70.ぼっち少女とレア魔石2
私は、ちょうど出してあった紙に、「普通に魔法で倒した」と書いて見せた。
それを見たギルマスとアレナリアは、揃って不思議そうな顔をした。
もしかして、言葉が足りなかった?まだこっちの文字を書くのに慣れてないから、短文で済ませようと思ったんだけど、さすがに省き過ぎたみたい。
私は、余白に言葉を足して、「ロックガーゴイルを普通に魔法で倒したら出てきた」と書き直した。
これなら大丈夫なはず、と思って見せたけど、ふたりはまだ納得がいかない顔をしている。なんで?
私が紙を持ったまま首を傾げると、気が付いたギルマスが口を開いた。
「……トモリさん、そこに書いたことは、事実か?」
なんでそんなことを聞くんだろう?魔物を倒して魔石を得る。これって普通のことだよね?というか、それ以外に魔石を手に入れる方法があるの?
私はギルマスの質問の意図がよくわからないまま頷いた。
私の反応を見たギルマスは、アレナリアを見た。アレナリアはギルマスに深く頷き返すと、フードを被り直した。
「申し訳ないが、この話の続きは、私の部屋で伺いたい。移動をするから、ついてきてくれるか?」
そう言いながら、魔石を袋にしまって席を立つ支度を始めるギルマス。アレナリアもフードを被ったってことは、本当に移動するらしい。
ここまで来て、行かないという選択肢はないよね。また、ギルマスの部屋に行くことになるけど……。
私は、気が進まないながらも、頷いて立ち上がった。
そして、ギルマスとアレナリアに続いて部屋を出た。
「わざわざ移動してもらってすまない。あの部屋は防犯面で不安要素があり、話を続けられなかったのだ。だが、ここなら防犯は万全だ。安心して話せる。それで、早速だが、どうやってロックガーゴイルを魔石を変質させずに倒したのか、お聞かせ願いたい」
ギルマスの部屋に着き、私たちが腰を下ろすと、早速話が始まった。
魔石が変質していないことがわかって一安心だけど、思っているより複雑な状況だ。何がどうなっているの?
いい加減、私もこの状況の理由が知りたい。私は、紙にもう一度「普通に魔法で」と書いた後、「なぜ?」と付け加えてから、見せた。
今度の席順は、私の真向かいにギルマス、その隣にアレナリアで、ふたりが並んで座っているから紙を見せるのも楽だ。
まあ、それを見越してこの席順になったんだろうけど。
私が紙を持ったまま返答を待っていると、ギルマスが答えた。
「なぜ、と聞いてくるということは、状況を理解していないということか。……そういえば、トモリさんは冒険者になってまだ間もないのだったな。ガーゴイルのことは、この街に来て初めて知ったのか?」
頷く。というか、今の発言……。もしかして、この人たち、私が状況をわかってないってこと、わかってなかった?私はてっきり、わかってくれてるものだと思ってたけど……。
いや、会ったばかりの人にそこまで求めちゃダメだってこと、忘れてた。どんなに親切な人でも、他人であることに変わりはないんだから。うん。これからは気をつけよう。
「そうか。ならばこの魔石の価値をわかっていないのにも頷ける。では、あなたの話を伺う前に、この魔石について話をしよう」
そう言って、ギルマスは説明を始めた。
「ガーゴイルの魔石は、その名の通りガーゴイルから入手できる魔石だ。武器や防具に付けると防御力を上げる効果がある。しかも、他の防御力上昇効果のある魔石と比べて、上昇値が高い。また、魔石自体も軽く、加工しやすいため、非常に人気のある素材なのだ」
ここまでは、以前聞いた話の通りだな。
「だが、ガーゴイルの魔石は変質しやすく、上質な魔石はほとんど入手できない。ガーゴイルを倒し、上質な魔石を入手できるのは、この国でも限られた者だけなのだ。そして、私は立場上、その者たちをひとりの例外なく把握している。その者たちは、ガーゴイルの魔石の価値を理解しているから、売るときは必ず私に直接持ってくるのだ。そうしないと、不埒な輩に目をつけられて、大変なことになるからな」
へぇ。そんなに手に入れるのが大変な魔石なのか。でも、ガーゴイルを倒すのはそんなに難しくなかったんだけどなぁ。
私は疑問に思ったけど、このあと説明してくれると思い、黙って話を聞いた。
「それで、ここからが本題なのだが、現在、ガーゴイルの魔石の価格が高騰している。魔石を入手できる者たちは、事情があって全員しばらくこの街を離れているのだ。その事情のせいもあり、ガーゴイルの魔石は、1個銀貨50枚で取引されている」
……銀貨50枚!?私が聞いていた価格の50倍だ。そんなに高く売れるのか。ということは、今持っているのをすべて売れば、超大金が手に入るってことに……。
あ、でも、そうすると悪目立ちしちゃうから、多少は自重したほうがいいよね?
でも、お金は欲しいし……。
どうしよう?
私は、ギルマスの話そっちのけで考えてしまった。
だって、お金はいくらあってもいいと思わない?
働かなくていいし、贅沢もできるし。
ないよりはあったほうがいいよね?
私は、ギルマスとアレナリアがじっと見ていたのにも気付かず、考え込んでしまったのだった。




