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友情の魔法陣

プルトナーガは私に向かって、突進をしてくる。

私はギリギリで横にジャンプをして、躱す。

プルトナーガは器用に戦う魔物ではなく、パワーで蹴散らすタイプの魔物だ。

ギリギリでよけてやれば、急には方向転換できない。

プルトナーガはそのまま、私の後ろにあったダンジョンの壁にぶつかる。


私にできるのはこうやって、間合いをとって、突進を誘い、それを避けて、時間を稼ぐことぐらいだ。

ナミク先輩やシオリ先輩、シャティー先輩、それに他の先輩方も救援に駆けつけてくれれば倒せるはずだ。


ナミク先輩とシオリ先輩、2人でグリタルンドラゴンを倒していたからね...


何度か私はブルトナーガの突進を避ける。

プルトナーガはこのままでは私を倒せないと思ったのか、突進を一旦辞める。


ん?何だろう。


プルトナーガは大きな唸り声を上げる。

魔力の余波が私を襲う。

私は吹き飛ばされそうになるが地面に踏ん張って耐える。


やばくない?あれ。


プルトナーガは禍々しい魔力の波動を纏っている。

確実にパワーアップしている。

プルトナーガは地面を蹴って、私に迫ってくる。


速い!


私はギリギリで避ける。

が、プルトナーガは地面を蹴って、方向転換し、私に突進してくる。


くっ!避けきれない!


プルトナーガは拳で私を殴ってくる。

私は、避けきれずに、左手に握る魔剣でその拳を受け止める。

魔剣が、拳に纏っていた魔力の波動を吸収する。

しかし、その威力は多少、抑えられただけだ。

私は拳に殴り飛ばされた。

地面を何度かバウンドして、後方のダンジョンの壁に激突する。


痛い...


プルトナーガはさらに、突進してくる。

私はなんとか、立ち上がって、突進を避けるが、プルトナーガはまた、地面を蹴って、方向転換する。

また、避けきれず、今度は壁とプルトナーガにサンドイッチされる。


う...


私はその場でへたり込んで、うずくまる。

プルトナーガは地面に倒れる私を禍々しい目で確認すると、両手で拳を作り、ジャンプをした。

空中で両手を組んで作った拳を大きく振り上げた。


動けない...

あんな拳、受けたら...

さすがに死ぬ...


プルトナーガは着地とともに、拳で私に攻撃した。

轟音がダンジョン内を駆け抜けた。


プルトナーガの拳の威力は瞬く間に、周囲に及ぼされ、壁からも天井からもポロポロと岩が落ちてきている。

しかし、当の本人のプルトナーガはというと、ダメージを受けて、倒れている。


なんとか、生きてたね...

魔法陣を使わずに済んだからよかった...


プルトナーガは拳で攻撃する瞬間に威力増大の魔法陣を拳に展開したのだ。

私は間一髪、その魔法陣を利用して、プルトナーガの攻撃を私の魔剣でプルトナーガにはじき返した。


プルトナーガは立ち上がり、もう一度、唸り声をあげて、魔力の波動はさらに力を増す。

私は、なんとか立ち上がる。


こんなの魔法陣を使わないと、逃げきれない!


身体強化を二重、いや、三重くらいにして戦うのが良さそうだ。

問題は私は魔法陣を使っただけで、気を失って倒れかねないということ。

このプルトナーガは深い階層から回廊魔法陣でこの浅い階層に現れたに決まっている。

もしそうだとしたら、プルトナーガは一匹とは限らない。

私が気を失った後、また、プルトナーガが現れて、誰も手に負えなくて、同じダンジョン10階層にいる、1年1組のメンバーが襲われてしまうのは困る。


このまま、魔法陣を使わずにやるしかないか...


プルトナーガは突進してくる。

私はできる限り、躱そうとするが、プルトナーガの攻撃は私に命中し、吹き飛んで、地面をバウンドする。

壁に手をつき、なんとか立ち上がる。

もう限界だ。


洒落にならないよ...この痛み...


私はナルを助けたときに、一重魔法陣を使っただけですでに満身創痍だった。

二重、三重の魔法陣を起動した瞬間に体が飛散することもあるかも知れない。


しのごのと言っている場合じゃない!

魔法陣を使うしかない、差し違えてでも、このプルトナーガだけでも止める!


プルトナーガは私に狙いを定め、突進する。

私も意を決して、魔法陣を起動しようとする。


えっ!


すると、私にたどり着く前に火炎攻撃の魔法陣を喰らった。

不意に喰らった攻撃は効いているようだ。

一瞬、プルトナーガは怯んだ。


私はすぐに攻撃が飛んできた方を向く。


「アリス...?」

「キミハ!無事ですか?」


ダンジョンの出口まで行って、戻ってくるには早すぎる。

アリスは途中で引き返してきたのだろう。


「なんで...」

「そんなの、キミハが心配だったからに決まっているじゃないですか」


プルトナーガは私に突進してきた。

二重で身体強化をしたアリスが私を抱えて、避ける。

地面を蹴って、方向転換してくるプルトナーガの攻撃は私を抱えたアリスでは避けきれず、私との間に体を入れるようにして、庇ってくれる。

突進を喰らった瞬間アリスの顔は大きく歪んだ。

私たちは地面をバウンドした。


しかし、まずい。

このままじゃ、共倒れをしてしまう。


プルトナーガは私たちを睨み、3回目の唸り声を上げる。

3回目の唸り声は1回目と2回目と比べものにならない大きさだ。

体全体から禍々しい魔力の波動が溢れ出している。


もう、魔法陣を使えないことをアリスに隠すとか言っている場合じゃない。


「アリス!私が五重魔法陣で一気に仕留めるから、できればでいいから、倒れるであろう私を運んでもらえると助かるよ」

「ダメです!キミハ!今の怪我をしてダメージを受けている状態で魔法陣を使えば、あなたの命が危ないでしょ」

「えっ!」


私の現状をなぜか深く理解しているアリスに思わず、振り返ってしまった。


「今は述べている時間はございません。今回は私がキミハを守ります!」


そう言って、二重の身体強化の魔法陣を起動して、プルトナーガに向かって、走り出す。

プルトナーガはアリスの魔剣を拳で受け止める。

アリスはプルトナーガの拳に負け、剣を弾かれる。

プルトナーガはもう片方の手で拳をアリスに浴びせる。

その拳をアリスは間一髪でジャンプして、躱し、剣撃を食らわせようとする。

が、プルトナーガ先ほど拳を放った手でまた、拳を作り、繰り出した。


その巨体に合わぬ、スピードにアリスは対応できず、なんとか拳はガードしたがダメージをかなり受けている。

私の前にザザーっと押し戻された。


どうしたらいい。やはり、私が魔法陣で仕留めるのが手っ取り早い。

魔力で体がぶっ壊れても!


私はそのとき、引っかかる。


魔力で体が壊れる...?


それなら、魔力を分散すれば...?


私はニヤッと笑って妙案を思いつく。


「ねえ、アリス。1つ、私の作戦に乗ってくれない?」

「作戦ですの?」


そんなことを話そうとしている時もプルトナーガは待ってくれない。

突進してくる。


くっ、一瞬の隙を作るしかない...


私は後ろの壁に魔剣を押し当て鞘を抜いて、すぐにプルトナーガに投げた。

プルトナーガは突然の、ナイフ投げに思わず、避けるのではなく、右手で、魔剣を受け止めようとする。

しかし、魔剣は手を貫通し、プルトナーガの体も貫通した。

プルトナーガは怯んだ。

これは一時を凌ぐに過ぎない。

が、作戦を説明する時間には十分だ。


「アリス!私が五重魔法陣を起動して、仕留めるから、あなたには魔力を受け入れて欲しいの。あなたの体も使って、魔力を循環させたいの。私の体では自分の魔力に耐えられないから」


私が魔力に耐えきれない理由は、体の強さに対して、魔力が大きすぎるからだ。

そして、私の体の強さは、戦争の後から、一般の人よりも弱くなってしまっている。

魔族の体と人間の体の両方を合わせ持つ体は、それぞれの純粋な体よりも、脆くなっているようなのだ。


「そんなことできるの?」

「できるかなんか、分からない。もしかしたら、アリスにも危険が及ぶかもしれないし、断ってもらっても、怒ったりしないよ?」

「いいえ、答えなんて決まっておりますわ。キミハの命の危険が少しでも減るのならば、私は喜んで協力いたしますわ」

「アリス...ありがと...」


この子はいい子だ。


「でも、どのように戦いますの?」

「こうやって!」


私はそう言って、右手を差し出す。

アリスは意味がわからずに首を傾げる。


私はアリスの左手をパシッととって、手を握る。

そして、魔法陣を起動する。

身体強化の魔法陣を3つ、三重魔法陣を展開した。


体が熱い...でも、耐えられる...


アリスも使ったことのない量の魔力が私の体から手を伝って、アリスの体も使って循環を始め、少し、苦しそうにする。

私の髪は青く光った。目も緑に輝く。


「アリス、いくよ!私に合わせて!」

「はい!」


私は走り出すと同時に加速魔法陣を重ねる。

これで四重魔法陣展開だ!

アリスにも四重魔法陣と同じ魔法の効果がかかっている。


プルトナーガは怯んでいたが、私たちが走って向かってきたので、拳を繰り出した。


遅い!


私とアリスはジャンプして、前方に一回転しながら、その拳を避ける。

私はプルトナーガの背中側のダンジョンの壁に刺さっていた魔剣を左手で取る。

魔剣は手に取った瞬間、刀身がロングサーベルの長さになる。


「アリス、仕留めるよ」

「はい、キミハ」


私は走り出しながら魔剣に威力増大の魔法陣をかける。

これで五重魔法陣展開だ。


いっけええええ!


私は魔剣を前に剣先を向けて、突き刺すように構えて、プルトナーガに突っ込む。

プルトナーガは私たちに向かって、拳を繰り出してくる。


私たちは避けずに拳に向かって、その先のプルトナーガに向かって、前方に飛ぶ。

魔剣にプルトナーガの拳が当たった瞬間、拳は爆発するように飛散した。


やああああああ!


そして、そのまま、私はプルトナーガの魔力器官である心臓に魔剣を突き刺した。

プルトナーガは、大きな苦しそうな声をあげた。


「グオオオオオオオオ!」


私は魔剣に精一杯の魔力を注ぎ込む。


大きな爆発音とともに、プルトナーガは飛散し、光となって消えた。


「お、終わりましたの...?」


魔法陣を解く。

髪は元の焦げ茶色に戻り、目の光も収まる。

私はガクッと体に力が入らなくなる。

さらに、アリスと手を繋いだまま、魔剣を鈍い音とともに地面に落とし、倒れそうになる。

アリスは私が力が入らなくなった、握っていた手を強く握って、引き寄せて、支えてくれた。

そして、そのまま、その場にゆっくり座る。


アリスに体にかかる魔力の負荷を減らしてもらったとはいえ、莫大な魔力を使って、魔法陣を起動した私は、体がボロボロだ。


私は力の入らない、首を捻って、アリスの方に向く。


「アリスは逃げて...まだ、他にもいるかも知らないから...」

「いえ、先ほど、こちらに助けに入る前に回廊魔法陣は消してきましたので、これ以上、現れることはないと...」

「えっ...」


どういうこと、回廊魔法陣がある場所、知っていたの?

それに消したって、魔法陣を消すことは魔法陣の起動者か私くらいしかできないんじゃ...?


アリスは意を消して、私の目を見て、何かを言おうとしたが、その前に、待ち人が私たちに声をかける。


「キミハ、無事ですの?」


シャティー先輩がそんな言葉を私にかける。先輩たちの救援が到着したのだ。ナミク先輩もシオリ先輩も、そして、上級生の委員が駆けつけてくれた。


「お前、もしかして、プルトナーガも倒したのかよ...」


ダンジョンの周辺の惨状を見渡しながら、ナミク先輩は言う。

もう、お前呼びに対して、ツッコミを入れる余裕もない。

私は静かに、ははは、と笑って、答える。


ナミク先輩は私のもとに駆け寄ってきた。


くるなら、最初に駆け寄ってほしかったよ。しょうもないことを言ってからじゃなくてさ...


私の体をジロジロと見る。


「お前、意外と元気だな。怪我は打ち身くらいか。魔法陣の治療はやりすぎると、体の治癒能力が低下するから、今回は自分で治したほうがいいな」


私もそう思うので、無言で頷いた。

ナミク先輩は私の前にしゃがんで、私の顔を見る。

ナミク先輩は真面目な顔になり、私の頭を撫でながら私に言った。


「キミハ、よく頑張ったな。大きな被害が出なかったのも全て、お前のおかげだ」


なっ、気安く、人の頭を撫でないでよ...


私は動けないながらも抵抗しようと、そっぽを向いて、口を尖らせる。

顔が赤くなるのは止められないので仕方がない。


「お前な、褒められてる時くらい、素直に褒められろよな...」


真面目な顔から一転、呆れ顔になる。

そして、隣にいるアリスの方を向いて、ナミク先輩はお礼を言う。


「アリスさんも、ありがとう」


アリスは接点のない人にいきなり名前を呼ばれて、びくっとしている。


「いえ...」


アリスは浮かない顔で返事をした。

この後、シャティー先輩に抱きしめられ、泣かれた。

なんでも、ヒカリがとんでもない焦った様子で生徒会室に入ってきてとても驚いたそうだ。

ダンジョンの異常を知らせるアラートもなっていなかったので、本当にびっくりしたそうだ。


そして、アリスとともに私は、ナミク先輩におんぶされて、救護室に行くことになった。

他の先輩方は、ダンジョン内に危険がないか、見て回ってから、ダンジョンを出るそうだ。

次回も遠足編、続きます!

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