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87.ぼっち少女と常識2


 ハティさんの、オーク迷宮が他にもあるという発言を不思議に思っていると、察したアニタさんがすかさずフォローしてくれた。


「トモリさん。理論上、迷宮は、どの大陸でも全く同じ種類のものがあると言われています。オーク迷宮だけでなく、ゴブリン迷宮やスライム迷宮、それ以外の迷宮も、他の大陸に存在するのです」


 他の大陸……。この世界には、いくつかの大陸があるのか。そして、その大陸それぞれに、同じ種類の迷宮がある、と。


「ただ、街にある迷宮の組み合わせも同じというわけではありません。例えば、フィルリアの街には、スライム迷宮、ゴブリン迷宮、ウルフ迷宮の3つがありましたが、他の大陸では、これらはすべて別の街にあるのです」


 迷宮の組み合わせが違うということは、街迷宮に出る魔物も、それぞれ違ってるってことかな。

 まあ、全く同じなら、わざわざ別大陸の迷宮に行こうとは思わないから、あえて変えたと考えることもできるかな。


「組み合わせが異なるためか、特定の大陸にしか存在しない迷宮も存在します。学者によれば、そういった迷宮も、どの大陸にもあるそうですが、まだ発見されてはいません」


 発見されていない迷宮は、いつかのホーンラビット迷宮のように入り口が見つけづらい場所にあるか、街迷宮のように特定の条件を満たさないと入れないかのどちらかかな。

 リリスにもらった「全世界迷宮辞典」に載っていても、ここの人たちは知らない迷宮だってある。だから、発見されていないからって存在しないというわけではないだろう。

 もっとも、本当に世界に一つしかない迷宮なのかもしれないけどね。

 答えはいつかわかるだろう。


「それから、この街のオーク迷宮が一番難しいという話ですが、これは、オーク迷宮に限った話ではありません。この大陸の迷宮は、どの迷宮も世界一の難易度と言われているのです」


 この大陸の迷宮が難しい?

 確かに、オーク迷宮の難易度はヤバかった。オークキングをあっさり倒せたから油断していたっていうのを抜きにしても、攻略は難しいと感じた。

 そういえば、ゴブリンエンペラーも辛勝だったっけ。「蘇生リヴァイヴ」がなければ死んでいたかもしれなかった。

 そう考えると、確かに難易度は高いかもしれない。

 でも、難易度ってどうやって決めてるんだろう?魔物の強さが変わるのかな?

 疑問に感じたことを紙に書いて見せると、アニタさんが教えてくれた。


「魔物の強さは、どの迷宮でも同じですよ。ただ、他の大陸の迷宮では、挑戦者に特殊効果がかかるのです。魔法系の能力が上がる代わりに物理系が弱くなったり、その反対に、物理系の能力が上がる代わりに、魔法系が弱くなったりするのです」


 バフとデバフの両方がかかる、ということか。

 魔物の強さが変わらないなら、魔法の得意な人が魔法系のバフがかかる迷宮に行ったら、バフがないところよりも攻略しやすくなるだろう。

 反対に、魔法系のバフがある迷宮は、物理型のデバフがかかるから、魔法が苦手な人には難しくなりそうだけど、どうなんだろう?

 それを聞くと、アニタさんは頷いた。


「確かに、そのとおりです。ですが、迷宮はパーティーで挑むのが普通です。バランスの良いパーティーであれば、互いに互いを補い合うので、結果的に特殊効果のない迷宮よりも攻略は簡単になります。迷宮にひとりで挑む人はほとんどいませんから、特殊効果のある迷宮は、ない迷宮よりも簡単という常識が成り立つのです」


 言葉の端々に、チクチクとした棘を感じた。

 特に、「迷宮はパーティーで挑むのが普通」とか、「迷宮にひとりで挑む人はほとんどいない」とか、「常識」とかの部分。

 アニタさんの顔はいつものように優しそうな微笑みが浮かんでいたけど、目は笑っていなかったから、むしろ怖かった。

 怖いよ、アニタさん…………。


「アニタ、あなた怖いわよ」


 私が怯えているのに気づいたハティさんが注意してくれた。


「えっ!そ、そうですか?」

「そうよ。顔は笑ってるのに目は笑ってなくて、すごく怖かったわ。ね、トモリちゃん」


 アニタさんは、自覚がなかったのか、注意されて驚いていた。

 私は逆に申し訳なくなって、小さく頷くに留めた。


「すみません、トモリさん。そんなつもりは全くなかったのです。良い機会だから、トモリさんにいろいろと教えておこうと思いまして。少し力が入り過ぎてしまったようです……」

「少しって……。まあ、いいわ。トモリちゃん、アニタは真面目過ぎて時々おかしくなるけど、悪気は全くないから、許してあげてね」


 ハティさんが、サラッとヒドイことを言っていたけど、ツッコんだら泥沼にハマりそうだったので、頷くだけにしておいた。


「ありがとう。あ、そうそう。話が逸れちゃったけど、トモリちゃん、迷宮はどこまで行ったの?4層くらいかしら?」


 ハティさんが話を戻して聞いてきた。

 私は迷った。

 さっき聞いた話と、私が感じたオークの強さを考えると、6層で倒したオーク真・シューター、オークアーマー、オーク真・ハンターは、おそらくかなり強い部類に入ると思う。私から見ても強かったし。

 それを正直に言うと、どうなるか。ゴブリンエンペラーの時もかなり驚かれたし、今回も驚くだろうなあ。

 あ、でも、前にオークキング倒したし、それと比べれば今回のはまだマシかな?


「……第4層ではありませんね?第5層ですか?」


 私が答えないことで、第4層ではないと気づいたアニタさんがさっきの怖い顔で聞いてきた。

 アニタさんを見て、私はついビクッとなった。それで、アニタさんはハッとして、急いで表情を取り繕った。

 一方、ハティさんはそんなことには気づかずに、答えを催促してきた。


「トモリちゃんなら、第5層も行けるかもしれないわね。どうなの?」


 第5層って言うと、城がある階層か。

 爆破したらものすごく面倒くさくなった、あの階層。

 あの階層なら、同じ構造の階層がゴブリン迷宮にもあったし、魔物もそんなに強くなかったから、踏破できていてもおかしくないよね。

 私は頷いた。


「やっぱりそうなのね!トモリちゃんなら行け」

「ウソですね」


 ハティさんの褒め言葉に重なるように、アニタさんが鋭く言った。またさっきの怖い顔だ。

 ……今日は怖いよ、アニタさん。

 どうしちゃったの?

 前はこんなふうじゃなかったはずなのに。

 何があったんだろう?

 私の不安をよそに、アニタさんは続ける。


「トモリさんは、第6層まで行ったはずです」


 アニタさんらしからぬ、冷たい声音。

 顔はもう笑っていなかった。

 アニタさんの突然の変化に、私は戸惑った。

 本当に、どうしたんだろう?私、何か気に障るようなことしたかな?

 私は、さっきアニタさんと再会してから、ここまでのことを思い出した。


 途中までは、いつものアニタさんだったように思う。

 私が来て、挨拶をして、迷宮のことを教えてくれた。

 最初は、いつも通りだった。でも、途中から、なぜかアニタさんがピリピリし始めて、棘のある言葉を吐いたり、怖い顔をしたりするようになった。

 アニタさんが話してる間は、相槌を打つだけで、他には特に何もしていない。

 何もしなかったのがいけなかった?でもアニタさんは私が話さないの知ってるから、黙って聞いてても、何か言ったりはしなかった。

 うん。やっぱり、私が何かしたわけじゃないような気がする。もしかしたら、私が気づいてないだけかもしれないけど。

 でも、私が原因じゃないなら、どうしてアニタさんはこうなっちゃったの?

 ひとりで考えていても、答えは出ない。

 そんなとき、変化に気づいたハティさんが、アニタさんを窘めた。


「アニタ、気持ちはわかるけど、感情的になるのはやめなさい。トモリちゃんが驚いているわ」

「あ…………ごめんなさい…………」


 言われるまで気づかなかったらしい。

 アニタさんは、バツの悪そうな顔をして俯いた。


「ごめんなさいね、トモリちゃん。トモリちゃんが旅立った後、街でいろいろあって、アニタは疲れてるの。この街に一緒に来たのは、ちょっとした息抜きも兼ねてのことなのよ」


 顔をあげようとしないアニタさんに代わって、ハティさんがフォローする。


「これからも、こういうことがあるかもしれないけど、アニタを嫌いにならないで。アニタは真面目でとっても優しい子なの。お願い、トモリちゃん!」


 ハティさんの真剣な訴えに、私も真剣な顔で頷いた。

 何があったのか気になるけど、アニタさんの様子を見る限り、この場で聞くのは憚られた。

 あとで、ハティさんとふたりになったときとかに聞こう。

 私が頷くと、ハティさんは満面の笑みを浮かべてお礼を言った。

 アニタさんは、苦笑いを浮かべていたけど、もう怖いとは思わなかった。





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