68.ぼっち少女とアレナリア
10分ほどアドリアナを観察したけど、特に収穫がなかったので、私は街に戻ることにした。
おなかも空いたし、そろそろお昼にしたい。
私は、アドリアナから離れて、街道がだいぶ近くなってから、周囲を確認して「隠形」も解除した。
ここまで来れば、アドリアナに見つかることはないだろう。
私は、安心して街に向かって歩いていった。
街に着くと、まっすぐギルドに向かった。いや、向かおうとしたけど、問題が発生してやめた。
それは、ギルドが帰りに通った門からは遠い位置にあるということだった。
まあ、少し考えればわかることだ。
カージアの街のギルドは、フィルリアの街に続く街道方面の門から比較的近い位置にあった。これは、昨日入ってきたとき、そう掛からずにギルドに着けたことからわかる。
そして、カージアの街はかなり栄えていて、街も大きい。歩いて通り過ぎるだけでも3、4時間は掛かると昨日アドリアナとアレナリアから聞いた。
つまり、街の反対側から、歩いてギルドに向かうのは私には無理だということだ。
さっき飛んで通り過ぎたときは、速すぎて景色をゆっくり見る余裕がなかったから実感がわかなかったけど、実際に地上から見てみると、カージアの街がどれくらい広いかよくわかる。
この世界の建物は、高くても2階建てくらいがほとんどだけど、教会だけはそれ以上の高さがある。教会は街で一番高い建物なのだ。
そして、この街の教会はギルドの近くにあるらしい。これも昨日聞いた。
その教会が、今、私が立っているところからでもかなり遠くに見えるのだ。
場所によっては、2階建ての建物に隠れてしまう。
この世界には珍しい30メートルくらいはありそうな建物が、ほんの5、6メートルくらいの建物に遮られて見えなくなるくらい遠くにあるのだ。
これだけ遠ければ、歩く気も失せる。
しかも雨だし。おなかも空いてるし。
というわけで、私はさっさと路地裏に入り、ギルドの近くまで転移した。
転移して、近くの食事屋で昼食を食べて外に出ると、雨は上がっていた。
空にはまだ雲があって薄暗いけど、雨が降ってるよりはマシだ。
本当は、お昼を食べたら宿に帰るつもりだったけど、この天気なら、少し寄り道して帰ってもいいかな。
私は、昨日の報酬の受け取りと、ガーゴイルの魔石の売却のために、ギルドに寄っていくことにした。
……まだお昼過ぎで時間はたっぷりあるからね。
ギルドに入ると、受付のひとつに、フードを被った人がいた。
まあ、この世界では、フードを被っている人なんてよくいるから、おかしいことじゃない。
でも、私はなぜかその人のことが気になった。
背格好や手の肌質から見て、若い女性であることはなんとなくわかったので、まあいいかと軽い気持ちで近づいていった。
すると、向こうも私の接近に気づいたのか振り返った。
そのとき見えたフードの下の顔は、アレナリアのものだった。
「あっ!トモリさん!ちょうど良かった」
アレナリアも私がわかったらしい。目があった瞬間、ものすごい勢いで駆け寄ってきた。
そして、私の手を引っ張って、そのままギルドの奥に連れて行った。
アレナリアの力はそんなに強くはなかったんだけど、勢いに流されて、私はおとなしく引っ張られていった。
連れて行かれたのは、ギルドの2階にある応接室だった。
ギルマスの部屋ではなかったことに内心ほっとする。
この街でもギルマスの部屋の常連にはなりたくない。ギルマスの部屋は、平凡な(?)高校生だった私には不釣り合いで居心地が悪いのだ。
……まあ、この応接室もかなりいい部屋なんだけどね。
私達が部屋に入って少しして、さっきアレナリアの相手をしていた受付嬢が、お盆に袋を載せて入ってきた。
袋の形状から察するに、あれは昨日の報酬かな。
アレナリアは受付嬢から袋を受け取ると、簡単に中身を確認してから、私にくれた。
「これは、昨日の護衛報酬と、オークの売却代金です。合わせて銀貨80枚です。どうぞお受け取りください」
私は頷くと、アレナリアから銀貨の入った袋を受け取った。
中身は確認しなかった。多少足りなくても、お金には困ってないから問題はない。
お金を受け取ると、特に用もないので立ち上がった。アレナリアも長話をするつもりはなかったようで、立ち上がり、ふたりして部屋を出た。
……お金を渡すためだけにあんなに良い応接室を使うなんて、さすがは領主の娘といったところかな?
すごいなあ。
私はフードを被り直して前を歩くアレナリアを、じっと見つめていた。