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初めての祝勝会

私は、寮にたどり着く。


いろいろ疲れたよ、今日は...


私は寮の大きな扉に手をかけようとして、一旦止めて、後ろを向く。

そして、空を見上げる。


先ほど、魔法陣に防御機能を追加したためか、魔法陣は所々、輝いている。

空の星と合わさって、いつもよりも、夜空が煌めいている。


これからも、この王国のみんなに幸せを届けられますように!


私は星たちに願った。


さて、帰りますか!私の家に!


私は振り返って、寮の扉を開けた。


「ただいま〜!」

「おかえり、キミハちゃん!」


ヒカリがキッチンからエントランスに飛び出してきて、出迎えてくれる。


ん?ヒカリ以外に人の気配がある?


「アリスももう来てるの?」

「うんん、アリスちゃんはまだだよ」

「え、じゃあ、誰が?」

「えっとね...」


ヒカリが答えるよりも先に、私の質問の答えの人物がキッチンから顔を出す。


「おかえり、キミハちゃん!」


私は驚く。そこにいたのは、アルバイト先のパン屋のおばちゃんのタバルさんだった。


「ええ、タバルさん!ごめんなさい、今日も明日もアルバイトをお休みしちゃって」

「何を謝っているんだい、友達の一大事をほっとく方が私は怒るよ。ヒカリちゃんから、話は細かく教えてもらったよ!」


私はヒカリの方を向く。


「キミハちゃん、怒らないで!キミハちゃんももっと、タバルさんに説明したらいいのに!」


ヒカリはむぅ、と口を尖らせる。


私はいつも休む時は、どうしても外せない用事があって休みたいです、とお願いしている。

理由を細かくはあまり言わない。

だって、王国と決闘しますなんて言ったら、タバルさんが卒倒してしまうかもしれないじゃん!

まあ、そこまでは弱くないと思うけど、お世話になっているタバルさんに心配を極力させたくない。


「ヒカリ、怒ってないから、口を尖らせないで。いつもありがとうね、タバルさんに教えてくれて」

「うん!」

「タバルさん、ごめんなさい、いつも、説明不足で」

「いいや、気にしてないよ。キミハちゃんが休む時は大概、人のためだからね」

「そう言ってもらえると、助かります」


そんなことを話していると、キッチンからとてもいい匂いがしてくる。

キッチンから、もう1人、出てくる。

グリードさんだ。


「キミハちゃん、祝勝会をすると聞いたから、そこのオーブンでピザを焼いたんだよ」

「わあ、ありがとうございます」


この前、自分たちでピザを作ったけど、クオリティが段違いだ。

お肉と茶色いソースが載っている。


「もう一枚、焼いているから、友達と一緒に、食べなさい」

「グリードさん、美味しくいただきます!」


グリードさんは、優しく笑って、キッチンに戻っていく。


グリードさんはもう一枚、エントランスのテーブルに持ってきてくれて、タバルさんとともに、パン屋に帰って行った。

入れ替わりで、アリスがやってくる。


「ごめんなさい、遅くなりました」

「うんん、今、ちょうど、祝勝会の準備をしていたところだよ」


私は答える。

アリスの方を見ると、大きなカバンを持ってきている。


「ん?アリス、今日はここで泊まるの?」

「泊まるは泊まるのですが...」

「ですが...?」

「私、この寮に移動することにしまして、これから、よろしくお願いします」


そう言って、頭を下げる。

私はアリスの言葉に驚く。

ヒカリも私の隣で驚いている。


「ええっ!アリスは家通いだったけど、最近は、身の安全のために貴族の女子寮にお世話になっていたよね?」

「はい、そうだったのですが、本格的に寮から学園に通うことになったので、こちらの寮にお世話になりたくて」

「私はいいけど、周りは反対しなかったの?」

「いえ、学年序列1位のキミハと3位のヒカリのいるの寮だったら、安全だねって賛成してくれました」


まあ、確かに安全度で言えば、この寮は貴族の女子寮よりも安全なのかもしれない。


「これからよろしくね」

「アリスちゃん、よろしく!」

「はい、よろしくお願いします」


私は、アリスの部屋を確認する。


「アリスの部屋の割り当ては?」

「203ですね」

「じゃあ、私の隣だね。とりあえず、荷物置きがてら、二階に行こっか」

「はい」


とりあえず、ピザをエントランスの机に放置して、私たちは寮の二階に向かう。

二階の部屋は、左手の手前から、ヒカリ、私、アリスの順に並んでいる。


私は203のドアを開ける。

ホコリが舞い上がって、思わず、咳が出た。


「そういえば、ここの掃除はしていなかったね」


私の言葉にヒカリが反応する。


「うん、していなかったね、アリスちゃん、とりあえず、今日は私の部屋で寝ない?」

「いいんですか?」

「うん、もちろん。キミハちゃんも一緒にね」

「いや、流石にベッドが狭いよ!」


私の答えが予想と反する答えで、ヒカリはむぅ、と口を尖らせる。


この子、ずるい!

もう、仕方ない!


「もう、わかったから、ヒカリ、今日は一緒にみんなでヒカリの部屋で寝るってことで」


ヒカリはエンジェルスマイルになる。


いや、本当に狭いからね。

寝返り打てないからね...


アリスの荷物は一旦、ヒカリの部屋に置くことになった。


私たちは一階のエントランスに戻ってくる。


「さて、祝勝会でも始めますか」


まあ、祝勝会と言っても、晩ご飯を食べるだけだけどね。

私たちは、祝勝会を始める。

ジュースで乾杯だ。

そして、ピザに手をつけようとする。

その時、私たちは気づく。


「「「冷めてる!」」」


ピザを放置しすぎたのだ。

これでは、美味しさ半減だ。

すると、ヒカリが、声を上げる。


「ここは私に任せて」


今から、いつも通り、ヒカリの魔法陣イリュージョンが始まるのだろう。

ヒカリは、右手の手のひらの上にファイアボールの魔法陣を詠唱して、小さな魔法陣を描く。

そして、魔力を込めて、ファイアボールを出現させる。

そのファイアボールを左手で上から押しつぶし、ファイアペーパーを作る。

ファイアペーパーをピザの下に敷く。

これで簡易の保温プレートの完成だ。


「何度、見ても、驚くよ」

「キミハちゃんもできるんじゃないの?」

「ヒカリ、それは、王国中探しても、ヒカリしか使えないよ」

「ええ、これ、本当は難しいこと!?」

「難しい以前の問題だよ」


私とヒカリの会話にアリスが入ってくる。


「そういえば、ヒカリ、騎士団長との決闘でも、自由自在にライトニングレーザーを変形させてましたわよね?」

「うん!そういえば、その時も騎士団長さんに言われたよ!こんな魔法陣使いは一度も見たことがないって」

「私も初めて見た時、驚きましたから」


私も驚いたよ...

そんな魔法陣使いが溢れてしまっては世界の秩序もへったくれもなくなってしまう。

魔法陣体系がしっかりしてるからこそ、今の王国があるからね...


私は言う。


「ヒカリ、かなり、騎士団長を追い詰めていたからね。次やったら、勝てるんじゃない?」

「うーん、勝てるかは分からないけど、また、新しい作戦は思いついたよ!」


ヒカリさん、まだまだ強くなりそうだね...


私は今度はアリスに話を振る。


「決闘中も話したけど、アリスもかなり剣の練度が上がっていたよ。私もしっかり努力していたつもりだったから、差が縮んでいて悔しかったよ」

「ええ、でも、負けてしまいましたわ。それに、魔法陣を開放していない状態のキミハに手も足も出ないと、私、少し、自信を無くしてしまいますわ」


アリスは落ち込んだ顔を見せる。


「アリスの自身を奪った私が言うのはあれだけどさ、初めからゴールを目指して走るのは疲れるものだよ。一歩ずつ、近いゴールを設定して、走り抜けた方がいいと思うよ。私もそうだったから...」

「キミハも、自信を無くしたり、したことがあるんですか?」

「うん、そんなの、今でもだよ」

「お話を聞かせていただいても?」

「まあ、隠すことでもないからね。一番初めに、悔しいと思ったのは、小さい時かな。私にね、魔法陣を教えてくれていた人がいたんだけど、その人は三重魔法陣使いだったんだよ。私は当時、一重魔法陣使いだったからね。何度も何度も多重魔法陣の練習をしたかなあ。その時もいきなり三重魔法陣、二重魔法陣を起動しようと思ったわけじゃなくて、一重魔法陣と二個目の魔法陣の4分の1だけ魔力を込める練習だけを始めたかなあ。で、それができたら、二個目の魔法陣を2分の1だけ魔力を込める練習をしたなあ」

「キミハでも、魔法陣で悔しい思いをなさったことがあるんですね」

「うん、もちろん」

「しかし、キミハは小さい頃から、魔法陣を習っていたんですね。その言いにくいですが、キミハは平民なので...」

「ああ、確かに、王国では、少し値の張るお金を払って、魔法陣の先生を雇うからね。魔族国はその辺が違うかな。近所のおじさんとかに教えて〜って言ったら教えてくれる感じだよ」


実際に私は側仕えのセレスに教えてもらったんだけどね。

でも、さっきの話も嘘ではなくて、魔族国の下町の子供たちはそうやって生活に必要な魔法陣を習得していくんだよ。


「魔族国では魔法陣を使いこなしている人がほとんどということですか?」

「そうだね。全員、生活に必要な魔法陣は簡単に使えるレベルだったね」


ヒカリが興味津々に聞いてくる。


「え、キミハちゃん、魔族国では、供給式の生活用品とかは無かったの?」

「そうだね、全くなかったね。だから、魔族国に旅行に来て、魔法陣が使えない人とかは、魔法陣使いを雇っていたかな。魔族国では、魔法陣使いを貸す観光業とかも盛んだったね」

「へ〜、そうなんだね」


私はアリスの方に向き直って、話を戻す。


「うん、魔族国は魔法陣がそれだけ馴染んでいたんだよ。まあ、魔族国の話はおいといて、話を戻すけど、だから、アリスも少しずつ、レベルアップしていけばいいんだよ」

「先ほどは話を折って、ごめんなさい。ありがとうございます、キミハ。また、日々の鍛錬に精が出ますわ」

「それに、アリス、無詠唱で使える魔法陣があるだけで、常人以上の努力をしているんだよ」

「無詠唱は練習すれば出来るんじゃないですの?」

「まあ、簡単にいえば練習すれば出来ると言えるかもしれないけど...アリスはなぜ、魔法陣が無詠唱で起動できるか知っている?」

「いえ、ある日、突然に出来るようになっていましたので」

「うん、じゃあ、少し、無詠唱の魔法陣について理解を深めようか」

「「はい、お願いします、キミハ先生」」


ヒカリもアリスと一緒にそのように返事をする。

そして、ブレザーのポケットからメモを取り出し、私の顔をじっと見る。


私は度々、このように知識を披露するので、このやりとりは恒例化しつつある。

授業中に私が話し始めると、いつの間にかクラスメイトのメモ魔のギャラリーが完成しているのだ。

もっと、軽い感じで聞いて欲しいのだが、私の話す内容は教科書にも載っていないので、一言一句聞き逃さないぞという心意気で立ち向かってくる。


私はハードルを下げてから話すことにした。


「そんなに改まって聞く話じゃないから、適当に聞いてね。通常の詠唱する場合の魔法陣の起動から説明するね。詠唱する時は、詠唱によって、魔法陣のサークルが現れる。これは昔の偉い人たちが、この文言を発すると、魔法陣のサークルが出現することを発見したんだ」


実際には、女神が魔法陣のサークルを作って、下界にその文言で魔法陣のサークルが出現するように世界を作ってくれている。そして、困っている人がいたら、その人に、天使の導きとして、有用な魔法陣の詠唱を教えていた。しかし、天使の導きでも、天使の姿自体は見えないから、まるで、自分が詠唱を思い付いたかのように錯覚した。錯覚した人たちが今では昔の偉い人として、教科書に載っている。


なぜ、そんな裏話を知っているかって?

そんなの女神の話は女神に聞いたに決まっている。

全てガブちゃんから聞いたお話です。


私は話を続ける。


「詠唱によって、出現した魔法陣のサークルに、魔力を込めることによって、魔法陣を起動する。これが普通の魔法陣の起動だよね」


アリスとヒカリはうんうんと頷きながら聞いている。


「次に無詠唱の魔法陣の起動のメカニズムを教えるね。無詠唱の場合は、最初の魔法陣のサークルを詠唱によって出現させる工程をスキップする。それなのにどうして、魔法陣を起動できるか。それは初めから、魔力を、魔法陣のサークルの形に変形させて、魔力で魔法陣のサークルを描いているんだ」


アリスとヒカリの頭の上に疑問符が飛んでいる。


「ごめん、私の説明が下手だ。例えば、この掌の上に魔力があるとするよ」


私は左の掌を上に向けて、その上にあるとイメージする球体っぽい形を右手の人差し指でアリスとヒカリに示す。

アリスとヒカリは頷く。


「この球体っぽい魔力を円形に変形をさせることはできるよね」


魔力変形という技術だ。

これは、一応、授業で習って練習させられる。

なかなか、できるものではないけどね。

出来たら、先の決闘の私のように応用を効かせて、魔剣を変形させたりできる。


アリスとヒカリはうんうんと頷く。


「この球体っぽい魔力を円形じゃなくて、魔法陣のサークルに変形させるのが無詠唱の魔法陣なんだよ」

「ええ、じゃあ、私は無意識的に魔法陣のサークルを描いて魔法陣を起動しているということですか?」


アリスは驚いたように聞く。


「うん、そういうこと。厳密にいえば、起動した状態の魔法陣のサークルを描いているんだけどね」


アリスとヒカリは半分納得したような顔で聞いている。


「それで、無詠唱の魔法陣のメリットはそこにあるんだよ。起動した状態の魔法陣を描いているから、詠唱して魔法陣のサークルを出現させる時間だけでなく、そのサークルに魔力を込める時間さえ、省略できる。決闘とかの戦闘では、その時間短縮で、勝負がつくことなんて、ザラにある。無詠唱の魔法陣はそれだけ価値のあるものなんだよ」


アリスは私に質問する。


「では、それだけ、メリットのある無詠唱の魔法陣を皆さん、どうして、使わないのですか?」

「まあ、一番の理由は、魔法陣を何度も何度も使って練習する量が足りてないってところにあるだろうね。魔法陣のサークルの形に魔力を変形させるには、その魔法陣を使い込んで、頭に魔法陣のサークルの形を刻み込まないといけないんだよ。刻み込めるくらい練習するには、たくさんの魔力を持っていないといけない。魔力保有量が多い人は、魔力の回復だって早い。そう考えると無詠唱の魔法陣を使うにはその人の魔法陣使いとしての才能も大きく関わってくるかもしれないね。アリスはまだ、12歳だろうけど、騎士団の騎士よりも大きな魔力を持っているでしょ。騎士団でも無詠唱で魔法陣を起動できる人が少ないのはそういうことだよ」

「私は、才能で皆さんよりも魔法陣が得意なだけなのですね...」


アリスはガックリ落ち込む。


「アリス、それは少し違うかな。私は一番の理由が練習量が足りないって言ったでしょ。確かにアリスは魔力保有量が多くて有利ではあったかもしれないよ。でもね、それはただ単に人よりたくさんの練習をする機会を得たに過ぎないんだよ。世の中にはその練習するチャンスを棒に振っている人はたくさんいたはずだよ。でも、アリスは違うでしょ。毎日毎日、魔力が空っぽになるまで練習して練習して練習したんでしょ?」

「はい、私はキミハに初めて会ったあの日から、努力を続けてきたつもりです」

「アリス、そんな今まで頑張ってきたアリスたちを才能でズルをしてきたんだって一言でまとめちゃったらダメだよ」

「キミハ...ありがとうございます」


アリスはいつもの笑顔に戻った。


自分で言うとカッコ悪いけど私も努力を連ねてきた。

王国のみんなを幸せにしたいって思った時からずっと。

だから、分かる。

努力をしてきた人っていうのは...


アリスはメモとペンを机に置いて、大きな声で宣言する。


「私は王国一の”王国一の魔法陣使いになりたいと願う”魔法陣使いです!」

「ちょ、アリス!」


決闘中の私の恥ずかしい発言を思い出したようだ。


「アリスちゃん、それ、かっこいい!」


ヒカリが瞳を輝かせている。


「キミハにこの言葉を頂いたのですよ」

「わ、私も考える!」


ヒカリも考え始めた。


何を考えてるの?この子は!


ヒカリはピンと思いついたようだ。


「私は王国一の”王国一の絵が上手くて、人を幸せにできる画家になりたいと願う”画家です!」

「ヒカリ、素敵です!」

「えへへ〜」


いや、てんこ盛りすぎでしょ...


アリスとヒカリが期待の眼差しで私を見る。


え、何?その恥ずかしい宣言を私にしろって?

自分の撒いた種に泣きそうだよ...


私は静かに宣言する。


「私は王国一の”王国一のお金持ちになりたいと願う”貧乏人です...」

「キミハちゃん...」

「キミハ...」


そんな目で見ないで〜!


アリスが私の言葉にツッコミを入れる。


「王国一の魔法陣使いの願いは俗なのね...」


俗物でごめんなさい...

お金は大事でしょ?


さて、微妙な空気になったし、話題を変えますか...

すいません、予告詐欺となってしまいました。

次回、学園行事の体育祭のお話が始まります。

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