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79.ぼっち少女の礼拝3


『アハハッ!ハハハハハッ!』


 突然聞こえてきた笑い声に驚く。

 な、何!?誰が笑ってるの!?

 慌てて目を開けて、周りを見回す。でも、並んでいる人々の中に、笑っている人は見当たらない。

 笑顔の人はいるけど、大笑いしている人はいない。

 それに、よく聞くと、笑い声は耳からではなく、直接頭に聞こえてきているような感じがした。

 リリスとした念話のような感覚だ。

 もし、念話を使ってきているなら、こっちからも話しかけられるはず。


『あ、あの。えっと、どちら様、ですか?』


 恐る恐る呼び掛けてみると、すぐに返事が返ってきた。


『ハハハッ!どちら様って、そんなこと決まっているじゃないか』


 え?決まってるって言われてもなぁ。

 この状況で私に話しかけてくる人に心当たりなんてない。まして、いきなり大笑いするような人なんて……。

 そこまで考えたところで、閃いた。

 あ!もしかして……。


『えっと、もしかして、神サマ……ですか?』


 神サマに適当に挨拶したら笑われた。この状況ではそう考えるのが一番自然だ。

 まあ、本当に神サマかどうかは怪しいけどね。神サマを騙るニセモノってことも十分あり得るし。


『うん。そうだよ。僕はゼフェラルト教のフェムテ。善悪と闇を司る神と言われている。よろしくね、燈里ともり

『あ、はい』


 フェムテと名乗った神サマは、男性とも女性とも取れる中性的な声でそう言った。

 神だよって言われてもイマイチ信じられないのは、私の性格のせいかな。信者の人ならきっと、神サマに話しかけられたら、舞い上がって喜ぶんだろうけど、私は迷惑なだけだ。


『あの、何か用ですか?私、ゼフェラルト教の信者ではありませんけど』


 いつまでも祈っているのも不自然だ。私は周りの目を気にして移動しつつ、話を続ける。

 幸か不幸か、場所が変わっても念話は通じるようだった。


『ああ、別に大した用はないよ。ただ、君の祈り、というかあれは挨拶かな?それが、あまりにも面白くって、つい笑っちゃったんだよ』

『…………』


 あれ、聞こえてたんだ。それにしても、あんなに爆笑するなんてひどくない?私なりにちゃんと考えて言ったのに。

 私は少しムッとしたので、無言で返した。

 すると、神サマは、私が怒っているのに気が付いたのか、慌てて言った。


『あ、言っておくけど、君のことをバカにしているわけじゃないよ。ただ面白かったってだけで、それ以上でもそれ以下でもないから。だからさ、そんなに怒らないで?』


 言い訳する神サマってどうなの?

 私は、必死に取り繕う人間らしい神サマに、少し親近感を持った。


『悪気がないのは分かりました。でも、いきなり笑われたら誰だって怒りますよ?』

『ごめん』


 ちょっとからかってみようと思って言ってみたら、あっさり謝罪の言葉が返ってきた。

 随分と人間味溢れる神サマだなぁ。

 こんなにすぐに謝ってくるとは想定外だ。

 でも、これで、警戒心はだいぶ薄れた。


『あ、いえ、別に、それはもういいです。あの、それで、その、他に用とかあるんですか?』


 さりげなく話題を変えようとしたら、失敗した。

 こんなふうに人と話すことなんてなかったから、うまく話を持っていけなかったのだ。


『ん?別に、特に用はないよ。こうして念話を繋げたのは、君が面白かったからだし。まあ、でも、せっかくこうして知り合えたんだから、また今度ゆっくり話をしようよ』

『今度、ですか?』

『うん。今日はほら、忙しい日だから、あんまりゆっくり話してる時間ないけど、他の日なら時間空いてるからさ。その時にもっと話をしようよ。僕、君のこと気に入ったんだ』


 ……神サマに気に入られてしまった。

 なんか、面倒でしかない。それに、また話をしようって言っても、どうやってするのよ?


『話って、どうやってするんですか?』

『そんなの簡単だよ。君が僕の信者になればいい』


 はあ?なんで私が神サマの信者なんかにならないといけないの?

 だいたい、ホントの神サマなのかも疑わしいのに。


『イヤ』


 そんなことを考えていたら、ついイヤだと言ってしまった。念話でも、言いたいこととそうでないことは区別できるけど、うっかりっていうのはある。

 どうしよう……。

 どうにかして取繕おうと思ったけど、上手い言葉が出てこない。

 会話でコミュニケーションを取ることなんて、ほとんどなかったから、何て言えばいいのかわからない。

 内心あたふたしていると、さっきまでと変わらない声が返ってきた。

 

『そっか。イヤなんだ。じゃあ、仕方ないね。今回は諦めることにするよ』


 変化のない口調に驚く。

 もっと何か言われるのかと思ってた。

 でも、神サマはそのことについて、それ以上は何も追求しなかった。


『さて、そろそろ僕も仕事に戻らないと。またね、燈里』


 そう言い残すと、神サマは一方的に念話を切った。

 えっ?ちょっと待って?そんな突然切らないでよ。

 せめて私にも挨拶くらいさせてくれたっていいじゃない!

 私は、勝手に切られたことに腹を立てた。

 でも、この怒りをぶつける相手はどこにもいない。

 私は、一つ深呼吸して気持ちを無理矢理落ち着けると、教会の出口付近で双子を待った。

 




 それからしばらくして、双子がやってきた。

 待っている間ヒマだったので、フィルリアの街の教会でシスターにもらったゼフェラルト教のパンフレットを見ていた。


「あら?トモリさん、待っていてくださったんですか?」


 私を見つけたアドリアナは、開口一番そう言った。

 私が頷くと、満面の笑みを浮かべた。


「わぁ!嬉しいですわ!トモリさん、先に礼拝堂を出て行かれたので、もう帰ってしまわれたのかと思っておりましたの」


 ……昼間も思ったけど、今日のアドリアナの笑顔は嘘くさい。作りものって感じが強いと思った。

 初めて会ったときは何とも思わなかったんだけどなぁ。

 なんでだろう?

 私がアドリアナの印象の変化に違和感を感じて考えていると、アドリアナが言った。


「それでは、帰りましょうか。トモリさん、途中までご一緒しましょう」


 アドリアナが歩き出すと、アレナリアも続いて歩き出した。

 私もふたりに促されて歩き、教会を出て、帰り道にある市場に向かった。

 そこで、3人で少し買い物をしてから、宿に帰ったのだった。




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