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アリスのお忍び旅行(前編)

アリス視点になります。

ご注意ください。

私はアリス・カナフィルディア、10歳です。


私のお父様は、先の戦争でなくなってしまった女王様に代わって、代理の王様として、お仕事をしているそうです。

私はそんなお父様を尊敬しています。

お母様は私を産んですぐになくなってしまったそうです。

私はまだ、物心がついていなかったので、お母様との記憶はないのです。

お父様は寂しくないようにと私との時間を増やせるように努力していたそうです。

お父様、忙しいのにありがとうございます。


カナフィルディア家は代々、王様の側近として、取り立ててもらっているそうです。

私も毎日のお勉強と魔法陣の練習を頑張らないといけません。


尊敬しているお父様ですが、最近、なんだか、怖くなったように思います。

お仕事が忙しいのでしょうか...

もっと、お父様は温かく笑っていたと思うのですが...

早く、お父様のお力になれるように頑張らなければなりません。


今日も頑張るぞと気合を入れて、握り拳を高々とあげていると、ちょうど、執事のスランが入ってきました。

スランはそんな私を見て、微笑みます。

私は恥ずかしくて、顔を赤くしながら静かに、手を下ろします。


「失礼いたしました。お嬢様」

「いいえ、スラン、どうしたの?」

「お嬢様、旅行にいく準備をいたしましょう」

「お父様といくのですか...?」

「いいえ、お嬢様、お一人です...」


スランは申し訳なさそうな顔をする。


「そう...スランがそんな顔をしないで...」


私はこれまで、旅行というものをしたことがなかったのです。

しかし、お父様も王族に仕えているので、時間がなかなか取れないのです。

そんなことはわかっていたのですが、つい、この前、お父様にぽろっと旅行がしたいですと漏らしてしまったのです。

私は自分のことだけを考えるなんて、貴族失格です。

そのこともあって、お父様はお父様なりに考えてくださったのかもしれません。


「スラン、どのような旅行にいくのか教えてくれますか?」

「はい。お嬢様」


スランは説明をしてくれた。

どうやら、期間は一週間ほどで、王国の周辺の国々を、お忍びで旅行をするようです。

騎士団の団員を2人を護衛として、御者、兼側仕えとして、スランと私の4人でいくみたいです。

いつもなら、屋敷の外に出るときにはたくさんの護衛を連れて行きます。

しかし、それでは、大衆の目をひいてしまいます。

それに、少人数なのは先の戦争で、騎士団も人員を割くのが難しいからという理由もあるそうです。

だから、今回の旅行では必要最低限の人数で行くそうです。

少人数で行けるように魔物や野盗がここ5年で一度も現れていない道を選ぶそうです。


お父様と旅行に行くという願いは叶いませんでしたが、この旅行をしっかりと全うしたいと思います。

これから、大人の貴族になったとき、いやでも周辺の国の貴族の人と関わらなければならなくなると思います。

いわば、この旅行は敵情視察なのです。

だから、頑張ります。


スランと私は荷造りを開始します。

馬車に積むので、荷物をそこまで少なくする必要はないみたいです。

と言っても、そもそも荷物はそこまで多くありません。


私をただの子供と見てもらっては困ります。

魔法陣で、火も水も使えるのです。

それだけで荷物がかなり減らせるのです。


私たちは荷造りを終えました。

出発は明後日です。

すごく楽しみです!


旅行に行く日になりました。

昨日は楽しみでなかなか眠れなかったです。

昨日まで、お部屋にあった、旅行用の荷物はスレンがすでに馬車に積み込んでくれたみたいです。


スランはお仕事が早くて、自慢の執事なのです。

このことをこの前、スランに伝えたら、スランは、お嬢様がいつもお勉強や魔法陣の訓練を努力されているから私は執事のお仕事を頑張れるのですよ、と言っていた。

私はその言葉に嬉しくなり、頬を緩めてしまいましたが、気付きました。

私がスランを立てたはずなのに、いつの間にかスランが私を立てています。

貴族の娘であるからには、相手のことを立てることも大切なのです。

スランからも学ぶことはたくさんありそうです。


私は屋敷から駆けて飛び出します。

門番の方は、そんな私を見て、微笑みます。


はっ、また、やってしまいました...

貴族はいつでも、お淑やかにしなければなりません。

テンションが上がると、いつも、はしゃいでしまうのは私の悪い癖です。

直さなければなりません。


門のところに来ると、門番の方が門を開けてくれます。


いつもありがとうございます。


私は心の中でお礼を言って、貴族らしく、微笑みます。

門番の方はそれを見て、ビシッと直立し、軽く、頭を下げます。


上手くできました!


また、テンションが上がりました。

そして、思わず、ガッツポーズをしてしまいました。


はっ、また、やってしまいました...


さっきまで、貴族の方を相手にするように頭を下げていた門番の方も、少し、微笑まれています。


まだまだです...貴族の淑女への道は遠そうです...


私は、門の前で馬車の準備をしているスランのもとに行きました。

スランは私を抱えて、馬車に乗せてくれました。

どうやら、馬車の中に乗るのは私だけみたいです。

護衛の方は、後ろの荷物を乗せる部分に荷物と一緒に乗るみたいです。

スランは御者として、馬の手綱を持たなければならないそうです。


寂しいですね...


私の顔を見ていたスランが申し訳なさそうな顔をします。

いつも、スランにそんな顔をさせてしまうなんて、私は主人失格です。

私はニコッと笑い、スランに伝えます。


「スラン、あなたにはこの旅行中、大きな負担をかけると思うのだけれど、よろしくね」

「はい、お嬢様」


スランは私の顔を見て、微笑みかえしてくれます。

私はこんなよくできた執事をもてて、幸せものですね。


馬車は王都の中を進み、大きな中央の街道を通って、門まで来ました。

そして、王都の門を出ます。


王国ばかりか、王都の外にもでた事のなかった私には、ここから、見た事のない景色が広がります。

石畳の街道が、舗装されていない土の道に変わります。

ガタゴトと揺れて、お尻がすごく痛いです。


貴族なのだから、我慢をしなければならないです...

これからは馬車を使って、移動をする事が多くなるはずです...

慣れないと...


私は、お尻の痛みに必死に耐えます。

少しの間、お尻の痛みに必死に耐えて乗っていたのですが、ふと、荷造りをしていた時のスランの話を思い出します。


『お嬢様、このクッションは馬車に乗るときに使うものです、荷物に入れてしまっては使いたいときに使えませんから、馬車の座席の下に入れておきます。もし、使う必要があれば、そのときに私が準備致しますので、おっしゃってください』


確か、座席の下に入れていると言っていたような...

スランの手を煩わせるのも、悪いから、自分で...


私は座席の下を確認しようとします。

ここで、自分の行いが貴族らしいかを考えます。


ダメです。ダメです。貴族の淑女らしくありません。


私は、スランの手綱の近くのベルにつながっているという、紐をひきます。

ベルの紐を二度ほど引いて、待ちます。

馬車は道の端に寄せて止まります。

スランが、馬車の扉を開けて、聞いてきます。


「お嬢様、お呼びでしょうか」

「ええ、馬車の揺れで、お尻が痛むの。どうにかしてくれない、スラン?」


私は貴族の淑女を意識して答えます。


「かしこまりました」


スランは、馬車の座席の下にある収納スペースから、クッションを取り出してくれます。


「ありがとう、スラン」

「執事の私が気づき、率先して、準備しなければなりませんでした。不手際、お許しください」

「いいえ、ありがとう」


スランは軽く頭を下げ、馬車の扉を閉め、馬車の前方に戻って行きました。


貴族らしく対応ができました!

ん?ちょっと待ってください。

私、スランに初めて、謝罪を受けた気がします。

スランは執事として、今のような単純なミスをした事はありません。

もしかして、スランは私が貴族の淑女らしくあれるかを試しましたね。

だとしたら、危なかったです。

自分でクッションを取り出そうとしていました。


私は初めての旅行が、貴族の振る舞いを勉強する場でもあるのだと、実感しました。

気を引き締めないといけません。


馬車は進みます。

クッションのおかげでお尻は痛くなくなりました。


実はこのクッション、私が作ったクッションなのです。

貴族の淑女はお裁縫もできないといけないのです。

お屋敷のメイドさんに教えてもらいながら練習しました。

このクッションは練習でいくつか作った中で一番、出来がよかったものです。

メイドさんによれば、私のお裁縫は筋がいいみたいです。

今度はぬいぐるみ作りにも挑戦したいです。

この旅行で可愛い動物を見つけたら、それで型紙を作って動物のぬいぐるみにするのもいいかもしれません。


私は、そのように決めたので、馬車の窓の外を、眺めることにしました。

ちょうど、そのとき、魔物が現れました。

Cランクのオオカミさんの群れです。

数は10ほどでしょうか。

魔物は動物とは違います。

魔力の波動を纏っていて、可愛くありません。


護衛として、荷台に乗っていた、騎士団の騎士の方が魔物の方に向かいました。

私たちの馬車は一時停止します。

私たちが進む道は、ここ5年で一度も魔物が出なかった道なのですが、魔物が出ることもあるみたいですね。

危険なく旅行ができると聞いていたので、少し、気を抜いていました。

ここからはしっかり、気を引き締めなければいけませんね。


そう思ったのも束の間です。

私はこのとき、大きな魔力の余波を感じました。

それも1つではありません。

20ほどの力を感じました。

もしかしたら、野盗の人たちかもしれません。

馬車を使うのは貴族だけなので、野盗の標的になりやすいのです。

私はすぐに、スランをベルで呼びます。


スランはすぐに、扉を開けて、用件を尋ねます。

私はすぐにさっき、感じ取った魔力のことを伝えます。

スランには魔力が感じ取れていなかったらしく、スランは私の話に驚いたようです。


「お嬢様、絶対にこの馬車から出てはいけませんよ」


スランはそのように言って、救難信号の魔法陣を起動します。

赤色の光が空に向かって、飛んでいき、弾けます。

騎士の方々は、まだ、魔物の群れと戦っています。

その光を見て、すぐに、状況を把握し、魔物の群れを対処する1人と、野党を対処する1人に別れたようです。

野盗20人を相手するには、流石の騎士の方でも厳しいと思います。


私はどうすればいいのでしょうか。

騎士の方が、野盗と交戦を始めました。

ダメです。野盗の手数が多すぎて、ダメージを受けています。

そして、野盗の数人が、馬車の方に向かって、走ってきました。

私は馬車から逃げた方がいいのでは...?

いいえ、それでは騎士の方が、守ってくれると信じていないのと同じです。

私はここで待つことにしました。


野盗と交戦をしていた騎士の方は、野盗たちの攻撃を受け続け、倒れてしまいました。

先に向かってきた数人の野盗はスランと交戦を始めます。

スランは騎士の方に比べれば、戦力は劣ります。

しかし、私のために、傷つきながら戦ってくれています。


もう、耐えられません。

私が旅行に行きたいだなんて言わなければ、騎士の方も傷つかなかったでしょう。

スランだって傷つかなかったでしょう...

私はどうすればいいのですか...


そのときです。

私の馬車が光り輝きました。

これは結界の魔法陣です。

持続時間が短い代わりに、いかなるものも魔法陣を起動した人が許すものしか入れません。


誰が一体...


私は見渡します。

魔物を相手にしていた騎士の方が魔物を倒し、魔法陣を起動してくれたようです。

さすがは騎士の方です。

もし、私が、この馬車を出ていたら、この作戦も台無しにするところだったかもしれません。

私は、思い止まって正解でした。

...

...

...

本当にそうでしょうか?

貴族の淑女であればこれが正解なのでしょうか?

私は、馬車の中で、守ってもらうのを待っていただけです。

その間に騎士の方も執事のスランも傷ついてしまいました。

本当に馬車の中で待つことが正解だったのでしょうか...

みんなを守るために、王国に貢献するために、お勉強と魔法陣の訓練をしていたのに...

私は...

わからないです...


野党は結界がかかったのを確認するとすぐに、撤退していきました。

しかし、騎士の方は1人は大怪我をし、もう1人は大規模な魔法陣を使ってしまい、魔法陣を少しの間、使えないそうです。スランが少しの怪我で済んだのは不幸中の幸いだったみたいです。


私たちは、予定には無かった一番近くの街に行くことになりました。

怪我をした騎士の方の治療をしなければならないからです。

私とスランは治癒の魔法陣が使えません。

私がもっと、魔法陣の訓練をしていれば、使えるようになっていたかもしれません。

火の魔法陣と水の魔法陣が使えるからと言って...

私はどうして、もっと、必死に訓練をしなかったのでしょうか...


私は自分の行いを責めました。

私は貴族の淑女になるどころか、ただのお荷物になっただけです...


街には1日だけ滞在するそうです。

護衛の騎士の方の怪我を見てもらいましたが、街には治癒の魔法陣を使えるお医者様はいませんでした。

治癒の魔法陣は簡単な魔法陣ではありません...

ギルドに依頼を出して、治癒の魔法陣を使える方を募集する手がまだ、あります。

スランはすぐにその手続きをしに、ギルドに向かいました。


もし、ここで、Aランク以上のハンターの方の護衛が雇えなかった場合は、王都に引き返すそうです。

騎士の護衛が2人だけでは、また、同じ野盗に襲われたときに、対処ができないそうです。

それに、騎士の方の治療ができなかった場合もすぐに、引き返すそうです。

当たり前のことです。

私の旅行よりも、人の命の方が大切なのですから。


私は新しい騎士の方にお願いするのはどうかとスランに進言してみました。

もちろん、この発言は守ってくださった騎士の方に失礼な言動です。

それに、先の戦争で騎士団も人員不足です。

それも承知の上で、聞いてみたのです。

しかし、いい答えは帰ってきませんでした。

やはり、新しい騎士の護衛をつけるのは難しいそうです...


私の旅行は、ここで終わりでしょう。

Aランクのハンターは王都にも、2、3人しかいないのです。

この街に運よく、Aランクのハンターがいらっしゃるとは思えません。


今夜は、この町の宿屋に泊まるそうです。

楽しみで眠れなかった昨日の夜がなんだか懐かしいです。

このまま考え事をしていても気分が落ち込むだけなので、私は早めに寝ました。


明くる日、私は、目覚めました。

するとすぐに、スランが部屋にやってきました。


帰る準備を始めるのでしょうか...?


しかし、スランの言葉は私の予想とは反するものでした。


「お嬢様、騎士を治療してくれるハンターの方が見つかりましたよ。その方はAランクで、これからの護衛も引き受けてくださるそうです」

「本当ですか!」


私は、喜びのあまり、ベッドの上で、ぴょんぴょん飛び跳ねてしまいました。

スランの微笑ましい顔を見て、また気づきます。

また、やってしまいました。

私は、子供のようにはしゃいでしまいました。

スランの目が、楽しそうに遊んでいる子供を見る目と同じなのです。

私は子供ではなく、貴族の淑女として扱ってほしいのです...

貴族の淑女失格です...


Aランクのハンターの方とはどのような方のでしょうか...

屈強な方なのでしょうか...

博識な方なのでしょうか...


私は、Aランクハンターの方の姿を想像しながら、スランとともに、ギルドに向かいました。

次回も続きます!

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