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初めての魔法陣の授業(前編)

1年1組の面々はアリーナに集合している。


今日から授業が始まる。

第一学園は午前、午後で授業が分かれている。

午前の授業は9時から、午後の授業は13時から始まる。

授業の時間が定まっているわけではなく、先生が生徒の進捗などを確認して、授業の終了を決める。

長くても授業は2時間程度なので、時間的な余裕はたくさんある。

空いた時間で自主練習を行うのだ。

もちろん、委員だったら、その間にコピーをしたりだとかの作業をする場合もある。


午前の授業は魔法陣の実技訓練だ。

私が一番心配している科目でもある。

なんせ、魔法陣を起動できないからね。

キヨルデ先生が私たちの前に立つ。


「1年1組の魔法陣実技の授業はわたくし、キヨルデです。お願いしますね」


キヨルデ先生はおっとりしている担任の先生だ。


「それでは、実技に入る前に、少しだけ、魔法陣の知識を補強しておきましょう」


キヨルデ先生の授業が始まる。


魔法陣は魔力器官という体の器官から魔力を送り、血中を流れて、伝達され、起動する。

魔力器官の強さは2つに分類される。


①魔力保有量 魔力を蓄える力

②器官段階 同時に起動できる魔法陣の数を表す指標


①は分かりやすい。

どれだけ魔力を蓄えられるかだ。

魔力が大きいほど、大きい魔法が放てる。


②は少し分かりづらい。

魔法陣を、初級なら1段階、中級なら2段階、上級なら4段階、聖級なら8段階と計算して、魔法陣起動時に自分の器官段階より低い段階なら魔法陣を起動できる。

普通の魔法陣使いは2段階の能力を持つので2段階の魔法陣使いで説明する。


まず、中級魔法陣を起動したとする。

この時点で2段階分の能力を使っている。

続けて、中級魔法陣を起動したまま、新しい魔法陣を起動することはできない。


今度は、まず、初級魔法陣を起動したとする。

この時点では1段階分の能力しか使っていない。

続けて、初級魔法陣を起動したまま、もう1つの初級魔法陣を起動したとする。

これは起動できる。

この時点で2段階分の能力を使ったことになる。

さらに続けて、新しい魔法陣を起動することはできない。


初級魔法陣を起動した後、初級魔法陣ではなく、中級魔法陣を起動しようとする。

これはできない。

残りの1段階分の能力では中級魔法陣が起動できないからである。


器官段階の能力が高いほど、たくさんの魔法陣を同時に起動できるのだ。

もちろん、理論上、起動できると言うことであり、全員が全員が起動できると保証しているものではないとのことだ。

それは当たり前だ、鍛錬なしに才能だけで強さが決まっていれば、研鑽もクソも無くなってしまう。

ちなみに1つの魔法陣を起動することを一重魔法陣、同時に2つの魔法陣を起動することを二重魔法陣、その先も三重、四重…と続くそうだ。

そして、そのとき、中級魔法陣を1つ使える者を、一重魔法陣使い、2つ使える者を二重魔法陣使い…と呼ぶそうだ。王国にいる魔法陣使いの8割が一重魔法陣使いだそうだ。

残りの2割のほとんど二重魔法陣使いでほんの数人の三重魔法陣使い。

常人だと1つしか起動できない中級魔法陣が基準みたいだね。


それと、余談として筆記テストに出しやすいのは、魔法陣と魔法陣使いの用語が似ているところだそうだ。

例えば、二重魔法陣は初級魔法陣を2つ発動しても、初級と上級の組み合わせでもいいが、二重魔法陣使いは中級魔法陣が2つ起動出来る者だ。


そして大賢者の学園長が三重魔法陣使いだと教えてくれた。

さすが学園長、大賢者と呼ばれる由縁はそこにあるのだろう。

セバスチャンが一重魔法陣使いで、リュウさんが二重魔法陣使いだったはず。

メイドのセレスが三重魔法陣使いだと言っていた。

絶対内緒ですとセレスに念を押されたのは数人しかいないからであろう。

あの隠し様からしても申告してないみたいだったし。


ここからは余談だけど、貴族で重視されるのは①の魔力保有量だそうだ。

それは税として、たくさん魔力を収めることができるからだ。

魔力保有量と比例して、魔力を作り出す速度も速い。

戦闘だと①も重要だが、②も重要だ。

リュウさんの様に幾つもの分身を作りながら、身体強化を行って戦うこともできる。


「それでは、実技の方にうつりましょうか。では戦いでの基本となる身体強化の中級魔法陣を使ってみましょう。アリスさん、見本をお願いしてもよろしいですか?」


アリスと呼ばれた抜群のプロポーションの少女はワインレッドの長い髪をたなびかせながら、みんなの前に出た。


あぁ、あの女の子、アリスというのか!顔も見覚えがあったけど、名前も聞き覚えがある…私、人の名前と顔を覚えるのが苦手すぎる…


上級貴族っぽいし、魔法陣も堪能なのだろう。天は二物を与えちゃうんだよね。二物どころか三物、四物くらい与えられているかもしれない。


「あの、先生、わたくし、魔法陣の見本を見せるのは決闘形式でもよろしいでしょうか?」

「はい、もちろん良いですが、私がお相手すれば良いですか?」

「いいえ、あの子にお願いしたいです」


アリスが指を差した先にいる生徒にみんなの視線が集まる。指は私に向いているが、魔力ゼロの私のわけがないので、私は後ろを振り向く。


あれ、誰もいない?私は目立たない様に最後列で見ていたからね。ん?と言うことはアリスは誰と決闘するのかな?


私は首を傾げる。そんな私にもう一度指を差し、たかだかと宣言される。


「あなたよ!キミハさん!」


私は自分の左手の人差し指を自分に向け、私ですか?のジェスチャーを送る。

アリスは大きく頷く。


へ?ミー?なんで私なの?魔力ゼロだから、中級魔法陣はおろか初級魔法陣も使えないんだけどぉぉぉ!


「では、キミハさんとアリスさん、お願いします。ルールはブローチ破壊でいいかしら」

「ええ」


なんか、決まっちゃったよ。引くに引けないよ。


渋々、私は、前に出る。ヒカリが顔で頑張ってと応援してくる。私は頑張りたくない。さくっと適当に負けることにしよう。


魔法陣自体の練習なので魔剣ではなく、練習用の剣を使う。魔剣は魔法陣の能力を底上げするツールに過ぎない。ずっとナイフで戦ってきたからロングサーベルを触るのは久しぶりだ。左手をにぎにぎして感触を確かめる。


「キミハさん、よろしくお願いします」

「アリス様、胸をお借りします」


アリスと私は、間合いを取り、剣を構える。


この子、間違いなく強い。隙がない。才能もあるかもしれないけど、これは努力だね。

適当に戦ったら、失礼だよ。あのデブを相手にする方が気が楽だよ。


私は本気でやると決めた。

と同時にアリスは身体強化の魔法陣を無詠唱で展開して、突っ込んでくる。

無詠唱の魔法陣展開はセバスチャンでもリュウさんでもできないと言っていた荒技だ。

私は剣を避ける体制に入る。

アリスはさらに、加速魔法陣を展開した。


いきなり無詠唱二重魔法陣展開!避けられない!


私は剣でアリスの剣を受け流す様にして、軌道を変えて、避けた。そして、アリスの進行方向とは逆に回り込んで、間合いをとった。

アリスはすぐに振り返って、剣を構え直す。


立て直すのも速い!


「あなた、本当にすごいわ。王国騎士団のエリートの方でさえ、初撃で私の剣を躱せた方はほとんどいませんでしたのに」


そら、そうでしょうよ。こんな可愛い12歳のお嬢様が無詠唱二重魔法陣で加速して剣撃を仕掛けてくるとは思わないだろう。

それに仕掛けてくると思っていても避けれる人、少ないと思うよ。


「いえ、剣がなければ、捌けていませんでした」

「ふふふ、ご謙遜を。いきますわよ」


アリスはニコッと笑い、パッと表情を真剣な顔に戻し、突っ込んでくる。

このまま受け身で捌いたら、確実にブローチを持っていかれる。私はアリスの方へ突っこんだ。

一瞬、アリスは驚いたが、私のブローチに一直線に右手に持った剣を突き出す。


真っ直ぐな剣。でも、だから、どこに剣が来るか読みやすい。


私は体を左手を前にして半身になり、アリスの剣がブローチに当たる直前で剣の柄に近い部分で、アリスの剣の軌道を逸らした。と同時にワンステップして、アリスの裏に入る。

最大速度で加速していたアリスは急には止まれない。私はアリスが止まれないのを利用して、剣を横一線に振って、ブローチをぶった斬る。

ぶった斬ったつもりだったが、剣が当たったのはアリスの胸だけ。アリスの豊満な左胸の死角となり、左胸につけられたブローチに当てることができなかった。

胸のサイズの計算が狂ってしまったよ。私の胸は平均より少し、ほんの少しばかり小さいからね。


アリーナ内ではダメージを受けても痛くない。でも身体へのダメージもいくらかはブローチのダメージとして計算されている。ダメージが蓄積して、破壊ダメージを超えればブローチは勝手に砕けるのだ。


私たちは仕切り直して、剣を構える。

アリスがまた、突っ込んでくる。さっきみたいに背中側の裏の方向に避けても、胸に剣が当たるだけだ。私は今度はアリスの正面側の表の方向に避けて、横一線に剣を振った。アリスはこの動きを読んでいたのだろう。前方宙返りで、私の剣を避け、私の背後に入って、私の背中に剣を振り下ろした。

魔力の波動を纏っていない私では、ブローチに当たらずとも、どこかに一太刀受けるだけでゲームオーバーだ。

私は、クルッと、後ろに回り、アリスの剣が私に当たる寸前で剣で受け止めた。つばぜり合いとなる。

このままつばぜり合いを続ければ、身体強化しているアリスには押し負けてしまう。私はぐっと剣に力を入れて、アリスが力で押し返そうと力を入れた瞬間に、しゃがんだ。押し返すものが急になくなり、アリスは前方にバランスを崩した。私はそれを見逃さない。アリスの懐に入った私はすれ違いながら、剣を横一文字に振って、ブローチを斬った。正面からだったら、アリスの胸の死角にもならない。


アリスがバランスを取り戻したとき、ブローチは半分となって、地面に落ち、光となって消えた。

クラスのみんなは何も言葉が出せないでいる。


「参りましたわ、キミハさん、さすがですわね。序列一位の実力は伊達ではありませんわ」

「序列ですか?」

「えぇ、公式には発表されていませんが上流貴族の間では情報が流れてきますの。学年ごとに学園長が力を見極め、学園内の序列が決まっておりますのよ」


それは初耳だ。まあ、平民の私には知らないことだ。学園長は私をどこで確認したのだろうね、試験受けてないんだけど。


「どの名家にも属しないあなたの名前が入学時の序列一位と記されていて、上流貴族のみなさんは驚いていましたのよ。こんなことはありえないってね。入学式の日も下手な芝居をして申し訳なかったですわ。あなたの実力をみなさん、確認したかったのです」


まあ、委員になれば決闘なり、面倒なことやらされるからね。ん?というか、みなさん?


「みなさんはということは、アリス様は私の実力をご存知だったのですか?」


アリスはその言葉に驚いた表情を見せる。

私は首を傾げる。今日はよく傾げる日だ。


「覚えていませんの?」


はい、全然全く、片鱗も。


「片鱗も覚えていませんのね」


うん??この子、エスパーかな??


「エスパーではございませんわ。もう、出会ったのは2年前ですわ」


2年前???


それでもわからない私に、アリスは、はぁとため息をつき、約束も忘れてしまいましたのねと言い、もういいですわとプイっと口を尖らせ、拗ねて、みんなの元に戻っていった。

少し照れながら口を尖らせる姿は可愛い。

しかし、全く、思い出せない物は仕方がない。

キヨルデ先生が手を一回叩き、みなさん各自練習してくださいと声を張り上げた。

次回も授業が続きます!

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