6.ぼっち少女のフィルリア入街1
アースウルフを倒した私は、そのまま町に向かった。
換金できそうな魔物が手に入ったし、偶然にもレベルアップが果たせたので、暗くなる前に町に行くことにした。
「探索」と「地図」で方角を確認しながら魔物を徹底的に無視して森を抜け、道に出ると、町の外壁を目指して歩く。
森の中を歩きながら、新たに魔法を創った。「ステータス隠蔽」だ。
変に目立ちたくないので、とりあえず大量にある異能は誤魔化しておいた方がいいと思ったのだ。
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ステータス隠蔽
【属性】なし
【タイプ】その他
【発動対象】自分
【効果】自分のステータスを任意の値に変更できる。また、各項目をタップすると、任意の職種・レベルの標準値が表示される。なお、隠蔽を暴けるのは、%&@$#だけである。
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魔法を創ってスキルコマンド欄で内容を確認したら、説明欄に「暴けるのは、%&@$#だけである」と出てきた。私が意図したものではないし、文字化けしている理由も不明だ。どうなっているんだろう?
それに、標準値の表示も想定外の機能だ。まあ、標準値がわかるのはありがたいから、この機能は嬉しいけど。
何度か創り直しても変わらなかったので、文字化けしている部分については諦めることにした。前後を読む限り、文字化け部分に入るのは、ごく一部の存在を表す言葉である可能性が高いから、普通の人に偽造を暴かれる可能性は低そうだしね。
意図しない機能については諦めて、ステータスを設定し直すことにした。
調べてみたら、標準値は私のより低いものが多かったので、ステータスも少し低めに設定した。
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トモリ・ユキハラ
【種族】人族
【性別】女性
【年齢】16
【職業】魔法使い
【レベル】7
【体力】130/130(125,281)
【魔力】304/304(252,397)
【筋力】16(21,16)
【防御】16(21,16)
【命中】28(31,28)
【回避】23(31,23)
【知力】98(61,129)
【精神力】34(41,34)
【速度】31(31,34)
【運】23(11,26)
【経験値】283/308
【魔法属性】水
【スキル】収納魔法
【異能】並列思考
【称号】なし
※(左:レベル7の魔法使いの標準値、右:燈里の本来の値)
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これで良し。
ステータスの値は、基本的に標準値とほぼ同じにした。でも、あまり平均過ぎるのも良くないと思ったので、一部ステータスは高めに設定しておいた。平均よりも低いものはそのままにした。あまり見栄を張っていもいいことはないからね。
魔法属性は水にした。異世界召喚とかの物語で、複数属性持っていて大変だったという話があったので、属性は一つだけにした。水にしたのは、一番汎用性が高そうだったから。
スキルは、「収納魔法」ということにした。こっちは、容量が有限で時間経過があるものみたいだけど、「無限収納」よりはメジャーだし、収納魔法が使えないと困ることもあるから、あえて表示することにした。
異能は、一番無難?で使えそうな「並列思考」。称号はなしにした。
そんなことをしながら歩くこと30分。
私は、町の入口に来ていた。
外壁の一部が開いていて、代わりに鉄製の高い門が設置されている。門の前には武装した門番らしき人がいて、中に入る人の対応をしている。
私の前には、3人の町人らしき人たちが並んでいたけど、どの人も門番に何かのカードを見せるとすぐに中に入っていった。
あのカードってもしかして、身分証?そうだとすると、それを持っていない私って……。
自分の身にこれから起こるであろうことを想像して不安になっていると、私の番がやってきてしまった。
「次はお前か。見ない顔だが……身分証は?」
40代くらいの中年のおじさん門番が聞いてくる。
生憎、身分証を持っていないので、首を横に振ると、門番のおじさんは私についてくるように言った。
私、どうなるんだろう?
不安に思いながらついていくと、おじさんは、門のすぐ内側にある小屋に入っていった。
私も続いて中に入る。小屋の中には、四人用の木のテーブルと、椅子が3つ、それから壁際に大きな棚が置いてあった。
「とりあえず、適当に座ってくれ」
そう言われたので、一番近くにあった椅子に座る。
すると、おじさんがテーブルを挟んで私の向かい側の席に座った。座るときに佩いていた剣を横に置いていた。
「俺は、門番のジークだ。身分証がない者は、事情聴取をする決まりなんでな。少し話を聞かせてくれ。そちらが何もしない限り、実力行使をすることはない。いいか?」
おじさんの説明に、私はこくんと頷いた。
ここまでのおじさんの態度を観察した結果から、おじさん自身は良い人で、大人しくしていれば問題はないんだろうことがなんとなくわかったので少し安心した。
私は、どちらかというと人間観察は得意だから、わかるのだ。
この小屋も、取り調べ室というより、本当に話を聞くための場所といった緩い作りの場所だし。
私が頷いたのを確認すると、おじさんは話を進めてきた。
「基本は、いくつか質問に答えてくれれば終わりだ。協力してくれれば数分で終わる」
私の場合、絶対数分じゃ終わらないだろうなあ。どうしよう。
話せないことをどう対処しようか考える。でも、おじさんはさっさと質問してきた。
「じゃあ、まず、お前さんの名前を教えてくれ」
「……」
その質問に、私は渋い顔をして俯いた。
私は声が出せないので、話したくても話せないのだ。いつも、誰かと話をするときは、スマホを使ったり、紙に文字を書いたりしていた。
この世界でも、日本の文字が通じるかわからないけど、とりあえず試した方がいいよね?このまま黙ってるといらぬ誤解を生みそうだし。
私は、ジェスチャーでおじさんに話せないことと、書くものを要求する。おじさんはすぐに理解してくれた。
「ああ、お前さん、話せないのか。じゃあ、仕方ねえな。書くものを持ってくるからちょっと待ってろ」
おじさんは椅子から立ち上がると、棚から紙とペンを持ってきた。
私はそれらを受け取り、日本語で「わかりますか?」と書いて、おじさんに見せた。
それを見たおじさんは、困ったような顔をした。
「これは、どこの文字だ?」