81.ぼっち少女の魔物調査2
私は、正式に依頼を受ける手続きをすると、すぐに調査に向かった。
まずは、フィルリアの街の近くから調査して、だんだんカージアの街に戻ってくるような感じでやることにした。
そうすれば、夜の疲れてきた頃には、カージアの街の近くにいて、帰るのも楽になると思ったのだ。
『転移』
私は、カージアの街の人目につかない路地裏から、前にオークに遭遇したフィルリアの街の近くの森に転移した。
森に着くと、「探索」で周囲の魔物を探す。
ゴブリンやウルフは見つかったけど、オークは見つからなかった。この近辺にはいないようだ。
「探索」で探せる範囲は限られているので、私は場所を変えることにした。
フィルリアの街の周辺は、迷宮を探すときに散々歩き回ったので、基本的にどこにでも転移できる。一応、転移先に人がいることを考慮して、「隠形」で姿を隠してから転移した。
その後、フィルリアの街周辺を一通り見て回ったけど、特に異常は発見できなかった。
森の中に魔物はいた。でも、ウォータースライムとか、ロックスライムとか、アースウルフとか、ロックウルフとか、ノーマルゴブリンとか、ゴブリンソードマンとかだった。
全部フィルリアの街の迷宮の一層や二層の魔物で、それ以外の魔物はいなかった。
私はここは異常なしとして、カージアの街への街道の調査に移った。
……この調査結果に、何の疑問も抱かずに。
カージアの街への街道の両端にも、森は広がっていた。
私は、「隠形」と「飛翔」で、姿を隠しながら空から調査を行った。
「探索」と肉眼の両方で魔物を探しながら、少しずつカージアの街に向かっていった。
途中、お昼休憩を取りながら、まだ慣れないこちらの文字で、ここまでの報告書を書いた。報告書といっても、箇条書きのメモのようなものだ。
あまり長い文章を書くのは面倒だし、そんなにゆっくりしている時間もない。
まあ、この依頼は時間指定がないし、範囲も広いから、本来なら何日もかけて行うものなんだろうけど、私は今日中に終わらせるつもりでいた。
アドリアナとアレナリア。領主の娘だという双子にこれ以上関わりたくなかった。
はっきりとした理由はないけど、なんとなく、これ以上関わると、面倒事に巻き込まれそうな気がしたのだ。領主の娘だから、領主自身が出てきたりするかもしれないし、街の行事に強制参加させられるかもしれない。
すでに、ここ数日であの双子とはいろいろあった。あの子たちのせいで、注目を浴びたこともあった。決してすべてが嫌だったわけじゃないけど、私は目立たず、自由気ままに過ごしたい。
せっかく自由に過ごせる世界に来たのに、ここでも人間関係に縛られるのは嫌だ。
まあ、そんな理由があって、私は今日中にこの依頼を終わらせて、早くカージアの街を出たかった。
だから、お昼以外はほとんど休まず調査を続け、日が落ちて空が暗くなる頃、ギルドに戻ってきた。
「ん?トモリさんか?もう戻ってくるとは、何かあったのか?」
ギルドに入るとちょうどギルマスがいて、目があった。
私はあらかじめ書いておいた紙を取り出して見せる。
「ん?調査が終わった?……何!?もう終わったのか?」
書いてあった文を読んだギルマスは、驚きの声を上げた。
私が頷いて答える。
「そ、そうか。では、結果を詳しく聞かせていただきたいのだが、このあとは空いているか?」
私が頷くと、ギルマスはついてくるように言って、歩き出した。
向かったのは、ギルマスの部屋だ。
部屋に入って鍵を締め、お互い着席すると、私は報告書を取り出してギルマスに渡した。
受け取ったギルマスは、素早く報告書に目を通す。
そして、読み終わったのか、5分も経たないうちに報告書を机に起き、私を見た。
「いろいろとお伺いしたいことはあるが、まずは礼を言う。よくこの短時間でここまで調べ上げてくださった。ありがとう」
そう言って軽く頭を下げると、ギルマスは続けて言った。どうやら、私の反応は期待していないみたいだ。
「ては、早速だが、質問に移らせていただく。まず、ここに書かれていることはすべて真実か?ああ、あなたを疑っているわけでは決してないのだが、一応確認させていただきたい」
嘘を書いてないか聞かれて、一瞬曇った顔をした私を見て、ギルマスは言葉を付け足す。
どうやら形式的な確認というだけで、深い意味はないらしい。
安心した私は、頷いて返した。
「そうか。ということは……事態は、私が思っていたよりも悪いな」
ん?あの報告書から、何か問題を見つけたってこと?
でも、フィルリアの街や街道沿いの森にオークはいなかったし、カージアの街の周辺にいた魔物も、オークやガーゴイルといった、この街にある迷宮の魔物ばかりで、特別な魔物はいなかった。
カージアの街の周辺にいたのは、ロックガーゴイルとか、サンドガーゴイルとか、ノーマルオークとか、オークソードマンとかだった。
何も問題はないはずだけど、ギルマスは何が問題だっていうんだろう?
私が首を傾げていると、ギルマスが口を開いた。
「何が問題なのかわからないといった顔をしているな。トモリさんは、あまり魔物には詳しくないのか?」
頷く。
「そうか。では、迷宮と迷宮の外の魔物について、簡単に説明をさせていただこう」
そう言って、ギルマスは話し始めた。




