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アリスのお忍び旅行(後編)

私とキミハを乗せた馬車は進みます。

1時間ほど走ったところで、一度休憩のために道の脇に停止しました。


スランが馬車の扉を開けてくれます。


「お嬢様、これを」


スランは荷台から魔剣を持ってきていて、私に渡してくれます。

魔剣は魔法陣の起動に必要で、自分の身を守る時に必要なものです。

しかし、刀身が長くて、体の小さい私では、腰に携えたまま座るのが難しいのです。

なので、馬車から降りる度に、スランは荷台から持ってきてくれます。


キミハは腰に携えているようです。

キミハの様に魔剣がナイフ型であれば、私もずっと、携えていられるのですが...


スランにそのことを言うと、怒られます。

なんでも、魔剣は、持つ者の魔力量によって、刀身の長さが変わるそうなのです。

私の今の発言は、魔力が少ないほうがいいのにという、キミハに対するただの嫌味になってしまいます。


「キミハ、その悪気があったわけでは...」

「アリス、分かっていますから、落ち込まないでください」


同じ年なのに、なんだか、キミハの方がお姉さんの様です。


私とキミハは近くの草むらを探索しに行きます。


「お嬢様、キミハ様、私たちの目の届く範囲から出てはダメですよ」


私たちは返事をして、道の脇の草むらに入っていきます。


草が動く音がしました。

何かが近くにいます。

草むらの草の丈もそこまで高くないのに、見えないということは小動物でしょう。


私たちは音のあった方に近づきます。

見つけました!


ラビットです!

可愛いです!


私はラビットを抱えます。

キミハはそのラビットの頭を撫で撫でしています。


なんて、可愛いのでしょう!

キミハじゃなくて、ラビットが、ですよ。

キミハも可愛いですけれど...


持って帰りたいぐらいです!


その時、私は閃きます。

今度、ぬいぐるみを作るときは、ラビットにしましょう。

私は心に決めました。


また、草むらが動きます。


ラビットでしょうか...?


私はラビットを抱えたまま、走ります。

見つけました!


ラビットではなく、コブラです!


私は驚いて、腰を抜かして、尻餅をついてしまいました。

キミハはすぐに前に出て、コブラをつかんで、森の方に放り投げました。


「アリス、大丈夫ですか。ごめんなさい、私が先に走って、確認をしていれば...」


そう言って、キミハは手を貸してくれます。

そして、落ち込んでしまいました。


いえ、今、悪かったのは私です...

一目散に走ってしまったのですから...


「キミハ、守ってくれてありがとうございます。私が先走ったのが悪いのです。さて、戻りましょう、キミハ」

「はい、アリス...」


まだ、キミハは落ち込んでいる様です。

どうにかしてあげたいです...

私にせいですし...


私とキミハは馬車に乗り込み、道を進みます。

私は、先ほどから、落ち込んでいるキミハに声をかけます。

少しでも会話をして、気分を紛らわせようと考えたのです。


「あの、キミハ、お聞きしてもいいですか?」

「はい」

「あなたは、なぜ、ハンターをしているのですか?まだまだ小さいのに」

「私の家は、家計が厳しくて、それの足しになればと...もちろん、それだけではありませんよ。私は魔法陣を使うことができませんから、魔法陣を使わない戦い方を、今、勉強しているのです。その一環でもあるのです」

「そうなのですね...。私は貴族なので...。お金に困ったことがないのです。もっともっと、平民の方も幸せになれる国を作りたいのに...ごめんなさい...」

「アリスが謝ることではありません。それに、貴族の方々がいるから、王国の魔力が蓄積されていくのです。私たち、平民は魔力税を全く払っていません。それなのに、貴族の特権が欲しいなどと、思ったりもしません。私たち、平民は貴族の方々に感謝こそあれど、不満などないのです」

「キミハ、ありがとうございます」


私が励まされてしまいました...

キミハは見た目よりもすごく、大人なのです...

私と同じ年の子供とは到底、思えません。


キミハは落ち込んだ顔から、笑顔になりました。

それだけで、私は嬉しいです。


キミハと楽しく会話をしていると、急に馬車が止まりました。

キミハも、顔を引き締めています。

私は、魔物が出たのかと思い、周囲に魔力を持つものがいるか確認します。

しかし、全く感知ができません。


どういうことでしょうか...


スランが馬車の扉を開けて、魔剣を持ってきました。


「お嬢様、魔物が出た様です、しばし、このまま、待機ください」


魔物ですか!

私は全く魔力を感知できていません!

私よりも魔力が大きな魔物ということでしょうか...


魔力が自分より大きいものの魔力は感知できないのです。

私が感知できないのは、AAAクラスの魔物だけのはずです...

AAAクラスの魔物がいるということですか!

私は顔が強張っているキミハに声をかけます。


「キミハ、いざとなれば、あなたは私が守ります」

「アリス、ありがとうございます。心強いです」


キミハは、ニコッとして答えてくれます。

私の方が魔法陣を使えるのです。

私がキミハをしっかりと守らないといけません。

それが力を持つ貴族である私の使命です。


馬車の窓から、魔物が見えます。

大きな魔物です。

まだ距離が遠いので、なんの魔物かはわかりません。


護衛の騎士の2人と、Aランクのハンターは、魔物の方に走って行きました。

AAAランクとなると、護衛騎士の2人では、少しの時間稼ぎがやっとでしょう。

私は、Aランクのハンターの方の力を信じて待つこととします。


交戦が始まりました。

魔物は2匹いるのでしょう。

護衛騎士とハンターは分かれて戦うようです。


頑張ってください...


私では、どう足掻いても、戦力になりません。

私とキミハは、馬車の窓から、戦いを確認します。


次の瞬間、魔物が3匹、こちらに向かって走ってくるのが見えました。

魔物は5匹、いたみたいです。


護衛騎士もハンターも気づいた素振りを見せましたが、それぞれの魔物で手一杯のようです。

どんどん、魔物が馬車に迫ってきます。


このまま、待っていれば、昨日のように馬車に結界をかけてくれるかもしれません...

馬車から出ない方が...


何をあまえたことを言っているんですか、私は!

昨日だって、そのように考えたから、護衛の騎士の方が傷ついたのかもしれないでしょう!


私は決めます!

この馬車から出て、キミハを守ります。


私は魔剣を握って、馬車から飛び出しました!


「キミハ、そこを動かないでください!私があなたを守ります」


怖いです!

魔力の波動を全身に纏った牛さんの怪物のような魔物です!


3匹がこっちにやってきます。

私はファイアボールの魔法陣を詠唱します。

魔法陣が私の前に現れます。

そこに、鞘から抜いた魔剣を両手で持って、魔力を込めます。

直径20センチくらいのファイアボールが、形作れました!


私は魔剣を振って、ファイアボールを魔物たちに飛ばします!

魔物に命中しました!


ファイアボールは魔物に命中したと同時に爆発しました!


「やりました!」


あの爆煙の中、生き残っているとは思えません。

私はガッツポーズをします。


しかし、目を疑うような光景が、そこにはありました。

爆煙の中、3匹の魔物が私たちに向かって、走ってくるのです...


怖いです!

私は足がすくんでしまい、地面にへたり込んでしまいました。


水の魔法陣ですか...火の魔法陣ですか...

何を使えばいいのですか...

どうすればいいのですか...


私は泣いてしまいました。

私はこれまで、自分はすごいと思って、どうして、訓練を適量でやめていたのでしょう。

もっともっと限界まで、訓練をしていれば、戦力になっていたかもしれません。

私はこれまで、どうして、もっと、魔物についてお勉強しなかったのでしょうか。

そうしていれば、あの魔物の弱点がわかったかもしれません。


私は貴族という身分にかまけていたのではないですか。

他の子供よりも魔法陣が使えると先生に言われ舞い上がっていませんでしたか。


「私は、これまで、愚かな貴族だったのですか...どうすればどうすれば」


悔しいです。

本当に悔しいです。

これまで、私は、自分が嫌いと言っていた貴族に成り下がっていたのではないですか。

ただの口だけの貴族だったのですか。

口だけは平民の見方をしている風の貴族だったのですか!


平民であるキミハを!

たった1人だけでも、守りたい!

私は守りたいのです!


私の涙は地面を濡らします...

ごめんなさい...

守れません...


「お嬢様、そこを動いてはなりませぬぞ。そして、魔物の目がこちらを向いたら、お逃げください!」

「スラン...!」


スランは馬車の近くで、待機していたが、無数の矢を打つ魔法陣を起動して、走りながら、魔物に放つ。

スランは魔物の目を自分に向けて、私たちを逃す算段を立てたようです。


無数の矢が魔物に命中し、魔物の目がスランに向きました。

しかし、スランの方に走って行った魔物は1匹だけでした。


2匹は私たちの方に走ってきます。

スランが、魔物に殴られます。

かろうじて、魔力の波動で、ダメージを抑えたみたいですが、もう一発、食らえば、スランは死んでしまいます!


私は、誰も救えないのですか!


私は...


もう、泣くことしかできませんでした。


その時、地面にへたり込んで座っている私の肩にポンと手がおかれます。

そして、声が聞こえます。


「ごめんなさい、アリス、あなたに、動かないでと言われたのに動いてしまいました...」


私は思い出します。

馬車から飛び出て、動かないでくださいと言ったことを。


「キミハだけでも!私が襲われている間に逃げてください...」


私は、キミハを見るとへたり込んで動けないはずなのに、すぐに立ち上がれました。

キミハの両肩を掴んで、そのように訴えました。


「ありがとう、アリス」


そう言って、キミハは笑うのです。


どうして、こんな時にそんな余裕があるのですか!

早く逃げてください!

キミハだけでも!


2匹の魔物が、角を使って、私たちに突進してきます!

その辺にいるCランクのオオカミではありません。

AAAランクの魔物です。


私は目を瞑ります...

...

...

...


優しい魔力の余波が私を包み込みました。


温かいです...


まだですか...?


私は目を開けます。

一刀両断された魔物が、私を避けるように後方に飛んでいくではありませんか。

そして、女神のような美しい長い青い髪を持つ女の子が長い魔剣を振ったところでした。


私は助かったのですか...?


私の前に立っていた女の子は、横をむきます。

私も同じく視線を向けました。

先には、スランが今にも、魔物の突進を受けようとしているところでした。


逃げてください...スラン...

間に合いません...


私は涙が溢れて溢れて、地面を濡らします。


私は、どうして、火の魔法陣と水の魔法陣しか使えないのですか...

もっと、戦うための力をどうして、身に付けなかったのですか...


私は泣きます。


その時です。

目の前にいた女の子は、スランのところに駆け出します。


女の子は、一瞬で、スランの元に駆けつけ、魔物を一刀両断しました...

まるで瞬間移動です...


た、助かったのですか...


私は、騎士とハンターの方を確認します。

ちょうど、討伐が終わったみたいで、走ってこちらに向かってくるのが見えます。


私は女の子の方に視線を戻します。

そこには、ポニーテールをおろし、メガネがなくなったキミハがいました。

キミハはおぼつかない足で、私の元に、歩いてきました。


私は、キミハが無事で嬉しくて涙を流します。


「キミハ、私は、どうして、私はこれまでもっと必死に、訓練やお勉強をしなかったのかと呪いました。本当に、助けてくれてありがとう...」


キミハは、無気力で立つ私の両肩を持ちます。


「お嬢様、僭越ながら、述べさせていただきます。今までの行いを悔いるぐらいであれば、今からの行いを奮い立たせてみてはいかがでしょうか。過去の行いは変えられませんが、未来の行いは変えることができるのです。そうすれば、もし、明日、同じ、不幸なことを迎えども、今度は戦うことができるかもしれないでしょう」


そう言って、優しく、微笑みます。


その通りです。

私は過去のことばかりを考えていました。

未来のことを考えるべきです。


私は、無言で大きくうなずきます。


私は今日、キミハに出会えてよかったです。

出会えていなければ、こんなにもいろいろなことを得ることはできなかったでしょう。

私はあることを思いつきます。

それをキミハに伝えます。


「あの、キミハ、あなたに大々的に褒賞を差し上げたいのです」


私は受け取ってもらえるものだと期待していた。

しかし、私の望む答えではありませんでした。


「いいえ、お嬢様、それを受け取るわけには参りません」

「なぜですか!王国から、褒賞を得ることはとても光栄なものではありませんか」


キミハはにっこり笑って、落ちついた口調で喋ります。


「私がお嬢様をお助けしたのは、お嬢様にお礼の品をいただくためでも、ましてや、王国から褒章を受け取るためでもないのです。今、お嬢様の笑顔を守れていかったら、私はなんで、お嬢様を守れなかったのだろうと後悔していたことでしょう。そんな後悔をしたくないがために私はお嬢さまを救ったのです。お嬢様、私は褒章をいただきたいが為にお嬢様を救う俗物になったほうがよろしいでしょうか?」


私もキミハの答えには納得して、微笑んでしまいます。

私は思ったままを言葉にします。


「あなたには敵いませんわ...。私もあなたのように、王国のみなさんの笑顔を守れる立派な魔法陣使いになりますわ。約束いたします」


その答えにキミハもホッとした顔をして答えます。


「はい。約束です。私もお嬢様に負けないよう、研鑽を重ねますね」


私たちは共に、顔を見合って笑いました。


その時です。

キミハの体の力がスッと抜けて、倒れそうになります。

私は受け止めようとしますが受け止めきれずに、2人で地面に倒れてしまいました。


「キミハ!キミハ!」


すぐにスランの治療をしてくれていたAランクのハンターが私たちの元に寄ってきます。


「お嬢様、失礼いたしました。キミハは魔法陣を起動すると気を失ってしまう特異な体質なのです。こちらでお預かりしますね」


そう言って、ハンターはキミハを抱えます。

私は心配になって、言葉をかけます。


「キミハは大丈夫なのですか」

「ええ、少し、寝れば、時期に目を覚まします」

「そうですか、ホッとしました」


キミハが死んしまったのかと思い、気が気でなりませんでした。

しかし、私を守るために魔法陣を使い、キミハは気を失ってしまったのです。

私はキミハに負担を強いらせたのです。


深く受け止めます。

絶対に忘れません。

私は一生懸命努力したいです!

未来のために!


私のお忍び旅行は、ここで中止となり、幕を閉じました。

もちろん、中止が悲しくなかったといえば嘘になります。

しかし、私はこの2日の旅行で、得難いものをたくさん手に入れることができました。

それだけで、今回の旅行には意味があったのです。


私は、身体強化と加速魔法陣の二重魔法陣を練習するようになりました。

キミハのスランを救った時の一太刀が頭から離れないのです。

遠距離から瞬時に、対象に接近し、一刀両断...


私は、キミハに救ってもらった時、一瞬、目を閉じてしまったのを後悔しました。

そこをみていれば、今の自分の魔法陣の訓練にいかせたかもしれないからです。


いいえ、過去のことを悔いても仕方ありません。

他のことを考えて、未来に生かした方がいいいでしょう。

そうですよね、キミハ!


私が、騎士団の騎士に決闘で勝てるほど、身体強化と加速魔法陣の二重魔法陣を極めるのは、後のお話です...

これで、アリスの旅行編は終了です。


次回はまた、学園の話に戻ります。

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