初めての朝のアルバイト
いたたた。私は目を覚ます。
ヒカリのベッドの横の椅子に座ったまま、ベッドに突っ伏して寝てしまったようだ。
壁掛け時計は午前5時をさしていた。
やばいやばい。もう少し、起きるのが遅かったら、バイトにいきなり遅刻するところだったよ。
バイトは5時半に裏口から工房に入ってくれと言われている。私はヒカリの寝顔を確認する。
こんにゃろめ、いつも気持ちよさそうに寝ちゃってさ。
私はほっぺをツンツンする。いつも通りのエンジェルスマイルの安心する。そんなことをしていると、入り口から声が聞こえる。
「ここにいましたのね、キミハさん」
晴れない面持ちでシャティー先輩が医務室に入ってきた。まだ、午前5時だというのに、シャティー先輩は寝起きの様子が全くない。目の下に隈ができているように見える。もしかしたら、徹夜で仕事をしていたのかもしれない。ごめんなさい、その嵐の中心の二人はぐーすか寝てました。
「拘束した貴族なのですけれど、無罪放免で拘束を解くこととなりました。私もこの事件は貴族の生徒として平民の生徒の人権を侵すことは許されないことだと訴えたのですけれども、法によって定まっているわけでもない理由で拘束し、あまつさえ、退学させることはできないと上からお達しがありました。ごめんなさい、キミハさん、そして、ヒカリさん、私の力が及ばないばかりに」
シャティー先輩は私を見た後、寝ているヒカリの顔を見て、そう謝った。
「いいえ、私たちのためにありがとうございました。ヒカリもそう思っているはずです」
「そう言っていただけると、助かるわ。それと、キミハさんとの決闘から貴族が逃げ出したことなのだけれど、その決闘も無効決闘ということになりましたわ。決闘中に命を脅かすレベルの魔物が出るなんて事は滅多にあることじゃないわ。しかし、この決闘でキミハさんの勝利としてしまうと、今後、高ランクの魔物を使って、無理やり相手を降参させて、決闘に勝とうとするものが出て来ないとも限らない。今後の決闘をフェアに行うためにも前例を作るわけにはいかないのです。ごめんなさい。私たち、貴族があなたたちに迷惑をかけたのに何も力になれなくて」
「いいえ、ありがとうございました」
シャティー先輩はふらふらとしながら、医務室を後にした。
感謝してます。シャティー先輩。
私は心の中でもう一度、シャティー先輩に感謝した。
アルバイトに行きたいけれどデブたちの拘束が解かれた今、誰でも立ち入れる医務室にヒカリ一人を置いていけない。
どうしようか悩んでいると、ちょうどシオリ先輩がやってきた。
なんでも、ヒカリの様子を見にきたそうだ。
シオリ先輩は疲れた様子はないから、寝たのかな?
そのまま、シオリ先輩にヒカリをまかせ、私は医務室をでて、アルバイトに向かった。
ベーカリー・ベルルの裏口から工房に入る。
「お、おはようございます」
すでに工房は大忙しだ。グリードさんがせかせかとパンを焼いている。
「キミハちゃん、とりあえず、隣の更衣室で制服に着替えて」
どこからかタバルさんの声がした。私は工房から、店の廊下に出て、更衣室に入った。
私の名前が書かれたプレートが入ったロッカーがあった。
これだね。中に制服が入っているのかな?
私はロッカーを開ける。
え…制服…これ…
そこに入っていたのはメイド服だ。
そんな…聞いてないよ…てっきりタバルさんみたいなエプロンを想像したよ…
「キミハちゃん、まだかい?」
タバルさんの声がどこからか聞こえる。
ああああああ、どうにでもなれぇ。
私は無心でメイド服に着替えた。袖が短いので学園の委員のブレスレットが丸見えになる。
なんか、これ、いろいろ、危険じゃない?
私は鏡で確認してから更衣室を飛び出して、お店の方にいく。そこにタバルさんはいた。
「似合うじゃないか」
「似合いません」
「顔が真っ赤じゃないか」
誰のせいですかあああ。
「ハハハ、そのうちなれるさ。仕事の説明をするよ。あんたの仕事は私と接客の担当だ。グリードがパンを焼いて、焼けたパンを工房のパン置き場に置くから、それを持って、店舗に並べてくれ。今日はそれだけ、覚えるんだ」
「わかりました」
「6時開店だ。朝は朝ごはんのパンを買いに来る客で店は大忙しだ。しっかり頼むよ」
「はい!」
タバルさんの言う通り、開店と同時にたくさんの客が押し寄せてきた。私は必死にパンを並べる。
チョココロネ、クロワッサン、カレーパン、あんぱん、サンドイッチ、食パン…
パンの種類はすごく多い。これをグリードさんが一人で焼いているのだからすごい…
あっという間にバイトをあがる午前8時になった。
「キミハちゃん、このパンを持っていきな。失敗作だ」
少し、形が悪かったり、焦げてしまったパンをグリードさんが袋に入れてくれたみたいだ。
私はありがとうございますと受け取り、一度、寮に向かった。
これからのご飯当番はこのパンで楽ができそうだ。
ヒカリも一度、寮に戻っていた。
「キミハちゃん、どこに行ってたの?」
「ごめん、言ってなかったね、アルバイトに行ってたんだよ」
「えぇ、こんな早く?」
「少しでも稼がないと、明日を食いつなげないからね」
「キミハちゃん、鉄人すぎるよ」
「生きるためだからね。ヒカリは調子どう?」
「うん、元気100倍とは言えないけど50倍くらいかな」
50倍はあるんだね。少し安心した。
「困ったことがあったら、なんでも相談するんだよ」
「これ以上、キミハちゃんに迷惑かけれないよ」
「迷惑じゃないよ。力になりたいんだから」
「もう、キミハちゃん、絶対、損するタイプだよ」
ヒカリの笑顔を見るだけで得をしてるんだよとはさすがに言えない。ヒカリの笑顔はプライスレスだよ。
「ヒカリ、お腹すいたでしょ」
私はさっきもらったパンをジャーーンと見せる。ヒカリは、わあ、美味しそうと言い、スープでも作るね、私が朝ごはん当番だからと言って、キッチンの方に行った。これは頑固バージョンのヒカリだ。この子はとにかく、私に頼りっきりになるのが嫌らしい。
私たちは朝ごはんを終え、クラスルームに向かう。
朝は授業前にホームルームがあるのだ。
私は手早く、コピーしたプリントを配る。
そして、委員会での話を軽く説明をした。
それも終わり、急ぎ足で授業に向かった。
短いですが、一旦切ります。
次回、授業を受けます!