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7.ぼっち少女のフィルリア入街2


 やっぱり通じなかったか。

 日本語で書いても、現地の言葉に訳される的なものを期待していたけど、無理だったようだ。

 一応、カタカナ、漢字、英語と一通り試してみたけど、どれもわからないみたいだった。

 どうしよう。

 私も困っていたけど、おじさんも困った様子だった。


 二人の間に沈黙が流れる。


 たっぷり1分は続いた沈黙は、おじさんの言葉で断ち切られた。



「面倒だが、仕方ねえ。文字はわからねえが言葉は通じてるみてぇだし、一文字ずつ聞いていくとするか」



 そう言うと、おじさんは棚から紙とペンをもう1セット持ってきて、何かを書き始めた。

 書き終えると、私の方を向いた。



「俺が質問をして、最初の文字から1つずつ言っていくから、お前さんは答えの文字のところに来たら合図してくれ」



 つまり、「あ」から順番に言っていくということか。

 時間はかかるけど、確実な方法ではある。

 理解したので頷いた。



「よし。じゃあ、名前からだな。あ、い、う、え、お……」



 おじさんが一文字ずつ言っていく。私が「と」のところで頷くと、おじさんは確認する。



「名前の最初の字は『と』か?」



 頷くと、おじさんは先ほどの紙に文字を書いた。

 そして、2文字目が始まった。




 数分後、なんとか名前を伝え終わった。



「はあ。やっと終わった。えーと、確認だが、お前さんの名前は、『トモリ』で合ってるか?」



 頷く。おじさんは疲れた様子だが、私も疲れた。まさか、名前を伝えるだけで、こんなにかかるとは思わなかった。口で言えば1秒で終わるのに。意外とかかったのは、マ行とラ行があったせいかな?

 一息つくと、おじさんは次の質問をしてきた。



「んじゃあ、次の質問な。次は、俺がいくつか候補を言うから、一番近いやつを答えてくれ」



 頷く。次は選択式のようだ。



「お前さんが身分証を持っていない理由だが、なくしたのか?」



 首を横に振る。



「じゃあ、盗まれたか?」



 それも違うので首を横に振る。



「もしかして、初めから持ってないのか?」



 頷くと、おじさんは、驚いたように言った。



「今どき、身分証持ってないやつなんて滅多にいないぞ。地方の村まで浸透してるってぇのに。……まあ、文字も見たことなかったし、よっぽど地方からきたのか?」



 一応頷いておく。まあ、地方というより、異世界なんだけどね。



「そうか。事情はわかった。質問はこれで終わりだが、身分証を持っていない場合、街に入るのに税金がかかる」



 税金か。いくらだろう?私に払える額だといいんだけど。

 ドキドキしながらおじさんを見ていると、おじさんは申し訳なさそうに言った。



「で、だ。遠くから来たとこ悪いんだが、銀貨1枚支払ってくれ」



 ……銀貨1枚って、私の全財産の半分なんですけど。

 この世界の相場がわからないから、銀貨の価値がわからないけど、銀貨があるなら金貨とか銅貨とかあるだろうし、おじさんの反応を見るにそこそこ高いんだろうなあ。

 でも、ここで払っておかないとこの街に入れないみたいだし、仕方ない。他に行くアテもないしね。

 私は、ローブのポケットに手を入れ、そこに無限収納インベントリから、銀貨を1枚出して、おじさんに渡した。



「悪いな」



 おじさんは銀貨を受け取ると、棚にある金庫らしき鍵付きの箱に銀貨を入れた。

 そして、棚から便箋と封筒を持ってきて、手紙を書き始めた。


 何を書いているんだろう。

 疑問に思って眺めていると、私の視線に気がついたのか、おじさんが教えてくれた。



「ああ、これはな、娘に手紙を書いてるんだ。俺の娘は、冒険者ギルドの受付嬢でな、ギルドでお前さんの身分証を発行してもらうように頼んでおいた」



 へえ。この世界にも冒険者ギルドがあるのか。ギルドの身分証っていうと、やっぱりギルドカードかな。



「ギルドの身分証なら、どこの街でも使えるからな。まあ、発行手数料は普通のよりかかるが、旅のもんには、そっちの方が都合がいいことが多いからな。お前さん、この街に定住するわけじゃないだろ?」



 今のところ、定住する予定はないので頷く。



「で、冒険者ギルドの身分証の発行には、冒険者登録する必要があるんだが、いいか?」



 もともとそのつもりだったので、頷いておく。

 おじさんはほっとした顔をして、便箋をもう一枚取り出した。

 ……心配になるくらいなら、手紙書く前に確認すればいいのに。



「じゃあ、ついでに、登録に必要な項目も聞いておいていいか?」



 おおっ。このおじさん、優しい!冒険者ギルドで、また一文字ずつ教えるのって大変そうだから、嬉しいな。嬉しくて、思わず何度も頷いてしまった。

 それを見たおじさんは、苦笑いをしたけど、すぐに真面目な顔に戻った。



「えーっと、名前は、そのままでいいか?略称や愛称でも登録できるが」



 うーん。別にあだ名とかないし、そのままでいいかな。

 頷くと、おじさんは、「そのままだな」と言って、私の名前を紙に書いた。



「歳は?」



 ……伝え方に迷ったが、数字なら手で表せることに気づき、1と6を手で示す。



「16か?一応成人はしてるんだな」



 伝わったようでよかった。それに、ここでは私の歳だと成人として扱われるようだ。まあ、異世界の成人年齢が早いのはテンプレか。



「次は、職業だな」



 いちいち答えていくのも面倒だったので、指先に、小さな水球ウォーターボールを作ってみせた。

 おじさんは、「水の魔法使い(ウィザード)か」と言って、紙に書いた。そして、二枚の便箋を折りたたむと、封筒に入れ、蝋で封をすると、私に渡した。

 私が受け取ったのを確認すると、おじさんは席を立ち、入り口に向かった。私も続いて外に出る。



「その手紙を娘に渡せば、すべてやってくれるようにしておいた。冒険者ギルドは、この通りの最初の曲がり角を左に曲がってすぐの建物だ。この時間なら冒険者も少ないし、変に絡まれることもないだろ」



 ギルドまでの道を教えてくれたおじさんは、「じゃあな」と言って、門に向かって歩いて行った。私はお礼の意味を込めておじさんに軽く頭を下げると、ギルドに向かって歩き出した。


 親切なおじさんで良かった。



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