初めての風紀委員会
私たちはお昼ご飯を食べようと、クラスルームにやってきた。
寮に戻ってもよかったんだけど、森の中を15分もかけて戻っていたら、めんどくさい。
かと言って、この学園は食堂みたいな安くご飯を食べるところはなく、高級レストランが3軒ほどあるだけだ。
とてもじゃないけど、私たちでは払える額ではない。
結果、寮でお弁当を作って、クラスルームでご飯を食べる作戦に落ち着く。
今日は朝、バタバタしてしまったので、グリードさんにもらった残りのパンと、ヒカリが今朝作ったコンソメの野菜スープを容器に入れて持ってきた。
昨日決めたのだけれど、その日の食事当番がお弁当を準備することにしている。
クラスルームはがらんとしていて、私たちだけが座っている。
今日は午後から、授業はないので当たり前と言えば当たり前か。
私たちは広々と机を使って、パンとスープを並べる。
しかし、食べようとして気づく。パンもスープも冷めてしまっている。
ここで、得意げにヒカリが声を上げる。
「キミハちゃん、ここは私にまかせて」
そう言うとヒカリはファイアボールを詠唱する。手のひらにのりそうな大きさのファイアボールを作り出し、左手にのせ、右手でファイアボールを、えいっと潰す。すると程よいサイズの平らなファイアペーパー?が完成した。出力がかなり抑えられており、熱いというよりは温かいという感じだ。
私は突然のありえない魔法陣の使い方に驚いた。
「え、ヒカリ、どうやったの?」
「え?ただ単にファイアボールを潰しただけ?私もわかんない」
そう言って、へへへとヒカリは笑う。エンジェルスマイルだ。
ヒカリさん、気付いてないけどね、世紀の発見レベルのことですよ。それ。ほんとに。
おそらく無自覚な天才なのだろう。ライトニングレーザーしか使えない魔法陣使いとは思えないよ。
無意識に感覚的に魔法陣改変してしまってるよ。
ヒカリは作り出したファイアペーパーにパンとスープは容器ごとのせる。
香ばしい香りが蘇った。
温まったのを確認してヒカリは右手を顔の横に持ってきて軽くスナップをきかせて、右手をふると、ファイアペーパーが消えた。
ファイアボールを消す動作でちゃんと消えると言うことは、ちゃんと、ファイアボールの魔法陣ではあるみたいだ。
魔法形状は魔法陣のどの部分で制御してるんだっけ?魔力変換のところだっけ?
まあいいや。そのうち考えよう。今は温まったパンとスープを楽しまないと。
私はヒカリにありがとうございますありがとうございますとお礼してからパンとスープをほうばる。
うん、美味しい。
私とヒカリは持ってきていたパンとスープを全て平げた。
「じゃ、ヒカリ、私、風紀委員会に行ってくるね」
「うん、じゃ、また、後で」
私はヒカリと別れ、また、中央塔5階に向かう。
委員会に出席するのも3回目だ、もう慣れたと言えば慣れた。
いつも通り、1年生が座る場所の中でも目立たい席を選んで座る。
シャティー先輩、ナミク先輩の自己紹介が終わる。
やはり、ナミク先輩の自己紹介の時は1年生の貴族たちの顔が下賎の者を見る目になっている。
対照的に上級生たちはナミク先輩を支持してるようだ。
だって、ナミク先輩、強いもん。
私はナミク先輩にドラゴンの剣から救ってもらっとことを思い出す。
少し、胸がドキドキする。
あのときはギリギリの戦いだったから、息も上がっていた。そのことも思い出したのだろう。
ナミク先輩が風紀委員の説明を始めようとした時、1つの手が挙がる。
「あの、1年10組の…」
1年10組の貴族の誰かが手を挙げて、自己紹介を始める。
そして、この空気の中、ありえない進言を始める。
「風紀委員長が平民なんてありえません」
他の1年生の風紀委員も、そうだそうだ、と言う空気になる。
本物の馬鹿たちだと思った。
「俺が委員長をやろうとは言いません。貴族の先輩方を差し置いてそのようなことは言えません。誰か、先輩、この平民の代わりに委員長をやっていただけませんか?平民の下で委員の仕事をするなんて、真っ平です」
先輩の委員の人たちも、どうする?と言う空気になっている。
去年の俺たちを見ているようだと小声で聞こえる。
「先輩方も腑抜けな方ばかりなのですね。平民に命令することもできないなんて。貴族としてあの平民にわからせてやります。おい、そこの平民、俺に委員長の座を譲れ。譲れば、決闘でお前を痛みつけたりなんかしないぞ」
ナミク先輩は1つ、めんどくさそうに息を吐き、答える。執事のように丁寧に頭を下げた。
「決闘をお受けいたしましょう」
「平民のくせに肝が座っているんだな。平民はつべこべ言わずに貴族の意見に素直に従うべきだぞ。恐れ知らずな無礼な平民もいるもんだな」
ぷっちーーん。沸点低いですよ私は。
私は立ち上がり、声を張り上げる。
「あなたのような方にナミク先輩の決闘のお相手をする資格もありません。決闘であれば私が引き受けます」
「なんで、お前みたいなチビの平民と決闘しなければいけないのだ」
突然の発言に周りの先輩も一年生も、そして、ナミク先輩もシャティー先輩も唖然としている。
「ふーん?怖いのですね」
「貴様!」
「私があなたに勝ち、10組の風紀委員になった暁には、新しい風紀の制度を取り入れて見せましょう。そうですね、まず、髪の毛の長さは1ミリまでといたしましょう。女の子はかわいそうですので男の子だけです。伸ばしすぎてはダメという規則はありますが、短くしてはダメというルールはございませんから、クラス制度としては問題ないでしょう」
「貴様!」
私はなぜか激おこになっている。これでは飽き足らず、口はまわる。
「ん?まだ足りませんか?それでは、ズボンの裾を短くいたしましょう。学園規則ではズボンの長さの規定は全くございません。そうですね、ズボンの裾を股下10センチという規定も付け加えましょう。ふふふ、半パン登校ですね。涼しそうでいいじゃないですか。ごめんなさい、ブレザーは夏服、冬服規定というものがあって、規定を面白く変更することができないのよ。アンバランスになってしまってごめんなさいね」
「いいだろう、決闘だ。俺が勝ったら、お前はクラスの奴隷だ。そのブレスレットもよこせ」
「いいでしょう、私が勝てば、その緑の宝石をいただきましょう」
私たちが勝手に話をまとめると、ナミク先輩が制止する。
「キミハさん!」
私は不意に名前をナミク先輩に呼ばれ、胸の鼓動が早くなる。
「はい!」
元気よく返事をしてしまった。
「勝手に俺の決闘を買うんじゃない」
「すみませんっっっ」
元気よく謝ってしまった。
「おい、俺に不満があるやつ、アリーナに来い。まとめて相手してやる」
ナミク先輩は睨みをきかせて、大きな身振りで来いと示した。
私はそんなナミク先輩を見て、頼れる先輩だと感じた。
風紀委員は全員、アリーナにきた。移動途中でギャラリーも増え、人数は膨れ上がっていた。
「会長」
「はいはい、見届け人をやらせていただきますわ。確認ですけれど。あなたたちが勝てば、ナミクくんの委員長の辞任でいいですか」
決闘する4人の1年生がうなずく。
「ナミクくんは何を求めるのですか?」
「平民の一年生にちょっかいを出すな」
ナミク先輩の言葉と同時に私に視線が集まる。
私はそれにびっくりしたのか鼓動がまた早くなる。
私というかヒカリだと思うよ。
「先日、平民に一年生を強制的に奴隷にしようとする事件が起きた。そのようなことは風紀委員長として、取り締まらなければならない。新入生、肝に命じておけ。次の処分は軽くないぞ」
ほら、ヒカリのことだ。
私は正解したのになぜかがっかりした気分になる。
「では、決闘を始めますので、みなさん、少し下がってくださいませ」
ギャラリーが近いのでシャティー先輩は5歩ほど下がらせた。ギャラリーで円形の闘技場が完成した。
「では、始め」
ナミク先輩は掛け声と共に、1年生に向かってゆっくり歩き始めた。
1年生はナミク先輩に向かって走り出す。魔法陣は使えないみたいだ。
一人がナミク先輩をとらえて、魔剣を振る。
ナミク先輩は剣を受ける。次の瞬間、パキーンとなる。剣が折れる音だ。
打ち合わせて剣が折れるのは受けた剣と相場は決まっている。
みんながナミク先輩の魔剣を確認する。しかし折れていない。
折れたのは一年生の魔剣だった。
ナミク先輩は、そのまま、魔剣を振り下ろすと、貴族にあたる。
ブローチに当たってもいないにもかかわらず、1年生のブローチは瞬く間にキラキラと光となって消えた。
また、魔剣を受けて、パキーン、キラキラ。
パキーン、キラキラ。
隣からは声が聞こえる。さすが”魔剣折り”の異名を持つだけはあるな。
魔剣折り??まあ、確かに、世界の物質でも一番頑丈なはずの魔剣がポッキポキ折れているからね。
魔力保有量はナミク先輩より1年生の方が圧倒的に多い。
魔力を集中させているナミク先輩の魔剣と平均的に体にも魔剣にも魔力を漲らせている1年生の魔剣が打ち合えば1年生の魔剣が負けるだろう。
ナミク先輩の魔力操作は誰にでも真似できるものではない。
簡単に見れるものじゃないからギャラリーも増えたのだろう。
1年10組のなんとかって貴族以外はブローチが破壊された。残りの一人は怖いのか突っ込みもしてきていない。
ナミク先輩はゆっくり歩いて近づき、足が震えて動けなくなった一年生のブローチをぶった斬った。
最後は覇王みたいだった。私はナミク先輩が勝利したことを自分のことのように喜んだ。
風紀委員会の続きはそのまま、アリーナで行われ、第一回風紀委員会は終了した。
次回は、ダンジョンに行きます!