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魔族国の姫(前編)

ここから、視点がキトシナになります。

ご注意ください。

「キトシナ様、そろそろ、お目覚めになってください」

「セレス…あと15分ほど…」

「いいのですか、明日は早起きして、魔法陣の鍛錬を頑張るの、とおっしゃっていたキトシナ様はどこに行ってしまったのかしら」

「むぅ!セレスの意地悪っっっ!」


私は体を起こした。

この意地悪なメイドは私の筆頭メイドのセレスティーヌは20代前半で、お城に使えるメイドの中でもかなり若い。

すらっと身長が高くて、胸も邪魔そう。金髪の髪の毛は光に当たると星のように煌く。


私だって、大人になったら、そのうち美しい女性になるもん。


「キトシナ様の綺麗な青色の髪の毛が、寝癖で大変なことになっておりますわよ」

「ひゃっ」

「昨日、乾かさずに寝るからですよ」

「だって、ドライヤーが熱くて、耐えられないんだもん」

「かといって、聖級の魔法陣で使用人を締め出すのはおやめください」

「だって」

「だってではありません。それに風邪をひくことだってございます」

「むう、セレスのおこりんぼ」


そんなことを話していると筆頭執事のセバスチャンが部屋に入ってきた。


「おはようございます。キトシナ様。そろそろ魔法陣の鍛錬を…とまだパジャマ姿とは…セバスチャン、一生の不覚です。キトシナ様がこんなにもグータラされる方とは思いませんで、女性の寝室に入ってしまったようです」

「セバス、キトシナ様はグータラなのです。今後はそのことを忘れないように」

「もう!起きるわよ!私の側近はどうして意地悪ばかり言うのよ!」


私は布団をセレスに投げて、ベッドから跳ね起きた。

使用人たちはそんな私の姿を見て笑った。


私はキトシナ・アヒタ。9歳。

アヒタというのは王国の王家の家名だそう。

でも、今住んでいるのは魔王城。

魔王城は王国の隣にある魔族国の中にある。

私は魔族国の魔王様のお父様と王国の女王様のお母様の子供だそう。

お母様にはお会いしたことがないからわからないのだけれど。

魔族と人間がユウコウカンケイ?を結ぶためにお父様たちはケッコンしたそう。

なんでも、タイガイジョウセイ?がよくないらしい。

私の命も危険なのだそう。

そのタイガイジョウセイ?がよくなるまで、魔王城で暮らすそう。

あと、私は魔法陣を使う才能があるらしい。

だから、魔法陣をたくさんうまく使えるように頑張る。


「キトシナ様、着替えはすみましたか?」


セバスチャンがお部屋にやってくる。


「はい、今日もよろしくお願いします」


私は魔剣のロングソードを手に持ち、セバスチャンとともに外に出る。

セバスチャンは執事であり、先生だ。教えるのがすごく上手い。そしてうまくいかない時は優しく教えてくれる。

セレスが初めは教えてくれていたのだけど、熱血すぎて、怖くて、私、逃げちゃって…

怖いのは嫌だもん。


魔王城の敷地はすごく広い。

塀も高すぎて、外の街も見えない。

私は魔法陣の鍛錬を始める。

最近は魔王城の図書館の魔法陣も制覇してしまった。

覚える魔法陣もなくなったので、外の図書館に取りに行く。


「リナフクルチャ・カーディリゼント!」


私は聖級の回廊魔法陣を展開し、魔力をこめる。

ここで、魔力量を司るサークルの右下部分に本気で魔力をこめる。

すると知らない図書館に連れて行ってくれる。

それに気づいた私は連日、その図書館に通っている。

セバスチャンは急に消えて急に戻ってくるから心臓に悪いと言っていたけれどね。


「キトシナちゃん、また、来たの?」

「ごめんね、ガブちゃん」

「いや、いいんだけどね、魔王に心配かけないように早く帰りなさいよ」

「はーい」


この人は、がぶりえるって人だ。正確には人じゃなくて女神なんだって。

言いにくいので、ガブちゃんって呼んでる。

ガブちゃんは天界図書館の司書をしている。

そして、今はお父様の守護女神なんだって。

初めてきた時は、あなた、どうやってここにきたのって驚かれた。

私はどうやってかわからないから、わからないと言って、はにかんだ。

その時は、どうやったのかしらと私を興味津々で見ていたけど、最近はそんなことはなくなった。

天界図書館というか天界にこれる下界の者はゼンレイがないらしい。

普通は天界の女神が下界に現れて、守護してあげるんだって。

それにセバスチャンが古い人たちが魔法陣を編み出したと言っていたけれど、ガブちゃんによれば、魔法陣は天界で女神たちが作ったんだって。

困り人を守護するために教えた魔法陣がその人が開発したかのように発表してるんだって。

でも、実際、急に知らない人が天から降りてきて魔法陣を教えてきても、現実か夢か区別がつかないよね。


ここには私が知らない聖級の魔法陣や神級の魔法陣の本がたくさんある。

それを読んで試すのが楽しい。

聖級までは簡単なんだけど、神級は私でも使えない。

セバスチャンに教えてもらったんだけど、器官段階が足りない可能性があるんだって。

でも私の魔力器官は前代未聞の強度みたいで正確には測れないんだって。

聖級が8段階で、神級が16段階だから、その間だとは思う。

今の私には聖級を起動すると同時に初級も起動できなくなるから、大きくなったらもっと私のギリギリにチャレンジしてみたい。


今日はこれにしようかな?


私は広域を守護するかっこいい神級の魔法陣を見つける。


読み方はライトニング・パルシオン・クルナーデ・スマルフォン?かな


この図書館の本は私には読めない字で書かれていて、イラストでどんな魔法陣が感じ取って、既知の魔王城の図書館の魔法陣の詠唱の発音と天界図書館の本の魔法陣の詠唱の発音を照らし合わせて、文字の発音だけを推測して、読んでいる。正しい保証もない。

私は魔法陣を頭に焼き付けて暗記して、回廊魔法陣の上に乗って、魔王城に帰る。


「セバスチャン、戻ったよ」

「おかえりなさいませ、使いたい魔法陣は見つけられましたか」

「うん、光がドバッて出て、広域を守ってくれそうな魔法陣を見つけたの」

「ふふ、それはそれは派手な魔法陣ですな」

「かっこいいから使ってみたいの」


いつも通り、セバスチャンと会話していると、カランカランと鐘が鳴った。


街の方かな?


セバスチャンの元に、城門から一人の兵士が駆けてきて、何かを告げて、城に戻った。

セバスチャンは一瞬、顔を強張らせたけど、すぐにいつもの優しい顔になり、私の方に駆け寄ってきた。


「どうしたの?セバスチャン?火事か何かかしら?」


鐘が鳴ると大抵、火事だ。私は何度も魔法陣で火事を消してきた。


「いいえ、キトシナ様。人間軍が押し寄せてきているようです」

「ええっ、それは、どういうことなのですか?お父様とお母様はユウコウカンケイを結ぶために…?」

「まず、場所を移しましょう。キトシナ様。ここにはすぐに戦火が押し寄せてくるでしょう」


セバスチャンは私を抱え、城の中に入ろうとした。しかし、城の入り口にセレスティーヌがいた。

すぐに壁の裏に隠れるように指示した。


「セレス?」

「城の中はダメだ。セバス。謀反のものが多くいる!」

「何!」

「魔王城が落ちるのは時間の問題よ」

「魔王様は?」

「それも分からない」


私は何を話しているのか分からず、セバスチャンに聞いた。


「あの、セバスチャン、どうかしたの?」

「キトシナ様、どうやら、魔王城が裏切り者の手によって、乗っ取られたようなのです」

「ええっ、お父様は大丈夫なのですか」

「私にもわかりません」


分からないと答えるセバスチャンは初めてみた。私はそれほどのことが起こっていることは理解した。


「セバスチャン、おろしてくださいませ」

「ですが」

「駆けて、逃げたりしませんから」


私は真剣な顔で訴える。

セバスチャンは、仰せのままに、とおろしてくれた。


私は、セバスチャンの抱っこの邪魔にならないように両手で抱えていた、自分の身長くらいある魔剣を抜いた。

地面に魔剣を向ける。意識を集中させる。

先ほども使った魔法陣を展開する。

座標の意識をお父様のいる魔王殿に集中させる。


「リナフクルチャ・カーディリゼント!」


魔法陣は輝き、城の外部の今いる場所と魔王殿が繋がった。

すぐに私が何をしたか察したセバスチャンが、すぐに入ろうとした私を制止する。


「キトシナ様、私が先に参ります」


私は先陣をセバスチャンに譲る。一度セバスチャンは魔法陣に入ったあと、戻ってきた。


「まだ、魔王殿は落ちていないようです」


その言葉を聞いて、セレスティーヌと私も魔法陣に入った。

そこにはお父様とガブちゃんと少ない側近がいた。

側近たちは、魔王殿に1つだけある扉に何重にも魔法陣をかけて防御している。

そこまで、謀反の者は迫っているのだろうか。

私はお父様のもとに駆け寄る。


「お父様!」

「キトシナ!」


私は魔王殿の大きな椅子に腰掛けるお父様に飛び乗って、顔を胸の部分になすりつける。


「キトシナ!よく聞け。この城はもうじき、落ちる。キトシナはその回廊魔法陣をできるだけ遠くにつなげて避難するんだ」

「そんな、お父様は?」

「俺はここに残る。少しでも、城の制御を奪われる時間を稼ぐ」

「そんなことをしたら、お父様は!」

「キトシナ!俺はお前にしかできないことを頼みたい。魔族一、いや、この下界で一番の魔法陣使いに頼みたいことがある」


私はお父様の初めての重いお願いごとに頷くことしかできなかった。


「魔王軍は人間と友好関係を結ぶことを推進する派閥と対立することを推進する派閥に分かれていたのだ。しかし、謀反の者によって、友好関係を結ぶことを推進する派閥の重鎮が殺害されてしまったのだ。私の派閥は総崩れとなった。都合のいいタイミングで人間軍が押し寄せてきた。これは何者かの陰謀である可能性が高い。対立することを推進する派閥は、全滅する前に最後のあがきとして、魔王城に秘められた王国への攻撃魔法陣を起動するつもりでいる。起動すれば、たちまち、王国の王都どころか、周辺の街も焼け野原になってしまう。それは避けたいのだ。そこまで含めて、陰謀であった場合、そのあと、不幸なことが起こるのは目に見えておる。キトシナ!俺がここにいる限り、攻撃魔法陣の制御は俺しかできない。俺が時間を稼ぐから、お前は王国を守るんだ!お母様を守るのだ!これ以上の犠牲者を出してはならん!」

「お父様…!」


話の内容はよく分からない。王国を守ってほしいということしかわからない。

お父様の目はお別れの、それも、永遠の別れを悲しむ目をしていた。

私は涙を浮かべる。

だからこそ、私はここで嫌だとは言えない。

今もこうして戦況が動いているのだから。

私は、意を決して、お父様の膝から降りる。

そして、両手で抱えていた重い魔剣を抜く。

魔剣の先を地面に向ける。


「リナフクルチャ・カーディリゼント!」


私はここと王国と魔族国の間の草原に回廊魔法陣を展開した。

私とセレス、セバスチャンは魔法陣にのる。

足から、転移が始まる。


「キトシナ!笑顔だけは忘れるなよ!」


お父様は右手を上げて、笑顔でそんなことを言う。


「お父様もお元気で!」


私はとまらない涙を流しながら精一杯の笑顔でそう答えた。

次回もキトシナの話が続きます。

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