67.ぼっち少女と雨中のアドリアナ
その後、魔石が変質しないよう、瞬殺を心掛けながらガーゴイルを倒しつつ迷宮を降りていき、ボス部屋を突破。
攻略報酬を貰って迷宮を出た。
ガーゴイルは、どの種類も石化のスキルを持っていたけど、視界に入らなければどうということもない。空から倒したり、距離があるうちに攻撃したりすれば、ガーゴイルの視界に入らないので何の問題もなかった。
ガーゴイルはウルフと同じ種類がいた。見た目や性質も、ウルフから像に変わっただけというのがほとんどだったけど、一種類だけ、今までと違うものがあった。
バードガーゴイルだ。
スライム、ウルフのときも「バード」にはツッコミどころがあったんだけど、それは説明だけで、本体はまだマシだった。まあ、スライムはともかく、ウルフにふわふわの天使の羽根が生えてるのは、似合わなくてかなりおかしかったけど、まだマシだった。生物としてあり得る範囲内だったから。
でも、バードガーゴイルは違った。
バードガーゴイルは、羽根が像の形に集まっている姿をしていた。もう、「バード」じゃなくて「ウィング」と言ったほうが正しい。だって、バードって鳥のことを言うのに、バードガーゴイルは鳥からかけ離れすぎているんだもの。シルエットはロックガーゴイルと同じで、鳥の羽根なんて生えてないし。というかそもそも羽根だけでできているだけでおかしいから。
いつもはそのまま空から攻撃して終わりなんだけど、バードガーゴイルは気になって近くまで見に行った。石化攻撃対策のために「隠形」で姿を隠していたから、かなり接近しても石化することはなかった。
石化攻撃は、相手を視認する必要があるから、姿が見えない相手にはできない。それを利用したのだ。
バードガーゴイルに近付くと、私は、ゴブリン迷宮で拾ったボロ剣をバードガーゴイルに向かって投げた。すると、バードガーゴイルは攻撃してきた方向に向かって羽根を飛ばしてきたけど、羽根は軽いせいか速度は遅いし、当たっても痛くなかった。
しかも、羽根を飛ばしたところは、そこを覆っていた羽根が減って中身である魔石が見え始めていた。ふと気になってステータスを鑑定すると、羽根がなくなった分、防御力が落ちていた。
その後も、バードガーゴイルは見えない私に羽根を飛ばし続けた。その度に羽根が減って魔石が剥き出しになっていく。
そして、最終的に、羽根を全て飛ばして防御力が0になると、魔石は地面に落下して粉々に砕け散った。完全な自爆だ。
バードガーゴイルはバカだ。相当なバカだ。あれは自爆攻撃ですらない。ただの自滅だ。無駄死にだ。
私は、自滅したバードガーゴイルの残骸を見て、心底呆れた。まさかあんなバカ過ぎる魔物がいるとは思わなかったよ。ああ、でも、せっかくの魔石が回収できなかったのはもったいない。
その後私は、バードガーゴイルは自滅する前にとっとと倒すことにして進んだ。
ガーゴイル迷宮の攻略報酬は、「ガーゴイル迷宮制覇」の称号と、スキル「加速」だった。
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トモリ・ユキハラ
【種族】人族
【性別】女性
【年齢】16
【職業】魔法使い、回復師
【レベル】17
【体力】3615/3615(+1510)
【魔力】5525/5525(+610)
【筋力】98(+510)
【防御】26(+1160)
【命中】1001(+510)
【回避】527(+510)
【知力】2135(+560)
【精神力】1666(+510)
【速度】1499(+520)
【運】85(+510)
【経験値】60856/182455
【魔法属性】無、水、火、風、光
【スキル】無限収納、解体、加速(new)
想像創造(コマンド略)
【異能】略
【称号】召喚者、万能者、神に祝福されし者、冒険者、スライム迷宮制覇、真・ゴブリン迷宮制覇、ウルフ迷宮制覇、ホーンラビット迷宮制覇、フィルリアの街迷宮制覇、ガーゴイル迷宮制覇(new)
加速
【発動】任意
【説明】対象の移動速度を速くする。最大値は速度ステータスの10倍。
【使用方法】スキル名を唱える。
ガーゴイル迷宮制覇
【称号取得条件】ひとりでガーゴイル迷宮を攻略する
【効果】魔力+100、知力+50
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スキル「加速」は移動速度が速くなるみたいだけど、これって飛行魔法にも適用されるのかな?
もしそうなら、今まで以上に移動が楽になるし、早速試してみよう。
私は、新しいスキルの効果を試すために、今日は転移で街に戻らずに飛んでいくことにした。
外に出て「飛翔」で飛びながら「加速」を使ってみた結果、飛行速度も速くなることがわかった。ただ、速すぎて細かい操作が難しく、思ったところで止まれないといった問題があった。
今回は、全力まで速度を上げた結果、街を丸ごと通過して、反対側まで来てしまった。
……慣れるまでは全力はやめておこうと思った。
幸いにも、行き過ぎて止まった場所は街からそう遠くない。普通に歩いても10分やそこらで街に着ける距離だ。
ちょうどいいから、歩くスピードも検証しておこう。そう思って、地面に降りるため、足元に広がる森の中で人のいない場所を探した。
「探索」で探すと、雨のせいか全体的に人は少なく、すぐに降りられる場所をいくつか見つけることができた。
降りられればどこでもよかったんだけど、探しているときに気になることを見つけたから、その場所の近くに降りた。
地面に降り立つと、「隠形」はそのままに、そっと気になる場所に向かう。
近くに着くと、木の陰からそっと様子を伺った。本当は、「隠形」を使っている限りバレる心配はないから堂々と見ればいいんだけど、そこは気分というか、気持ち的に隠れていた方がいいかなって思ったの。
覗いた先は、少し開けた場所になっていた。
そこに、びしょ濡れになったアドリアナがいて、ブツブツと何かを言っている。
私とアドリアナのいる場所は少し距離があるし、雨の音のせいで何を言っているのかまでははっきりと聞き取れないけど、表情や声の感じから、アドリアナが怒っていることはわかった。
……どうしたんだろう?
こんな雨の日に、森の中で、領主の娘がびしょ濡れになって何かに怒っている。
アドリアナに似つかわしくない状況に、私は疑問を感じた。
でも、私には、アドリアナに声を掛ける勇気はなかった。
こんなふうに盗み見している後ろめたさと、話せないことが、私の勇気をなくしていた。
私は、何かをするでもなく、ましてや声を掛けることもなく、木の陰から静かにアドリアナを見つめていた。




