初めてのアルバイト
アルバイトでお世話になるパン屋さんは”ベーカリー・ベルル”という。私の執事のセバスチャンが学生の頃、そして、ハンターとして働き始めた時もお世話になっていたらしい。今は店主は息子さんに譲って、当時の店主は隠居したらしい。セバスチャンの紹介で働かせてもらうことになった。
パン屋さんについた。とりあえず、表の入り口から入る。ドアを開けた瞬間、パンの香ばしい香りが私を幸せな気分にさせてくれた。
私は、店員さんを探して店内を見渡す。
レジの恰幅のいいおばさんに話しかけることにした。
「あの、キミハ・サクラグリと申します。本日6時にお店の方に来て欲しいと言われたのですが…」
「おお、あなたがキミハちゃんね。セバスはこんなに可愛い子に仕えていたのかい。私はここの店主の妻のタバル。ちょっと、あんた、来てくれよ。キミハちゃんが来たよ」
タバルさんは奥のパン工房に大きな声でパン屋の主人を呼んでくれた。
「キミハちゃん、よく来たね。可愛らしい子だ。わしが店主のグリードだ」
私は体の大きなおばさんと体の大きなおじさんに圧倒され、声を出せないでいる。
「ちょっと、あんた、キミハちゃんを怖がらせないで」
「それはお前もだろ」
「ふふふ」
私は責任を押し付け合う二人が面白く笑ってしまった。それに安心したのか、タバルさんは話しかけてくる。
「学園はどうだい?楽しめそうかい?」
「いきなり、委員になってしまって少し不安ですが、頑張ります」
「委員って?何委員になったんだい?」
私はブレスレットをタバルさんに見せて答える。
「これはたまげた三色のブレスレットじゃないかい。それに青の宝石がすでに1つ増えているじゃないか」
私はハハハと苦笑いする。グリードさんも私のブレスレットに興味津々だ。
「貴族を決闘で倒したのかい?」
私はうなずく。ただのノロマなデブだったけどね。
「さすが、セバスが実力を認めた子だね」
ん?セバスチャンが私を認めた?とは?
タバルさんは首をかしげる私に口を開いた。
「セバスがね。自分の仕えている子が第一学園に入学するのでアルバイトをさせてやってくれないかと頼んできたんだよ。その時、私は答えたのさ。お前をここでお父さんが働かせてやったのは温情なんかじゃない、お前が怠惰も働かず、文武両道で努力する人間だったからさ、と。私たちも経営に余裕があるわけじゃないからね。アルバイトも簡単にはとっていないんだよ。そしたら、セバスは言ったのさ、それならば、問題ない、キミハ様は王国一の努力人だ。それに武も文もどちらかを怠るような人ではない、と。それと、剣術はすでに自分を凌駕するほどの達人だ、と。」
先代はタバルさんのお父さんだったんだね。
それと、私、そんなにすごくないよ、セバスチャン。私、執事にハードルを高くされているんだけど。
「そのブレスレットを見たら、すぐに分かるさ。決闘で貴族に勝つなんて簡単じゃないからね。セバスも学生の頃、悩んでおったよ」
セバスチャンは平民だ。魔力だって、多いわけじゃない。日々の研鑽であそこまで強くなったんだよね。
「話が長くなってしまったね。キミハちゃんなら、大歓迎さ、明日の朝からでいいかい?放課後も働いてくれるんだよね?」
「はい。よろしくお願いします」
タバルさんもグリードさんもいい人そうでよかった。
アルバイトも無事にスタートできそうだ。
私は寮に戻ることにした。
寮にたどり着く。外はもう、真っ暗だ。
さて、ヒカリは晩ご飯に何を作ってくれるのかな?
私はウキウキしながら寮に入る。電気がついていない。
ヒカリ、まだ、帰ってないのかな?
「ヒカリーーーー?」
大きめの声で名前を呼ぶが返事はない。一応、部屋でまた倒れてないか確認しようと、寮の階段を上り始めた時、私はヒカリの爆発的な魔力の余波を感じた。魔力を感じた方にサッと顔を向ける。
えっ?今の何?ヒカリ?
そして、その魔力は急激に減って、ついには消滅した。
こんなの普通の魔力の動きじゃない。モンスターにしろ、決闘にしろ、ヒカリが何かに巻き込まれていることは明白だった。
ヒカリの魔力が急変したポイントに何があるか考える。あそこは森の中だったはず。
女子寮の周りは森で囲まれている。確か、さっきの委員長会議で森の中に平民女子寮と初級ダンジョンがあると聞いた。
ダンジョン。私はサッとブレザーの上から胸の裏ポケットに魔剣を入れているのを確認し、ダンジョンの方に駆け出した。
ヒカリ!今行くから!
何事もなく、へへへと笑うヒカリがそこにいることを祈っていた。
セバスチャンと同じアルバイト先でお世話になります。
短いですが、一旦切ります。
次回は、ヒカリを助けに行きます!