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ヒカリと行く初級ダンジョン(後編)

私はここにいる説明をした。もちろん、ヒカリが今、命の危機に瀕していることもだ。


「私たちは、そのヒカリさんを探しにきたのよ。これのアラートが鳴ったのよ」


シオリ先輩はブレザーのポケットから、折り曲げられたカードを取り出す。


「それって、確か」

「うん、エマージェンシーカードよ」


エマージェンシーカードは委員会が特別に警護の必要な生徒に渡すカードである。

折り曲げると特殊な魔力の余波を放ち、委員会に設置された警報を鳴らす。

エマージェンシーカードには番号が振られている。

シオリ先輩が持つエマージェンシーカードの番号は朝、シオリ先輩がヒカリに渡したものだった。


「エマージェンシーカードを渡していたのヒカリさんだけだったから、俺たちもヒカリさんに何かあったのではと急行したんだ」

「これ、どこに?」

「縦穴の入り口付近だよ。縦穴に入ろうか悩んでいるときに、このドジな女の子は足を滑らせて落ちちゃったのさ」

「いいじゃない。どーせ、中に入って探すことになっただろうし」


ドジと言われ、シオリ先輩は少しむくれている。


「それで、縦穴の先でキミハさんを見つけ、驚いたってわけさ」


ナミク先輩は身振り手振りをしながら説明してくれた。

でも、これで、振り出しだ。ダンジョンの階段を早く探し出さなくては。


シオリ先輩は周囲の地形の3Dマップを作る魔法陣が使えるらしい。


先輩たちとそれを使って上階に行く階段を探そうと決めたとき、強烈な魔力の余波を感じた。

急な魔力の余波に気持ち悪くなり、私はその場でうずくまった。


ヒカリの魔力の余波だ。相変わらずの魔力量。


「どうしたのキミハさん!」


シオリ先輩が駆け寄ってくる。


「ヒカリが…今…大きな魔法を…すでに命が危険なのかも…」


魔法陣は使えば使うほど、魔力が減る。魔力を使いすぎると、ぶっ倒れて動けなくなることもある。

それを覚悟するような大きな魔法陣をヒカリは放った。

ヒカリの身は完全に危険に晒されている。


「シオリ、サーチの魔法陣を」

「その代わり、そのあとは全部、任せることになるよ」

「今は急ぐしかない」

「うん、そうだね」


シオリ先輩はひとつ深呼吸をして、手を前にかざす。


「ポスナ・アールカルデ・クイタマイヤハン・ソータイルナーべ!」


捜索の上級魔法陣の詠唱だ。

普通、捜索魔法陣は見知った人それも、半径100メートルくらいの人を探すのに使う。

しかし、この魔法陣は普通の探索魔法陣とは違う。

一度、王国の機関のパーソナルデータ格納魔術具に問い合わせて、王国中の魔力のデータを取得する。

その後、周囲半径1キロほどで魔力データと合致する魔力を持つ人の現在地からの座標を検出。

かたっぱしから、名前と現在地を取得できるというハチャメチャな魔法陣だ。

使える人がいたなんて凄すぎる。私はもちろん起動できない。しようと思ったこともない。

上級魔法陣といえど、起動の難しさは聖級をも上回るだろう。

普通の魔法陣を起動する際は4分割の扇型の比重を考えて、魔力をこめる。

しかし、この魔法陣は複雑な構造で、100分割の扇型の比重を考えて、魔力をこめる。

そんなこと、やり方も感覚もわからない。

ただ単に必要な器官段階が上級魔法陣というだけだ。


シオリ先輩がこれを使えば、何もできなくなるとは、この後、魔力切れで戦力にならないということだろう。


「見つけた!タナ・アルファナ・コールスダン!」


周囲、1キロの地形を表示するマップを魔法陣で作り、表示してくれた。この3Dマップは縮小拡大自由自在だ。


「ここよ」


初級ダンジョン第7層。階段前?どういうこと?


「階段の前に魔法陣か何かが仕掛けられていて、階段に逃げ込めないのだろう」


ナミク先輩はそう考察する。

うーん。少し考えるが、時間はない。とりあえず駆けつけることにする。


「この場所だったら、この縦穴、登った方が速そうだな」

「ロープもないから登れないよ」

「誰かが落ちたから、付け損ねたな」


シオリ先輩とナミク先輩はそんな言い合いをする。


落ちる?あっ、上る方法あるじゃん。でも、それは嫌だ。私が適任になってしまう。


私と同時に思いついたらしいナミク先輩は私の顔をニヤッと見る。


「キミハさん、同じこと考えたよね?」

「いえ、階段を探しましょう」


私は階段に向かって駆けようとしたとき、ナミク先輩はヒョイっと私を抱える。

私は首を振って、抵抗する。心臓が勝手にバクバクと鳴る。


嫌だ嫌だ嫌だ。絶対死ぬ。私の墓場がダンジョンの天井になる可能性もある。


シオリ先輩は何が行われるのかわからず、見守っている。


「大丈夫、キミハさん、小さいから、天井に当たらないって!去年の球技大会で俺は豪腕のピッチャーだったんだ!」


そういって、手に身体強化の魔法陣を2つ重ね掛けする。私を右手の手のひらに乗せて、大きく振りかぶる。


「ノーコンだったけどねっ!」


私はナミク先輩に豪速球として、投げられる。

最後の言葉で恐怖が倍増する。私は叫びながら、目をつむり、体をできるだけ小さく丸めた。


ひぃぃぃぃぃ。


私は縦穴を上向きに落下し、ダンジョンの第5層の天井に着地した。

すぐに天井を蹴り、軌道をかえ、今度は5層の地面に着地する。


助かった…ストライクですよ…ナミク先輩。


私は縦穴のよこにヒカリと来たときには落ちていなかった者を見つける。

シオリ先輩が落ちる前にロープの準備をしていたのだろう。

ロープとダンジョン専用ペグが落ちていたので、それを使って、ロープを垂らした。

もちろん、一人で、ヒカリを助けに行くてもあった。

でも、ダンジョンはそんな簡単なものではない。

ついてくれる先輩がいるのなら一緒に行くべきだ。急がば回れだ。

先輩たちはロープを使って、すぐにのぼってきた。


私たちは駆け出した。私たちは7層に降りる階段にたどり着き、駆け下りた。

そこにはあり得ない光景が広がっていた。


A級のベアードッグの群れが数百匹、そこにいたのだ。

ベアードッグは二足歩行の熊にブルドッグみたいな顔がついた魔物だ。

体長が2メートルから3メートルある。

爪が鋭利で引っ掻いて攻撃する。

私は階段の入り口にある魔法陣に気づく。


あれは、回廊魔法陣!


直径10メートルはある魔法陣から、ベアードッグがどんどん湧き出てくる。

ダンジョンの深い層とこの層をつなげているんだ。


ヒカリは?


ベアードッグが群がっている場所がある。


あそこか!


ヒカリはライトニングレーザーを壁のように形状変化させ、ライトニングウォール?にして防いでいた。

いつ、魔力切れになってもおかしくない。

先輩たちは身体強化をして、ヒカリの元に向かう。

私はまず、魔法陣を破壊するために動く。

入り口のすぐ前だったので、すぐに破壊できた。


よし、ヒカリ、行くよ!


そのとき、ヒカリのライトニングウォールが決壊した。

先輩たちはヒカリの元に急行しているがまだ距離がある。

ナミク先輩は二重魔法陣の身体強化をしているが、このままでは間に合わない。

シオリ先輩もヒカリの名を叫びながら、近づこうと頑張っている。

しかし、数が多すぎて、まともに進めていない。


ヒカリ…あなたを助けるためだったら、私は…


今、あなたを助けなかったら、私はどうして、あのとき助けようとしなかったのだろうとあとで思うだろう…


やらずに後悔するなら…私はやって、後悔したい…たとえ、命が燃え尽きようとも…


「キストラデーテ!」


私は7層入り口で目を瞑って直立し、静かに身体強化の魔法陣の詠唱をした。

先輩方は、私が魔法陣を使って驚いている。


私は走りだす。


まだ、足りない!


「キストラデーテ!」


走りながら、身体強化を二重にする。


まだ、足りない!


「キストラデーテ!」


身体強化の三重魔法陣で全速力で突き進む。

私は、ナイフ型の魔剣をブレザーの胸の裏ポケットから取り出した。

右手で鞘の部分を掴み、腰のところに持っていき、抜刀の準備をする。


私に気づいた魔物が爪で私を斬撃する。

私は爪の当たるギリギリ、最低限で交わす。

魔物の爪は私のポニーテールを結ぶ、リボンをかすめる。

リボンは光となり消え、私の髪はすらっと解放された。

と同時に、こげ茶色の髪はみるみる、輝く大河のような青色に変わっていく。


私は魔物の斬撃を交わしながらヒカリの元に走る。

今、一匹の魔物がヒカリに斬撃を与えようとしている。

ヒカリはもう、動く力も残っていないようだ。


まだ!足りない!


「キーナスルナルト!」


私は加速魔法陣をかけ、四重魔法陣にする。

私はヒカリを襲う魔物に向かって、地面をけって、飛んで一気に距離をつめる。

空中にいる私に魔物の一匹が爪で攻撃してくる。


邪魔をするなぁぁぁ!


右手の魔剣で防ぐ。そのとき魔剣の刀身はロングソードの長さになっていた。


まだぁぁぁ!


「フルベナークシュマイタン!」


私は空中で魔剣に威力増加魔法陣を起動し、五重魔法陣にする。

メガネは光となって消え、私の緑色の目は光を放っていた。


私は本気の速度で抜刀し、ヒカリを襲う魔物を背中から横一文字にぶった切った。

ヒカリに襲いかかっていた魔物は爆発し、光となる。

私は、ヒカリの前に着地した。


間に合った…


私は、左手に魔剣、右手で腰のところに鞘を持っている状態でヒカリの前に立っている。

髪はポニーテールが解け、青色に輝かせ、黒縁メガネが消え、緑の目を光らせる。

その時の私はこれまで一緒に過ごしていた少女とは似ても似つかない少女であっただろう。


「キミハちゃん…なの…?」

「ヒカリ…よかった…」


私はすぐに振り返り、数百匹の魔物をかたっぱしから斬りまくる。

先輩方も、途中から、私の邪魔にならないようにするしかなかったようだ。

五重魔法陣の私の前には魔物は斬撃をしようとする前に死んで光となっていった。


それは人間のなし得ることではない。


そう、五重魔法陣を扱える人間なんていない…


私は…


最後の魔物を斬り、私は力尽きる。

仰向けに倒れ、右手に握っていた鞘も左手に握っていた魔剣も投げ出された。


もう、力も入らない。


そんな私にヒカリが駆け寄ってくる。


「キミハちゃん!」


ヒカリは四つん這いとなって、私の上に重なってきた。

ヒカリはポロポロ私に涙を落としてくる。

ヒカリは口を開かない。

何を言えばいいか言葉が出てこないのだろう。


少しの沈黙が訪れる。


私はヒカリに謝る。


「ごめんね…私のせいで…こんなことになっちゃって…」

「なんで、なんでキミハちゃんが謝るの?」


ヒカリはさらに涙を大粒にする。


「私と…関わったから…ヒカリは襲われたんだよ…?家族は大丈夫だった…?」

「うん。狂言誘拐だったよ」

「そっか…よかった…」


私の体はもう限界だ。血管が至るところで断裂し、体の外まで流血し始める。


「ごめんね…ヒカリ…私はあなたを死なせずに済んでよかった…」

「キミハちゃん!」

「泣かないで…ヒカリ…あなたは笑っている方が素敵なんだから…」

「そんなこと!」

「私はもう限界だからさ…」

「キミハちゃん!」

「今までありがとう…ヒカリ…」


私は現実から意識が遠のいていった。

今回で一度、話が切れます。

次回は、視点もキミハから変わります。

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