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人間と魔族の狭間で仲間外れな私

ここから、キミハ視点です。

ご注意ください。

なんだかすごく心地がいい…

もうこのまま、寝ていたい…


温かくて、心が満たされてゆく…

なんだか、これまでも、この感覚に陥ったことがあった気がする…


まあ、いいや、私は寝る。

眠いときは、体が寝て欲しいとお願いのシグナルを出しているのだから、逆らってはダメでしょう…

私は二度寝をしようとまた瞳を閉じようとする。


しかし、ヒカリがとことこと歩いてきて私の上に乗る。

また、二人目のヒカリがとことこと歩いてきて私の上に乗る。

また、三人目のヒカリがとことこと歩いてきて私の上に乗る。

また、四人目のヒカリが…


ちょちょちょ!ヒカリ!


そして、ヒカリ達が私の名前を呼び始める。


「キミハちゃん!キミハちゃん!キミハちゃん!」

「キミハちゃん!キミハちゃん!キミハちゃん!」

「キミハちゃん!キミハちゃん!キミハちゃん!」

「キミハちゃん!キミハちゃん!キミハちゃん!」


安眠妨害だ!ヒカリは安眠妨害装置だったの!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「キミハちゃん!キミハちゃん!キミハちゃん!」

「ヒカリ…?」


ヒカリが涙を浮かべた顔で覗き込んでいた。


「キミハちゃんが目を覚ました!」


ぼやけていた視界がくっきりだんだん見えるようになる。

私の顔をシオリ先輩とナミク先輩も覗き込んでいた。

二人は至って、冷静なように見える。


ん?


私の左胸に妙な感触があることに気づく。

私は上体を起こそうと力を入れるが、全く起き上がれない。

仕方がないので、私は目だけ移動させ、左胸を確認する。


そこには誰かの手がブレザーの上どころか、その下のシャツの中に入っていた。

かろうじて、下着で、私の胸はガードされている。

私は、目だけで、その手がどこからきたのか辿る。


ナミク先輩か…


まあ、わかるよ、左胸に魔力を感じるからね。これは治療してくれたんだよ!

うん、わかるよ、わかるんだけどね。

この制服、微弱だけど、魔法陣の効果を阻害する物質が編み込まれているからね。

直接、触れるのは、間違っていない。

それに、治癒魔法陣を魔力器官の近くに起動する方が治癒が早いことは、経験則的に正しい。

そう、これは、しっかり、理論に基づいた、合理的な治療。

分かってはいるよ。分かってるんだけど。


私は気づかなかったフリをして、視線をそらす。

真っ赤な茹でダコになった私に気づいたナミク先輩は手をどけた。


「あの、ナミク先輩が治療してくれたんですよね、ありがとうございます」

「ああ、ごめん、その、キミハさんの魔力器官が心臓だったから」

「はい、わかっていますから。ありがとうございました」


ヒカリは涙の雨を私に降り注ぐ。ナミク先輩としょうもないやり取りをしていた間も雨は豪雨となってふりしきっていた。


「ヒカリ、あなた、泣きすぎ」

「だって、だって、だって」

「もう」


なんとか生き延びたみたいだね。私も案外、しぶといようだ。

リュウさんと戦った以来だよ。魔法陣で気を失ったのは。

中級魔法陣くらいなら、まあ、大丈夫か…

上級魔法陣を使うのは流石に、やめたほうがいいね…


私は体にどうしても力が入らなかった。

結局、ナミク先輩に運ばれて、中央塔の救護室に入る。

運ばれている間も3人は私が何者なのかは一切、聞いてこない。

少し、重い空気だ。


私は、ベッドに寝かされた。

3人もどうすべきか迷っているみたいだ。

このまま、何も話さないのは、ずるい気がする。

私は、どうにでもなれと、話す。


「あの、私…」


3人は私を見守って聞いている。真面目な顔だ。


「私は人間ではないんです…」


言葉をなんとか絞り出す。

誰も何も言わない。


「私は、人間と魔族の間に生まれた子供なんです…」


沈黙は続く。


「ごめんなさい、隠していて、私…」


私は涙を流してしまう。

あれだけ、ヒカリに涙を流すなと言っておいて、私は簡単に流してしまうんだ。


なんの涙なのだろう…

魔族であることを後ろめたかったのかな…


うんん、違う。


隠していたことが辛かったのかな。


うんん、違う。


気を失ったとき、昔の夢を見ていた、そんな気がする。

記憶が掻き回された。

これまで沈殿していたはずの秘めていた思いが撹拌された。

もう、頭がぐちゃぐちゃだよ。

私はどこに行き着けばいいのだろう。

私は…


私は魔族国のみんなも救えなかった。

私はお父様もお母さまも救えなかった。


私は、誰も救えない。

無力で無力で無力で。

自分の無さを何度も痛感して。


でも、こうやって、のこのこと生き延びてしまう。

私なんか生き残ったとしても、誰かが助かったわけでもない。

私が助かるたびに、私の代わりに助かった人がいるかもしれない。


どうして、どうして、どうして。

私は、どうしたらいいの。

無力な私はどうしたらいいの。


人間でもなくて魔族でもない私はどうすればいいの。

私はみんなと違うのにどうすればいいの。


私は、心が崩壊した。無力すぎて虚しい。


そんな私の元に寄ってきたのはヒカリだ。


「あのね、キミハちゃん。私、どんくさいから、いつも、いろいろ巻き込まれちゃって、でも、どこかで、キミハちゃんが助けに来てくれるって、謎の信頼感、抱いちゃってた。でもね、今回、キミハちゃんが、魔法陣を使って、倒れちゃって、気を失っちゃったとき、思ったんだ。キミハちゃんも一人の女の子なんだって。キミハちゃんも儚げに散る一輪の花なんだって。私はすごく怖かった。このまま、目を覚さなかったらどうしようって。どうして、口車に乗ってしまったんだろう。どうして、狂言誘拐だと気づかなかったのだろう。どうして、どうして、どうしてって。でもね、キミハちゃんの顔をみていたら、そんな終わってしまったことを考えてもダメだって思った。キミハちゃんは、いつも、自分の次にできる最大のことを考えていたって思った。過去の自分の行いを悔いるぐらいなら、今できる、そして、未来にできることを考えようって思った。これからはそうやって考えられる人になろうって思った。キミハちゃん、私には、キミハちゃんが今、なんで泣いているかはわからない。私はキミハちゃんみたいに頭の回転も良くないから、今のこの空気も読めない。でもね、私は、キミハちゃんが今こうやって、目を覚ましたってことが本当に嬉しいんだ。まだ会ってからたった3日だけど、そんな友情なんて芽生えてないって思うかもしれないけど、キミハちゃんの存在が私を何度も笑顔にさせたんだよっっっ!」


ヒカリは私にダイブしてくる。

怪我人に何やってんだーーっていつもならツッコミを入れただろう。

でも、今はそのダイブで、心に突っかかっていたモヤモヤがはじき飛ばされた気がした。


「ごめんね。言葉は悪いかもしれないけど、私にとっては魔族とか、人間とか、関係ないの。キミハちゃんっていう一人の女の子の存在が私を笑顔にしてくれる女神なんだから!キミハちゃんは女神!」


女神というワードが気に入ったのか、何度も私に女神女神と言ってくる。

はあ、なんか、私、どうでもいいこと考えていた気分になるよ。

私にとっては、ヒカリが女神だよ、ほんと。

また、ちゃんと、私のことを打ち明けられたらいいなと思う。


シオリ先輩とナミク先輩は少し、ヒカリと反応が違った。

シオリ先輩は私に話しかけてくる。


「あなた、もしかして…」


それをナミク先輩が制止する。


ん?なんだろう?


シオリ先輩とナミク先輩はこそこそ話す。

じゃあ、キミハって呼ぶのはいい?という声が聞こえてくる。

私は、首を傾げる。


「あの、キミハさん、キミハって呼んでもいいかしら」


やっぱり、そう言っていたのか。でも、なんで???


「いいですけど…」

「嫌なら、いいんだけど、私はその方がしっくりくるのよ」

「いやでは、無いので」

「ありがとう」


シオリ先輩はさらに近づき、体をムギュってしてくる。


なんか、すっごく、距離が近くなったね。

過去にお会いしてるのかな?

一昨日の騎士団長の時もそうだったし。

なーんか、忘れっぽいんだよね。

自分で言うのもなんだけど、私はとにかく人と関わりまくっている。

魔族国にいた時に姫だった時も、王都にきて農村に暮らしながらハンターをやっていた時も、片っ端から人を助けてきた。

その時、その人が落ち込んでいたら、適当に約束とかして、励ましたものだ。

適当と言っても、もちろん、本気でその人のことは考えてるよ?多分…


「あの、過去に私たち、お会いしていたりしますか?どうも忘れっぽくなっているみたいで」

「ふふふ、おじいちゃんみたいね。さあて、どうかしらね」


と言って、シオリ先輩はナミク先輩の方を向く。

せめて、おばあちゃんにして欲しい。

私はもう一度聞く。


「ナミク先輩、私たち、過去にお会いしましたか」

「お前、あの時、適当に、俺たちと約束したな?」


えっ、お前呼び!ひどい!

ナミク先輩が、あのかっこいいナミク先輩の幻想が崩れた。

騎士団長みたいにふてぶてしいよ!

それに適当に約束していたこともバレてるよっっっ!


この感じ、会ってはいるみたいだね。


「あの、いつ会ったか教えてはくれませんよね〜?」

「思い出したら、教えてやる」


そんな殺生な!


「むぅ、ナミク先輩の意地悪!」

「おい、お前、敬語使えよ」

「意地悪な先輩には必要ありませ〜ん!」

「俺は先輩だぞ、もっと敬え!」

「いやで〜す!」


私とナミク先輩が言い合いをしていると、シオリ先輩とヒカリが笑う。

私とナミク先輩も笑ってしまう。


はぁ、私、幸せだよ。


そんなことをしていると、シャティー先輩が、空いているドアをコンコンとして入ってくる。


「あの、入りづらかったのですが、このままでは、ずっと、入れないと思ったので失礼するわね」

「ごめんなさい、気づかなくて」

「いいえ、それと、ごめんなさい、私、扉のところで、そのキミハさんのことを立ち聞きしてしまいまして」

「ごめんなさい、隠していて」

「いいえ、別に怒ったりはしないわ。人はみんな、秘めているものがあるわけですし」


シャティー先輩は少し、意味ありげな顔をする。しかし、いつものシャティー先輩にすぐ戻る。


「力になれることがあれば協力するから言ってくださいね。あなたはこの学園の生徒なのですから、生徒会長の私はいつでも味方よ」

「ありがとうございます」

「それと、私も、キミハとお呼びしてもいいかしら?」

「もしかして、シャティー先輩も私と…」

「いいえ。私たちはこの学園での出会いが初めてだと思いますわ…」

「では…なぜ…」


私の言葉に、顔を赤くするシャティー先輩。


む?なんだろう。


その答えはシオリ先輩がくれる。


「ただ単に私たちが羨ましかっただけでしょ、シャティー。キミハはあなたのお気に入りだったもんね」

「シオリ!それは本人の前では言ってはダメです」

「会計委員会の後、凄かったわよ、シャティー。キミハちゃん、かわいい!キミハちゃん、かわいい!ってうるさかったんだから」

「ちょ、ちょっと」

「挙げ句の果てには、王族の命令で妹にしようかしらと言い始めていたからね」


ひぃ!そんなことに王権を発動しないでください!


最初は照れていた私だが、王権の話に流石の私も少しひく。


「もう、嫌われちゃったじゃない」


凛々しかったシャティー先輩も崩れていく。

でも、こっちの方が親しみやすい。

シャティー先輩とシオリ先輩は軽く言い合い、いや、じゃれ合いを始める。

仕方がないので助け舟を出す。


「シャティー先輩、嫌っていませんから。私のことはキミハと呼んでください!」

「ありがとう〜キミハ!」


感謝されるようなことではないんだけど…まあ、いいや。


ここで、シャティー先輩は真面目な顔に戻る。


「少し、話が戻るのだけれどね、アリスさんには気をつけた方がいいかもしれないわ」

「ええ!どう言うことですか?」


アリスとは先日、仲良くなったように思っていた。


「先ほど、許しがたい事件がおきましたが、その事件を実行したのが、えっと、なんでしたっけ、あの、太めの貴族でしたわよね」


シャティー先輩に名前を覚えてもらえないなんて、ここまでくるとあのデブもかわいそうだね。

でも、実際、どうでもいい人の名前ほど、忘れる。

ごめん、いや、別に、先輩方がどうでもいい人だって、言ったわけじゃないよ…

…うん、私、黙ろうか。


シャティー先輩は続ける。


「その太めの貴族の方を事情聴取したのです。今回のことは、もう目を瞑ることもできないような事案でございましたので。すると、その貴族の口から、アリス・カナフィルディアさんの名前が出たのです。その人が画策し、自分はそれを実行しただけだと。もちろん、事実確認はできておりませんし、その貴族の狂言であることは否定できません。しかし、用心するに越したことはありません。キミハ、あなたの実力は重々、承知しておりますが、何卒、お気をつけくださいませ」


そう言うと、シャティー先輩は、医務室を離れ、生徒会の仕事に戻って行った。


そこで、先輩方とヒカリとも一旦解散した。

私は一人で、医務室で一夜を過ごすことになる。


はあ、お化けとかでないよね。AAA級魔物の方がよっぽど可愛く見えるよ。お化けは斬れないもん…


夜、20時を過ぎていた。その時、廊下からカンカンと走る音が聞こえる。

私は恐怖で、ガタガタ震える。


こ、怖いよ…


私は枕で、顔をガードして、斬れないけど、左手でナイフ型の魔剣を構え、待機する。

医務室の入り口から、ひょっこり、顔を出したのは、アルバイト先のパン屋のタルラさんだった。


「あんた、なんで、そんなに震えているんだい?私は、怒ったりしないよ…」


タルラさんはため息を1つ吐き、優しくそう言ってくれる。


いや、違います。お化けに恐怖を感じていました、とは言えない。

バイト、完全に忘れていたね。


「ごめんなさい。タルラさん、連絡もせずに、休んでしまって!本当にごめんなさい」

「分かってるよ。そんなに謝るんじゃない。確かに、初めは少し怒っていたよ。それで寮に飛び込んで行ったのさ。そしたら、あの小さい女の子に会ってね、泣きながら、あんたが悪くないと訴えるんだ。それで、ことのあらましを話してくれたよ」


ヒカリ、泣き落としスキルを持っていたの!というか、あの子の涙の保有量は無限大なんだね。1日にどんだけ泣いているのよ。


「あんたも大変だったんだね。よくやったよ、友達を命をかけて救うなんて簡単にはできないよ」

「いいえ、元はと言えば、私のせいでもあったので…」

「ハッハッハ!謙虚なもんさ、まるで、セバスを見ているようだよ」

「セバスチャンですか」

「あいつも無茶していたからね。そんなこと日常茶飯事だったよ」

「そうなんですね…」

「話してやりたいんだが、明日の仕込みもあるから、今日は帰るよ」

「すいません、お手数をお掛けしました」

「このパン、お見舞いに置いていくよ。食べておくれ。ああ、それと、何かに巻き込まれることがあると分かっているときは事前に連絡しておくれ。そうじゃないと、心配するからね。明日の朝のバイトは休みな。しっかり、寝て、体力を回復させるんだ。学校は始まったばかりだろう。今から、飛ばしすぎたら、バテてしまうよ」

「すいません、次からは気をつけます。ありがとうございます」


まあ、巻き込まれるのが分かる予知能力を持ち合わせていないので、イエスとは答えにくいけどね。


タルラさんは、笑顔で、また、と言って、医務室を出て行った。

私はお化けの恐怖に慄きながら、一夜を過ごした。

キミハは気を失っている間に自分の過去の夢を見て、情緒不安定になってしまいました。


次回は視点がまた、変わります。

太めな貴族が出てきます...

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