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63.ぼっち少女と双子の姉妹


 早朝にフィルリアの街を出発し、「飛翔フライ」で飛び続けること3時間。遠くに薄っすらと街が見えてきたところで、私は、人目につかない森の中に入り、休憩をとっていた。

 「隠形ハイドフォーム」の併用で他人から見えないのをいいことに、かなり飛ばしまくった。幸い、迷宮攻略のおかげで魔力が多くなっていたから魔力切れになることなく、ここまで来ることができた。

 このまま行けば、あと30分もせず街に着けるだろう。

 今回は、身分証もちゃんとあるし、問題なく入れるはずだ。

 それでも、万が一足止めされたときに備えて、事前に休憩をとっておくことにしたのだ。


 私は「無限収納インベントリ」からフィルリアの街で買った軽食を出し、頬張った。

 こっちの世界の食事は、元の世界のものと大差ないのは助かった。おかげで、お腹が空いても遠慮なく食べられる。小説とかによくあるような、変な食文化の世界じゃなくて本当に良かったよ。

 改めて普通の食事にありつける幸福を実感しながら、私は30分ほど休憩をとると立ち上がった。

 もう一飛びするために、周囲に気を配りながら障害物のない街道に出た。

 「探索サーチ」と目視で人がいないことを確認すると、「隠形ハイドフォーム」を使ってから飛び立とうとした。

 ――ちょうどその時。


「待って!そこの人!助けてください!」


 後ろから女の子の声がした。

 私は発動直前だったスキルをキャンセルして、振り返った。

 すると、100メートルくらい先に、私と同い年くらいのふたりの女の子がいた。

 ふたりは、ときどき背後を振り返りながら、必死にこちらに走ってくる。

 ふたりの後ろに何かがある?

 私は目を凝らして走ってくるふたりの後ろを見たけど、遠くてよく見えない。仕方なく「探索サーチ」を使ってみると、数十匹もの魔物が迫ってきているのがわかった。

 ……これ、結構ヤバイ状況かも!?

 私が状況を把握している間に、ふたりが私のいるところまでやってきて止まった。


「あ、あの!事情はあとでお話しますので、今は魔物討伐を手伝っていただけませんか?」


 ふたりのうち、綺麗な金髪をポニーテールにまとめている方が言った。

 まあ、魔物を倒せばステータスも上がるし、倒す手伝いをすることに問題はない。問題があるとすれば、私の意思をすぐに伝えられないことだ。

 私が答えられずにいると、今度は、銀髪をツインテールにまとめている方が言った。


「あ、あの!お礼は必ずいたしますので、どうか!助けてください!お願いします!」


 ツインテールの方はそう言って頭を下げた。

 私は、彼女の肩に手を置いて頭を上げさせると、大きく頷いた。

 これで伝わってくれるといいんだけど……。

 ちゃんと伝わったか少し不安に思ったけど、無事伝わったようだ。ツインテールの子は、笑顔で再び大きく頭を下げた。


「あ、ありがとうございます!」


 そして、頭を上げると、ポニーテールの子と一緒に、向かってくる魔物の群れと対峙した。

 私も「氷槍アイスランス」を展開して、魔物が射程距離に入るのを待った。





 襲ってきたのは、ノーマルオークの群れだった。だいたい20匹くらいいたと思う。

 正直、私ひとりでもなんとかなったんだけど、助けを求めてきたふたりも魔法で加勢してくれたから、戦闘はあっさりと終わった。まあ、ふたりの攻撃はあまり効いてなくて、ほとんど私がトドメを刺していたんだけど。

 戦闘が終わると、ツインテールの子が話しかけてきた。


「あの、助けてくださって、本当にありがとうございました。自己紹介が遅れましたが、私はアレナリア・トゥ・オネインザ。商業都市カージアの領主の娘です。こっちは双子の姉のアドリアナです」

「アドリアナ・トゥ・オネインザです。先程はありがとうございました。もしよろしければ、我が家にいらしていただけませんか?お礼をさせていただきたいのです」


 ポニーテールの子――アドリアナは一礼すると提案してきた。

 えっと、ふたりの家って領主の家ってことだよね?私がそんなところに行ったらどうなるか……。いや、招待されて行くんだし、何も問題はない?でも、話せないことがわかったらどういう反応をするかな?

 ……うん。丁重にお断りしよう。

 考えた結果、アドリアナの提案は断ることにした。領主の家に行ったら領主に会うことになりそうで、面倒だし。

 私は、道端に落ちていた木の枝を拾って、地面に断りの文章を書いた。招待は嬉しいけど、私はただの冒険者なので遠慮させていただきます的な内容だ。

 それを見たふたりの反応は対照的だった。

 アドリアナは、明らかに残念そうというか、むしろ少し怒ってるような顔をし、アレナリアは、ホッとした顔をした。

 ん?何この反応?

 ふたりの反応の違いに違和感を覚えたけど、深く考える前にアドリアナが口を開いた。


「そうですか。あなたは私たちの命の恩人ですから、ぜひいらしていただければと思ったのですが、仕方ありませんね。ですが、冒険者であるならば、せめて、ギルドに一緒に来ていただけませんか?素材の売却料からいくらかお支払いしますので」


 まあ、それくらいならいいかな?もともと街に着いたらギルドに行く予定だったし。

 私が頷くと、アドリアナがアレナリアに目配せした。それを見たアレナリアは、ノーマルオークの死体に近づき、手をかざした。

 すると、ノーマルオークの死体が一瞬で消えて驚いた。

 そんな私を見て、アドリアナが説明してくれた。


「あの子は、『収納魔法アイテムボックス』のスキルを持っているんですよ。ギルドカードに付与されているものとは違って、一括収納できるので便利なんです。素材はあの子がギルドまでお運びいたしますので、ご安心ください」


 私が説明を聞いている間に、アレナリアはオークの死体を回収して戻ってきた。

 すべて収納したのを確かめると、アドリアナは歩き出した。


「では、参りましょう。カージアへ」


 私も、さっき書いた文字を消すと、アレナリアと一緒に、アドリアナのあとを追って歩き出した。


 ……というか、歩くの?ここから街まで?まだ結構距離があると思うんだけど。

 歩けるか心配になったけど、初対面の人に飛べることを話す気にはなれず、仕方なく歩いた。

 街まで歩けるか、不安だ……。


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