の中をスイスイ進む。
魔力はこうやって、ぼんやり辺りを照らすのがいいよね。
私たちはクラスルームにたどり着いた。
「ヒカリ、みんなも!夜食、持ってきたよ」
「「「ありがとう〜」」」
みんなはそう言って、お腹すいた〜、と言いながら寄ってくる。
ナルとかローラがいなくてよかったよ。
いたら、毎回、大騒ぎだからね。
アリスはみんなにスープを装ってあげる。
私はパンを管理する管理人になる。
まあ、見てるだけだけどね...
一通り、装い終わり、私たちもご飯にする。
ヒカリも私たちのところに寄ってきた。
「看板、すごいですわね。まさか立体で動くアートにするとは思いもしませんでしたわ」
アリスがヒカリにそう言う。
「私もいつもは、立体アートなんか作らないんだけど、魔力でいろんな形を作る練習をしていたら、看板も立体にしようってなったの。そのおかげで前日の夜になっても準備が終わってないけどね」
「そっか。そういえば、ヒカリは、第4競技の魔力アートに出るために練習していたんだっけ」
私はヒカリの出る競技を思い出しながら聞く。
「うん、と言っても、魔法陣改変よりも魔力変形の方が簡単すぎて、すぐに形になったけどね」
「ヒカリは、天才芸術魔法陣使いですわね」
アリスがヒカリにそう言う。
「私は王国一の”王国一の絵が上手くなって、人々を幸せにできて、楽しませて、魔法陣を使った戦闘も強い画家”になりたいと願う画家だからね」
「てんこ盛りですわね」
「てんこ盛りだね」
いつかの私の失言をこうやって、ヒカリはテンプレートにして、日々、研鑽しているみたいだ。
「あ、忘れるところだった。さっき、シャティー先輩と話して、不戦協定を結ぶことにしたよ」
私はクラスの部隊隊長のアリスにさっきのシャティー先輩との話を伝える。
「ええ、本当ですか?よく承諾してもらえましたね」
「うんん、向こうからお願いされた。Yu-A先輩とお前を敵にするのはごめんだってナミク先輩に言われた」
「キミハは上級生からもかなりマークされてますのね...しかし、これで私たちはさらに優勝できる確率が跳ね上がりましたよ!お膳立ては整いましたわ!でも、この話は、来る時まで黙っておきましょう。同じクラスでも誰が味方か敵か体育祭まではわかりませんから!」
まあ、確かにYu-A先輩の人気投票の話じゃないけど、実際に守りたい人がいたら、その人を守る生徒も出てくるかもしれない...
私は明日の体育祭を楽しみに寮に戻ることにした。
次回は、波乱の体育祭が開幕します!




