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初めての遠足(後編)

私は、ヒカリに起こされる。


「キミハちゃん、見張り、交代の時間だよ」


私は頷いて、寝袋からはい出る。

外は寝袋の中と違って、すごく冷える。

私は時計を確認する、まだ4時だ。

いつもより朝、早い。


うう、寒い。寝袋の中で、グーパー体操してから、外に出ればよかったよ。


ヒカリはそのまま、寝袋にインする。

そして、すぐに、すやすやと寝息を立てはじめる。


この子、すぐ寝れるんだね...なんて便利な...


私は気を取り直して、見張りを始める。

私は近くの壁に寄りかかって座る。


周りを確認する。

もうすぐ、朝を迎えるが、ダンジョン内の明るさは寝る前と変わらない。

外の光は全く届いていない。

灯りは全て、ダンジョン内に設置されている灯りが頼りだ。


ダンジョン内の灯りは、その灯りの魔道具を破壊しない限り、半永久的に灯っている。

灯りからは各々、ダンジョンにパイプが突き刺さっている。

ダンジョンの壁から、そのパイプを伝って、魔力が供給されている。

ダンジョンは、ダンジョン自体が巨大なエネルギー装置だ。

ダンジョンの壁、床、天井、全てに魔力が満ちている。


ダンジョンに魔力が満ちているのには理由がある。

ダンジョンに魔力が満ちているの理由の1つは、ダンジョンに棲む魔物のおかげだ。

例えば、ダンジョンに棲む魔物同士が戦うとする。

戦って、一方の魔物が力尽きる。

魔物は力尽きると光になって、散っていく。

その光に魔力が含まれていて、ダンジョンに蓄積されるのだ。


もう1つにダンジョンが地下に広がっているというところにある。

地上で、私たちが魔法陣を起動するとき、体外に魔力の余波が放出される。

その余波の微弱な魔力を地上の植物が吸収する。

その植物を伝って、魔力は地下にあるダンジョンに蓄積されるのだ。


ダンジョンは。有益な資源の1つで王国によって厳しく管理されているのだ。

ダンジョンに勝手を働けるのは、相当な世間知らずか、王国に大きな力を及ぼす貴族ぐらいだろう。


私はボーッと、そのダンジョンの灯りを眺めている。

そのとき、私が眺めていた灯りが、揺らいだ。


ん?何か近くにいるのかな。


ダンジョンの灯りを利用することで、魔物が近くにいるかも、実はわかる。

これは、ハンター時代にリュウさんに教えてもらったことだ。


ダンジョンの灯りはダンジョンにつながるパイプから魔力が供給されている。

もし、その灯りが、故障もなく、揺らいだ場合は、その近くのダンジョンの魔力が不安定になっているということ。

不安定になるということは魔力の余波を放つ魔物かハンターまたは、力尽きて、光となって散った魔物がいるということ。

となると、少なからず、戦闘を終えた、魔物かハンターがいると推測できるという話だ。


まあ、だから、簡単に言うと、ダンジョンの灯りが揺らぐと、ハンターや魔物が近くにいるということだ。

ダンジョンの光が揺らいだときは、気を引き締めればいいということだ。


私は、ダンジョンの灯りが揺らいだ理由を探るべく、動き出した。

音を立てないようにササっと、動き、壁に身を隠しながら、魔物がいると思われるところに急ぎ、確認した。


うん、オオカミだね。

寒いからスープを作ろうと思っていたんだよね。


私の目にはオオカミがいい出汁にしか見えなかった。


魔物には2つの討伐方法がある。


①戦闘状態の魔物を狩る。

②戦闘状態じゃない魔物を狩る。


①は何も考えずに討伐した場合だ。魔物は戦闘態勢に入ると、魔力器官を活性化させて、魔力を体に流し、魔法陣を起動して、戦闘を始める。魔力器官が活性化した状態で、ダメージを与えて、息の根を止めると、光となって散っていく。いわゆる完全に光化した状態になる。


②は、戦闘に入る前、魔力器官が活性化していないときに討伐すること。この場合、息の根を止めると、魔物の死体が残る。このように討伐すれば、羽なり、牙なりで装備を作ったり、お肉は食べることができる。また、死体をギルドに持っていくと、在庫がたくさんあるとかじゃなければ大抵、買い取ってもらえる。私もハンター時代は貧乏だったので、自分の食料を狩り、さらに狩って買い取ってもらって生計を立てていた。


オオカミはCランクの魔物で低ランクのハンターが狩りの練習で使う魔物だ。

特に低ランクのハンターは稼ぎが少ないので立派な食料源でもある。

オオカミを光となって散らせないように討伐の練習をすることで戦闘技術を磨けるのだ。


オオカミは危険察知能力が高く、身の危険を感じると、すぐに魔法陣を起動して、戦闘モードに入ってしまう...

光となって散らせるのなら、簡単に狩れるだろうけど...

私はスープの出汁が欲しいのだ。


せっかく、ダンジョン内で見つけたので、光となって散らせるのではなく、お肉として、食べたい。

朝ご飯にスープとして、食べたい。

私は寒いから暖かい美味しいものが食べたいという欲望丸出しだ。


身体強化して、加速魔法陣を重ね掛けすれば、気づかれる前に狩る自信はある。

しかし、無い物ねだりをしても仕方が無い。

私は考える。そして。ある作戦を思いつく。


オオカミは戦闘後らしく、動きが鈍かった。

動くにはまだ時間がありそうだ。


オオカミさん、そこで少しの間、大人しくしててね。


私は少し、その場を離れ、魔剣をブレザーの胸の裏ポケットから、いつも通りナイフ型の魔剣を取り出し、ダンジョンの壁に押し当てた。すると魔剣は煌めく。


魔剣は魔力が触れていないと、鞘から抜くことができない。

私は魔力ゼロなので、普通に魔剣を持つだけじゃ、鞘から抜くことができない。


光化させずにオオカミを討伐するには一撃必殺で倒すしかない。

ブローチを鞘のついた魔剣で斬ることはできても、さすがにオオカミを一撃必殺で倒すことは難しい。

まず、魔剣を鞘から抜くことにしたのだ。


魔剣は鞘からスルッと抜ける。

私は抜いた魔剣を眺めながら、心の声で語りかける。


うん。あなたはいつもきれいよ。なかなか抜いてあげられなくてごめんね。


魔剣は、うんん、抜いてくれてありがとうと言わんばかりに刀身を光らせて私の心の声に答える。

私は鞘から抜いた魔剣を握り、さっきの場所に戻る。


まだいる。まだいる。


私はナイフを投げる態勢を作ろうとする。


左利きだから、左で投げたいけど、ちょうど、壁側で、投げにくいんだよね。


右手で投げようと、魔剣を右手に持ち替えた。

この投げナイフは、ナイフの魔剣だからできることもあるんだもんと思って、生み出した技だ。

私は殺気を出さないように気をつけながら振りかぶる。

そして、投げる。


オオカミはこちら側を向いていた。

しかし、いきなり飛んでくるナイフに、何も対処できず、ふさふさの首元からナイフが体に刺さり、背中側に貫通した。

ナイフ型といえど、魔剣は魔剣だ。

魔剣の切れ味は、どの刃物にも負けない。

そして、オオカミはバタリと倒れた。


私は貫通した魔剣を取りに行き、すぐに討伐したオオカミの元に駆け寄る。

きれいに、ナイフが貫通した傷があった。


まあ、ハンターの時もやっていたからね、慣れているといえば慣れているよね。


私はオオカミを解体して、骨とか毛皮は必要がないので、埋めておいた。

また、それを必要とする魔物が掘り起こして、持って行って、食べるだろう。


私はまた壁に魔剣を押し当てる。

煌めいたのを確認して、鞘に収めた。

魔剣をまた、ポケットにしまう。


私はみんなの元に戻る。

まだ、みんなはぐっすり寝ている。

せっかくなので5人分のスープを作ることにする。


私は荷物から、簡易の魔力充電式のコンロと水と外出先用のちっさい鍋を取り出す。


ふっふっふ、やっぱりこのセットはハンターの必需品だよね。


普通なら、鍋が必需品なのだが、私にとっては3点セットが必需品だ。

魔法陣が自由に使えるなら、ホント便利だよね。

しかし、無いものねだりをしても仕方が無い。うん、なんかさっきも言ったね。


私はオオカミのお肉を大きめにカットした。

そして、鍋に水と一緒に投入だ。

少しの間、煮込むといい匂いがする。

このまま、食べても、美味しいんだけど、ここで、元々、そのまま食べる予定だった、常温で保存できる食料を使う。

昨日、アリスたちがお昼に食べていた食料だ。


この食料、名前は付いていないのだけれど、ハンターの任務の際にちょこちょこっと食べる定番のものだ。

野菜やら、食塩やらが入っていて、直方体に固められている。

周りの袋を取り、ワンハンドで食べられるお手軽食料。

ただ、そのまま食べるのには、味が濃すぎて、食べづらい。

戦った後など、お腹が空いて倒れそうなときは美味しく感じるんだけど、朝、起きて食べるのには辛いのだ。

私はよく、これを湯に溶かして、スープにして食べていた。

今日も、この食料にはスープになってもらおうと思う。

味が濃いということは、旨味の塊でもあるので、スープに入れると、スープの旨味がまして、美味しくなるのだ。


私はその食料を鍋に投入し、スプーンでかき混ぜる。


うん、いい匂いだね。


私はいつも通り、スプーンで掬って、手の甲にのせ、味見する。


あつ!うん、美味しい!


そういえば、みんな、器は持っているよね?

ヒカリは、私は適当に荷物に入れるものを教えたけど、自分で考えて、ちゃっかり、鍋も器も入れていたけど...

最悪、私の器で回し飲みでいいか。


そんなことを考えていると、ヒカリが匂いにつられてか起きて、私の元にきた。


「キミハちゃん、おはよう」

「ヒカリ、おはよう」

「キミハちゃん、いい匂いがする...」

「ちょっとしたスープを作ってみたの」

「定番のスープ...?」


ヒカリは鍋を覗き込む。そして、驚く。


「キミハちゃん!オオカミのお肉が入っているよ!なんで!持ってきてたの?」

「さすがに腐るものは荷物に入れていないよ。さっき狩ってきたの」

「ええ、魔物をどうやって、光化させずに狩るの!」

「まあ、そこは頑張って、ちょちょいとね」

「キミハちゃん、軽々とすごいことを...」


ヒカリと私の話し声がうるさかったのか、スープの匂いにつられてか、他の3人も起きてきた。


「キミハ、いい匂いがするのですが...?」


アリスはそう、私に話しかけてくる。


うん、匂いの方に釣られたみたいだね。


「朝ご飯にと、スープを作ってみたの?食べてくれるかな?」

「もちろんですわ!寒かったので、ちょうど温かいものが食べたいと思っていましたのよ」


アリスは顔を喜ばせる。

ナルとローラは、キミハの手料理がまた食べられるなんて、と顔を輝かせている。


手料理といっても、煮込んだだけなんだけどね...


私は器を持っているか聞くと、3人は持ってきていると答えた。

私はみんなにスープをよそってあげた。

そして、アリスたちに、オオカミのお肉が入っていることにまた、驚かれた。

楽しく、朝ご飯を済ませ、出発した。


昨日と同じく変わりばんこで狩りをする。

出くわす魔物はほとんどがビッグラビットだ。

たまにオオカミが出ては、今朝の私の話もあって、光化させない様にみんな、狩ってみるけど、光となって散っていった。


そんなこんなで何事もなく、遠足は終了が近づいていた。

みんなも疲れが見え始めている。


うん、もちろん、私も疲れているよ!


そんなとき、これから向かおうとしていた通路から、同じクラスの子たちが顔を真っ青にして駆けてきた。


「何事ですの!」


アリスは声を上げる。

駆けてきたクラスの子たちが必死に答える。


「なんか、やばい魔物が追いかけてくるんだ!」


私たちも魔物が視界に入った。

駆けてきた子たちはそのまま駆けていく。

ハンターとしてダンジョンに潜ったならばこの様な擦り付けは御法度だ。

彼らはハンターじゃないし、そんなことを言っていられない...


「プルトナーガ!」


私は声を上げる。


AAAランクの魔物...なんでこんな浅い層にいるの...

体長は5メートルほど、四足歩行で突進し、後ろ足で立ち、拳を飛ばしてくる。

可愛くいえば、ゴリラの様な魔物だ。


プルトナーガは大きな筋肉を唸らし、突進してくる。

その先にはナルがいる。


私は身体強化の魔法陣を起動して、ナルを掴んでプルトナーガの突進から守る。

私とナルは地面を転がった。

私の髪は一瞬、魔法陣を起動したときだけ青くなって、戻った。


「ナル、大丈夫?」

「ごめんなさい、足がすくんでしまって」


そんなの当たり前だAAAランクの魔物に対峙して、足がすくまない人なんていない。


「全員、撤退!すぐにダンジョンの入り口に向かって走って」


私はみんなにこれまで一番大きな声で伝える。

すぐに私は魔剣をポケットから出し、構える。


「キミハ、戦うつもりですの?」


アリスが焦りながら私に声をかける。


「足止めしないと、誰かが巻き込まれかねないでしょ」

「では、私も」

「これは委員長命令よ。アリスもすぐに逃げて」


私はアリスの言葉を切り、真面目な顔で真っ直ぐな目で訴える。

いつもはありえない表情の私にことの重大さが分かったみたいだ。


「わかりましたわ、すぐに救援を呼んで参ります」

「お願い」


ヒカリも私を置いて行きたくない顔をしたが、本気で訴える私に、私もすぐに救援を呼んで戻るよ、と言って、走って行った。


ははは、正直、一番、私と相性悪いよね、この魔物...


単純に魔力の波動で肉体を強化して殴ってくるこの魔物は魔法陣を使わない。

魔法陣を利用して戦う私にとって最大の敵となる。

しかし、ここで、この魔物を自由に解放すれば、他のクラスメイトも巻き込まれかねない。


仕留めることはできないけど...できる限り、時間稼ぎをするんだ...


私はナイフ型の魔剣を構え、プルトナーガに対峙した。

さっき、魔法陣を使った影響か、身体中が燃える様に熱かった。

もう少し進みたかったのですが、この先も長くなるので一旦切ります。

次回はこの続きか、アリス視点のお話になります。

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