表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/173

72.ぼっち少女との魔法練習1


 ギルドを出ると、私はアレナリアに着いて行った。

 魔石の売却にだいぶ時間がかかってしまったけど、アレナリアの用事?に付き合うことにしたのだ。

 時間の節約のため、歩きながら話を聞いた。

 アレナリアの話をまとめると、魔法の練習に付き合ってほしいということだった。昨日の私の魔法の腕を見込んで、魔法を教えて欲しいと。

 正直、話さない私が人に何かを教えるなんて、ものすごく難しいことだし、面倒だし、できればやりたくないんだけど、アレナリアの押しが強くて断り切れなかった。

 アレナリアは、アドリアナと比べておとなしい子だと思っていたから、あんなに押しが強いとは意外だった。……そういえば、ガーゴイル迷宮からの帰りにアドリアナを見かけたけど、何をしていたんだろう?

 アレナリアに聞けばわかるかもと思ったけど、移動中は、私から話題を振るのは不可能なので諦めた。まあ、あとで聞けばいいよね。そんなに大事なことでもないだろうし。

 そんなことを考えながら、私はアレナリアと森に向かって歩いていった。




 一般の人に混ざって門を出て、森のあまり人が来ない少し開けた場所に辿り着いた私たちは、早速魔法の練習に取り掛かることにした。

 といっても、最初はアレナリアしか魔法を使わない。私は、アレナリアの魔法を見て評価する側だ。

 そもそも、普通の会話ができない時点で問題があるのに、その上異世界人で魔法のことは完全に独学……というか、我流である私に教師がまともに務まるとは思えないんだけど、大丈夫かな?

 まあ、ここなら土に文字を書けば話はできるし、魔法も、この世界での基準みたいなのがわかるかもしれないから、メリットがないわけじゃないんだよね。

 あ、でも、基準というなら昨日、オークを一緒に倒したときにふたりが魔法使ってたのを参考にすればいいんじゃない?わざわざこんなことしなくても……。いや、でも、ふたりの実力が、どのくらいの強さなのかわからないから、参考にはならないか。


「あの。始めても、いい……ですか?」


 考えに耽っていると、アレナリアが聞いてきた。

 いけない。今はひとりでいるわけじゃないんだから、気をつけないと。

 私は、一度深呼吸をして雑念を振り払うと、頷いた。

 私が頷いたのを確認すると、アレナリアは腰のポーチから指揮棒のような木の棒を取り出し、正面の木に向けた。


「では、水の初級魔法からいきますね。水よ、我がもとに集え!ウォーターボール!」


 アレナリアの詠唱とともに、木の棒――あれは杖と言ったほうが正しい気がする――の先に、拳大くらいの水の塊ができた。


「行け!」


 アレナリアが言うと、水の塊は木に向かってふよふよと飛んでいき、木に当たって弾けた。

 着弾場所には、何の傷もない。

 あれ?しょぼくない?水球の大きさも、飛ばす速さも、威力も、あれじゃ魔物を倒すなんて不可能だ。

 ……これ、本気でやったわけじゃない、よね?

 あまりにも酷い魔法だったので、私は呆然としてしまった。

 そんな私を余所に、アレナリアは喜んでいる。


「やった!初めてひとりで上手くできた!やった、やった!」


 …………え?本気だったの?

 あれで、本気だったの!?


「どうですか?トモリさん。私、ちゃんと制御できていましたよね?」


 う、うん。制御は、できてたと思うよ?遅かったけどまっすぐ飛んでたし。でも、いくら制御が良くても、威力がなければ意味がないと思うんだよね。

 とりあえず、聞かれたことに関して頷くて答えると、アレナリアは嬉しそうに笑った。


「そうですよね!では、次、いきますね」


 えっ!?ちょ、ちょっと待って。まだ話は終わってないよ!

 続けて魔法を使おうとするアレナリアを止めたかったけど、遅かった。

 アレナリアは、さっさと次の詠唱を始めていた。


「水よ、我がもとに集いて、敵を切り裂く刃と成れ!ウォーターカッター!」


 今度は、水は三日月の形に横に薄く集まり、蝶のようにひらひらと上下に蛇行しながら木に向かって飛んでいった。そして、木に当たって弾けた。

 もちろん、木には傷ひとつ付いていない。

 ……これは、何?あれがこの世界の魔法?あんなので、魔物を倒すなんて絶対無理だよ?

 アレナリアが下手なだけ、だよね?私に教えを乞うくらいだし、決して上手いほうじゃない、はず。


「えっと、どう、でしょうか?」


 アレナリアが恐る恐る聞いてきた。

 私は、自分の意見を言う前に、いくつか確認することにした。

 まず、さっきのは、両方ともアレナリアが全力でやったものなのか。

 これは、そうだという答えが返ってきた。

 ……あれが全力?かなり疑わしかったけど、本人は至って真剣で、嘘をついているようには見えないから、本当なのだろう。

 それから、あのスピードの遅さは何なのか聞いた。

 そうしたら、速くすると制御ができなくなって、自分や周りの味方を傷付けてしまうから遅くしているのだと返ってきた。

 確かに、味方を傷付けてしまうのはマズイけど、あれはダメだ。あれじゃあ、何の意味もない。

 せめてもう少し速くしないと、当たっても傷を付けられない。

 そして、最後に、魔法関係のステータスを聞いてみた。

 すると、アレナリアは悲しそうな顔をしながらも、答えてくれた。


「レベルは7、魔力が200、知力が62、精神力が21です……」


 ……それって、私の初期値より低いじゃない!レベル7でそれって、低すぎない?私がレベル7のときは、確か、その倍くらいはあったはず。

 私が驚いていると、アレナリアは泣きそうな顔で言った。


「……やっぱり、私に魔法なんて無理ですよね。ステータスは低いし、魔法は弱くて使い物にならないし。私なんて、私なんて……」


 声はだんだん小さくなり、アレナリアはとうとう泣き出してしまった。

 私、アレナリアに泣かれるようなことした覚えないんだけど。

 ……これ、どうしよう。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ