76.ぼっち少女と装備
特典をもらった私は、確認する前にさっさと宿に戻った。
本当は、ものすごくその場で確認したかったんだけど、いつ人が来るかわからない状況で、のんびり確認できるような心の余裕はなかった。
とにかく、人のいないうちに帰ろう!
というわけで、私は転移で宿の部屋に戻ったのだった。
宿に戻った私は、部屋着に着替えもせず、いそいそとベッドに腰掛け、確認を始めた。
まずは称号。こっちは、精神力+10。おまけ迷宮だからか、効果がショボい。まあ、ないよりはマシだけど。
そんなことより、問題は特典の方だ。
こっちは、核水晶に触れると、光とともに私の前に現れた。
初めはぼんやりとした光の塊だったけど、だんだん輪郭がはっきりいった。そして、私が掴むと、光は消えて、あとには杖だけが残った。
何の変哲もない、普通の木の杖。魔法使いが持っているようなシンプルな杖だった。
それを見たとき、私は一瞬固まった。
え?何?杖?
スキルとかギフトとか、ポーションとかしか出たことがなかったとはいえ、まさか装備が出るとは予想だにしていなかった。
でも、冷静になって考えると、そんなにおかしなことじゃない。
ここはステータスやレベルという概念があって、魔法があって、魔物がいて、迷宮がある、RPGのようなファンタジー世界。RPGであれば、装備も重要な要素のひとつだ。
だから、この世界にあっても不思議じゃない。
私は、ただの杖を見ながらそう考え、自分を納得させた。
はあ。
私は溜息をひとつ吐くと、杖を調べ始めた。
『鑑定』
◆◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◆
【装備中】
杖(魔力+50、知力+10)
杖
【装備可能職業】魔法使い以上
【総合評価】F
【装備効果】魔力+50、知力+10
◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆
私のステータスには、称号欄の下に、装備中の欄が増えていた。
そこに、今私が持っている杖の情報が載っている。
さらに、杖の項目をタップすると、詳しい情報が出てきた。
装備可能職業とか、本当にゲームみたいだな。
なんか、こういうの見ると、異世界召喚というより、ゲームの中に迷い込んだような気がしてくる。これが現実であることは揺るがない事実なのに。
…………。
おっと、話が逸れてきちゃった。
私は、軽く頭を振って気を取り直すと、もう一度杖のステータスを見た。
まだこれしか情報がないから、なんとも言えないけど……総合評価Fって、相当低いんじゃない?装備効果もそんなに高くないし。
それに、この杖、長さが1メートルくらいあるから邪魔だ。せめてアレナリアのような、指揮棒くらいの大きさの杖なら使いやすかったのに。
これ、どうしようかな?
私は杖をじっと見つめた。
いかにもな感じの魔法の杖。
木でできていて、大きい杖。
いざというときは鈍器にもなりそうな杖。
でも、ずっと持っているのは邪魔そうな杖。
………………。
私は結局、杖を持って歩くのはやめることにした。
だって、面倒なんだもの。
面倒かどうかって、重要なことだと思わない?
そして、手早く着替えを済ませると、8時に目覚ましをセットして眠りについた。
ピピピピピ。
朝8時。
……うう、眠い。
私は目覚ましの音で目が覚めた。
本当はもう少し寝ていたかったけど、朝ごはんだけでも食べておこうと思って、起きたのだ。
携帯食ならいくつか持ってるけど、それだけだと栄養が偏るし、昨夜は結構動いたからお腹が空いているのだ。眠いけど。
お腹空いた。でも眠い。
うとうと……。
ピピピピピ。
いつの間にか寝てしまっていたようだ。
念の為にと掛けておいたスヌーズ機能で、目覚ましがもう一度鳴った。
流石に起きないと、食いっぱぐれちゃう。
私は、眠たい目を擦りながら、ゆっくりとベッドから這い出たのだった。
寝不足のせいか、すぐに出てしまうあくびをしながら、階段を降りて行くと、宿のおばさんが通りがかった。
「おや、おはよう。今日は随分眠そうだねぇ。あまり眠れなかったのかい?」
おばさんの問いに、私は苦笑いで答えた。
どうとでも取れる曖昧な答え方だけど、今の私にはこれが精一杯だ。
突っ込まれたらどうしようと思って、内心ビクビクしていたけど、おばさんは人の良い笑顔を浮かべて言った。
「そうかい。まあ、冒険者ってのは自由なのがいいところだからね。仕事が入ってないなら、今日はゆっくり休むといいよ」
そう言うと、おばさんは私の分の朝食を取りに去っていった。
何もなくて良かった。
普通なら、ああいうときは挨拶して、ちょこっと会話したりするんだろうけど、私にはできない。
筆談ならまだマシだけど、直接言葉を交わすなんて私にはできない。
できないよ……。
私は、またひとつあくびをして流れた涙を拭うと、食堂に向かっていった。
朝食のシチューとパンを食べて部屋に戻ると、もう一眠りした。
起きたら昼だったので、部屋で携帯食を食べて簡単に昼食を済ませると、ローブのフードを被って街に出た。
今日は、迷宮ではなく、市場に行く予定だ。
まあ、この時間から迷宮に行く気がないから、観光することにしただけなんだけどね。
いくら二度寝したと言っても、夜更ししたせいで体調はあまり良くない。こんな状態で迷宮に行くのは危険だ。
というわけで、私は仕方なく市場に観光に行くことにしたのだ。
ここは商業都市カージア。
多くの人と物が集まる場所。
きっと、いろんなものがあるはずだ。
どんなのがあるか、楽しみだな。




