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78.ぼっち少女の礼拝2


 結局、教会まで来てしまった。

 教会には、長い長い列ができていた。昨日のマンドラゴラ迷宮といい勝負……というか、それよりも長いんじゃないかな?

 ただ、マンドラゴラ迷宮の列と違って、教会の列は老若男女関係なく並んでいた。

 みんな、質素な服を着ていて、武器を持っている人はいない。

 列の進み具合からして、何時間も待っているだろうに、文句を言う人もいない。

 みんな明るい笑顔で並んでいる。


「まだこんなにいるんですね。ちょっと早かったかな……」


 私の後ろを歩くアレナリアが呟いた。

 あれ?もしかして、あの列に並んだりしないよね?

 もしそうなら、本当に帰ろうかな。さすがにアドリアナもずっと手を握ってるわけには行かないだろうし。

 解放されるかもと希望を持った私だったけど、すぐにそれを否定した。

 なぜなら、私たちは、列の後方から、先頭に向かって歩いているからだ。

 つまり、列に並ぶ可能性は低い。

 そういえば、アドリアナも並ばなくて済むとか言ってたような気がする。

 ということは、やっぱりこのまま連れて行かれるしかないのかな。

 そもそも、なんでふたりは私を連れていこうとしてるんだろう?

 謎だ……。



 そんなことを考えながら歩いていると、列の先頭――教会の入口に着いた。

 教会の入口には、司祭とシスターがいて、人々の案内をしていた。

 アドリアナは、手が空いているシスターを見つけると、私の手を放して、近寄っていった。

 そして、話をして、懐から出した何かを見せると、私たちを呼んだ。

 私は、今度はアレナリアに手を引かれて、アドリアナのところに行った。

 あ、さっき逃げれば良かった…………!

 せっかくのチャンスを逃してしまい、落胆する私だった。

 そんな私を他所に、アレナリアもバッジのようなものを取り出せてシスターに見せた。

 さっきアドリアナが見せていたのと同じ物のようだ。

 よく見ると、教会にもある紋章が彫られている。信者の証みたいなものなのかな?

 アレナリアに手を引かれて、私も中に入ろうとすると、シスターに止められた。


「お待ちください。あなたも紋章の提示をお願いいたします」


 紋章って、あのバッジのこと?私、あれ持ってない。そもそも、信者でもないから、そんなこと言われても困るんだけど。

 首を横に振ると、シスターは怪訝な顔をした。


「紋章をお持ちではないのですか?」


 頷く。


「失礼ですが、あなたはゼフェラルト教の方ですか?」


 首を横に振る。


「では、あなたは何教の方ですか?」


 イエスかノーで答えられない質問が来ると困る。でも、まあ、わからなかったら聞き直してくれるだろうと思って、とりあえず、首を横に振って答えると、シスターが追加で質問してくれた。


「もしかして、無宗教なのですか?」


 さっきよりも疑わしい目で私を見るシスター。

 無宗教は、やっぱり珍しいのか。そういえば、フィルリアの街で教会に行ったときも、こんな顔をされたなぁ。

 その時のことを思い出しながら、頷く。

 すると、シスターはまだ納得が行かない様子ではあったけど、私を通してくれた。


「そうですか。無宗教ですか。……わかりました。入っていただいて構いませんよ」


 シスターがそう言うと、アレナリアが私の手を引いて歩き出した。

 歩きながら振り返ると、さっきのシスターがじっと私を見ていた。

 なんだろう?そんなに無宗教が珍しいのかな?

 視線が気になったけど、建物の中に入れば見えなくなるし、それまでの辛抱だと思って、頑張って耐えた。




 建物の中に入ると、順路の通りに進む。

 この頃には、アドリアナもアレナリアもフードを取っている。周りの人がふたりのことを話していたけど、前のように集られることはなかった。

 教会だからなのかな?

 気にはなるけど、遠巻きに見ているだけだったから、私も安心してふたりの後ろをついていった。


「そういえば、トモリさんってゼフェラルト教徒ではなかったのですね。トモリさんも教徒かと思い、お誘いしたのですが……」


 歩いていると、アドリアナが言った。


「私も驚きました。無宗教の方なんて初めてお会いしましたよ」


 続いてアレナリアが言った。

 そんなに無宗教が珍しいのか!

 私は、カルチャーショックを受けていた。

 ここは異世界だから、元いた世界と文化や価値観が違うのは当選といえば当然だけど、宗教に関しては、私は理解できない。

 実在するかどうかもわからない神サマを、どうやったらあんなに純粋に信じられるのか。

 この世界では、これが普通で、むしろ無宗教の方が普通じゃないみたいな見方をされる。

 もし、このままこの世界で生きていくなら、私も入っておいたほうがいいのかな?

 神サマなんて全く、これっぽっちも信じてないけど、毎回毎回、無宗教であることに変な顔されたりするのは、精神的に堪えるし。

 あ、でも、信者になったら、何かしないといけないのかな。面倒なことがあるならやめよう。

 うん。とりあえず、あとで詳しい話を聞いておこう。今後の私の精神衛生のために。

 ……入っても入らなくても、あんまり変わらないような気がしないでもないような気がするけど、気のせいだよね?




 礼拝堂に着くと、アドリアナとアレナリアは、それぞれ別の列に並んだ。

 礼拝堂には全部で7つの列ができている。ここの神サマも7柱だから、一列一柱ってことなんだろう。

 よく見ると、列によって長さがだいぶ違う。何十人も並んでいる長ーい列から、片手で数えられるくらいしか並んでいないガラガラの列まで様々だ。

 どの列がどの神サマの列なのかわからないけど、こうまで人気がはっきり出てたら、人気のない神サマはかわいそうだよね。

 私は、別に神サマなんて信じてないし、ゼフェラルト教の信者でもないから、特に並びたい列なんてない。

 でも、ここまで来て何もせずに帰るのはかえって目立つし、かといって長い列に並ぶ気なんてない。

 だから私は、すぐに終わりそうな列に並んだ。

 列というか、私が行ったときは前に1人いるだけで、ほとんど並ばなかった。

 一番前まで行くと、周りの人たちがやっているように胸の前で手を合わせて、目をつぶった。

 そして、心の中で適当に挨拶をする。

 本当は形だけ真似て終わりにしようと思ったんだけど、どの人も最低でも1分くらいは祈っているみたいだったから、暇つぶしに挨拶でもしておこうと思ったのだ。

 その方が自然に見えるだろうしね。


『名前も知らない神サマ、こんにちは。

 えーと、私は信者ではありませんが、成り行きでここに来ることになりました。

 うーんと、あとどうしよう?

 あ、そろそろ1分くらいは経ったかな。うん。

 とりあえずこれで体面は整ったと思うので、これで帰ることにします。

 さようなら』


 こんなもんでいいでしょ。

 そう思って、目を開けようとしたとき、


『プッ!アハハハッ!アハハッ!ハハハハハッ!』


 どこかから、誰かの笑い声が聞こえてきた。



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