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閑話9 ギルマスと領主一家2


「私が彼女について把握していることは、実はそれほど多くはありません。彼女がこの街に来てから、まだあまり日が経っておりませんし、ギルマスという立場上、一介の冒険者と頻繁に接触するわけには参りませんので」


 私は、このあとの話の流れを考えつつ、話し始めた。

 とりあえず、当たり障りのないことを言いつつ、別の話に持っていこう。

 領主様の性格であれば、うまく誘導に引っかかってくれるだろう。しっかり者の奥様までは無理かもしれぬが……奥様はこのような然程重要ではない話題ならば、領主様に合わせてくださるし、今回も大丈夫だろう。

 これまでの領主様ご夫婦との会談を思い出し、私はそう結論付けた。


「うむ。それはそうだな。では、イーサンが知っている範囲で良い。教えてくれ」

「かしこまりました。私がお話できるのは……そうですね。彼女の印象と、おおまかな実力くらいですね。まず、印象についてですが、私は彼女はとても静かな方だと感じました」

「静か?それはどういう意味だ?」

「言葉通りの意味にございます。彼女は無口で、話は最小限しかいたしません。必要以上に話をせず、実力をひけらかすこともなく、媚を売ることもございません。故に私は、彼女は非常に善良な人物であると判断いたしました」


 私は、トモリさんと会ったときのことを思い出しながら言った。

 口がきけないのだから、無口なのは当たり前。筆談のため、話が最小限なのも当然のことだ。だが、真実をそのまま話す必要はない。要は、嘘でなければいいのだ。

 大切なのは、ありのままの真実を話すことではなく、相手を納得させることなのだ。

 それに、後半の部分は本当のことだ。トモリさんは一度も自慢をしたり、媚を売ったりしていない。それが性格に由来するものなのか、口がきけないからなのかは定かではないが、今日の様子を見るに、おそらくは前者であろう。

 お嬢様方を助けたことも合わせれば、トモリさんが善良な人物であることは間違っていないはずだ。


「ふむ。そうか。人格的には問題なしということだな。イーサンが言うのならば相違あるまい。ということは、必要以上に警戒することはなさそうだな」


 私の話を聞き、領主様はほっとした顔をなさった。

 やはり、お嬢様方に近付いた者が悪人ではないかと心配していらしたようだ。

 カージアの街は、王都から離れているとはいえ、栄えている街。そこの領主の娘ともなれば、事件に巻き込まれる可能性もある。警戒はして当然か。


「人格の方はわかったが、実力はどうだ?Cランクということは、それなりの実力があるのはわかるが、それ以上のことはわからぬ。職業は何だ?」


 職業……。そういえば、トモリさんの職業は知らない。

 魔法が使えるということは、魔法職なのだろうが、魔法使い(ウィザード)で良いのだろうか?

 だが、彼女の魔法の腕は一流といっても過言ではない。となると、魔術師ソーサラーという可能性もあるのでは……?

 いや、魔術師ソーサラーになるには、いくつもの迷宮に行く必要がある。それならば、迷宮には詳しいはずだが、トモリさんはその辺のことをほとんど知らなかった。

 まるで、最近になって初めて迷宮のことを知ったような……。

 いや、そんなはずはない。この世界にはあちこちに迷宮がある。人が住む場所には必ず迷宮があり、迷宮のない場所に人は住めない。今まで、迷宮のない地に人が暮らしているという話は聞いたことがないし、ありえないはずだ。

 私は頭を振って、突然浮かんだ荒唐無稽な考えを消した。


「ん?どうした、イーサン?」


 頭を振ったことに、領主様が気付かれたようだ。心配そうに尋ねてくる。


「いえ、何でもございません。それで、彼女の職業ですが……実は、私も存じておりません。ですが、彼女は魔法を主体として戦っている模様。となれば、魔法使い(ウィザード)ではないかと愚考いたします」


 私は本当に何でもないという顔をして、話を元に戻した。

 領主様は、私がトモリさんの職業を知らないことが意外だったのか、驚かれた。


「イーサンでも職業を知らないのか。まあ、魔法職だということは把握していても職業までは、といったところか?」

「左様でございます」

「では、魔法の腕はどの程度か知っているか?」

「申し訳ございませんが、私もよく存じておりません。オークを単独で倒せることと、水属性だということくらいでしょうか」


 ガーゴイルのことは言わなかった。それを言えば、領主様の興味を引いてしまうことは明らかだったからだ。

 高品質のガーゴイルの魔石をとれる実力があるということは、それだけ価値があるのだ。


「そうか。イーサンならば、もっと知っているかと思っていたのだが、本当にあまり知らないようだな」

「誠に申し訳ございません」

「良い。とりあえず、娘たちに危害を及ぼす恐れがないとわかっただけでも上々だ。だが、その冒険者については引き続き調べておいてくれ。何もないに越したことはないが、何かあってからでは遅いからな」

「かしこまりました」

「では、次の話に移ろう……と、その前に、イーサン、夕食でも一緒にどうだ?」

「では、お言葉に甘えまして、ご一緒させてください」

「ああ、そう言うと思っていたよ。今用意させるから少し待て」

「はい」


 領主様は使用人を呼ぶと、夕食の用意をするよう命じられた。

 領主様とこうしてお会いするのは初めてではない。この街のギルマスになってから、何度もある。

 そのため、夕食をとりながらの話になるのは予想していた。

 夕方に呼ばれるときは、決まってそうなのだ。

 領主様と奥様、アドリアナお嬢様、それから私。いつもこのメンバーで、アレナリアお嬢様はいない。

 以前伺った話では、アレナリアお嬢様はアレルギーが多く、特別に用意した食事を別室でとっているのだとか。普段は一緒に食べているが、来客のある時だけ別室で食べるそうだ。来客がある時に一人だけ違う食事というのは、いろいろと問題があるらしい。変な疑いを持たれないために仕方のないことなのだとか。

 私は、それですべて納得したわけではなかったが、領主一家にも、いろいろと事情がおありなのだろう。深くは詮索しないことにした。


 それにしても、結局、うまく話題を変えることはできなかった。根掘り葉掘り聞かれることはなかったが、もし聞かれていたらどこまで誤魔化せたか……。

 私もまだまだだな。



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