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閑話7

今話は、三人称でお送りします。



 その部屋は、モニタールームのようだった。

 壁一面に十数個ものモニターが並び、それぞれ違う映像を映し出している。

 その中のひとつには、地上には珍しい黒髪黒目の少女が、早朝に街の門を出て、空を飛んでいく様子が映し出されていた。

 ひとり椅子に座ってその映像を眺めながら、リリスはポツリと呟いた。


「トモリはフィルリアの街を出たのね。トモリをこっちに喚んでから約半月……。もう少しかかると思ったけど、意外と早かったわね」

「そうだね」

「!」


 リリスはその声に驚いて振り返った。

 ひとりきりだと思って呟いたのに、予想外の答えが返ってきたのだ。驚かないわけがない。

 まして、リリスは仮にも魔界の序列第2位。魔界であるこの場所で、彼女に気付かれずに背後に立てる者は基本的にひとりしかいない。

 故にリリスは声がしたとほぼ同時に振り返り、反射的に臨戦態勢を取った。

 臨戦態勢といっても、いつでも逃げられるように転移の術を発動直前まで頭の中で組み上げるだけで、見た目に変化はなく、常人であれば、彼女がそんなことをしているなどわからないだろう。

 しかし、彼女を訪ねてきたのは、常人ではなかった。


「僕だから、そんなに警戒しなくても大丈夫だよ、リー」

「なんだ。あなたか……。もう、驚かさないでよ!」

「ごめんごめん。随分と集中しているみたいだったから、つい、ね」

「ついって…………。まあ、いいわ。私に何か用かしら?」


 リリスは相手が顔見知りであるとわかると、警戒を解いた。侵入者とリリスの間には、浅からぬ縁がある。付き合いも長く、お互いの性格は熟知していた。

 ……お互いにイタズラ好きだということも。

 だから、リリスは相手の言い訳を適当に流し、さっさと本題に入った。

 一方、侵入者の方も、リリスのことをよく知っているので、これ以上無駄話せず、本題に入った。


「首尾はどう?」

「今のところは上々って感じね。与えた能力も使えてるし、自力で迷宮を見つけたり、悪魔を召喚したりと思考力も高い。性格……というか、人間関係に多少の問題はあるけれど、いずれ解決するでしょう」


 リリスはこれまで見てきた燈里の行動を思い出しながら言った。

 それを聞いていた侵入者は、片眉やや上げ、意外そうに言った。


「迷宮の場所を自力で探し当てた?フィルリアの街のおまけ迷宮は、かなりわかりにくい場所にあったはずだけど……」

「行動を見るに、他の3つの場所から推理したみたいよ」

「へぇ。それはすごい」


 侵入者は口の端に小さく笑みを浮かべた。

 それを見たリリスも、小さく笑った。


「どう思う?」

「まあ、いいんじゃない?とりあえず、候補ということで進めてくれる?」

「わかったわ。それじゃあ、トモリへの支援は今まで通りということでいいわね?」

「うん。お願い」


 今後の方針が決まると、リリスは燈里が映っていたモニターの画面を消し、立ち上がった。

 それを見て、侵入者は不思議そうな顔をした。


「……もういいの?」

「ええ。もう次の手は打ってあるから」

「そう?……どんなのか聞いたら教えてくれる?」


 侵入者は躊躇いがちに聞いた。

 それに対して、リリスはいたずらっぽく笑って答えた。


「ふふ。それは見てのお楽しみよ」

「そう。気になるけど、こういうときの君は教えてくれないから、楽しみにしてるよ。あ、それから、別件でひとつ気になっていることがあるんだけど」


 侵入者はやれやれという顔をして追求を諦めた。その代わり、別のことを聞いた。

 リリスは、侵入者と向き合って、続きを促した。


「何?」

「この間、さっきの――えっと、トモリだっけ?あの子に『水中呼吸ブリージング・アンダーウォーター』をあげたでしょ?何でアレにしたの?」


 予想外の質問だったのか、リリスはキョトンとした顔をした。


「何でって、これからのことを考えたら、水中で息できるようにしておいた方がいいでしょう?」

「それはそうなんだけど、別に今じゃなくても良かったんじゃない?今はほら、もっと他に役に立つ能力があるでしょ?」


 リリスは侵入者の言うことがイマイチ理解できていないようで、首を傾げた。


「他に?何かあったかしら?」

「…………」


 普段は細かいところまでよく気がつくリリスだが、時々抜けているところがある。

 それを改めて実感した侵入者は、溜息をついた。


「はあ……。そのトモリって子は喋れないんでしょ?だったら念話の能力をあげれば良かったじゃない」

「あっ!」


 ようやく理解したリリスは、声を上げた。


「言われてみれば、そうね。すっかり忘れていたわ」

「まあ、君とは念話でやり取りしてたみたいだから、気が付かなくても仕方ないよ。でも、次は忘れちゃダメだよ?」

「わかったわ」


 侵入者の言葉に大きく頷くと、リリスは部屋の出入り口に向かって歩き始めた。


「それじゃあ、そろそろ行きましょうか。彼が待ってるわ」

「うん!」


 そうしてふたりはモニタールームを出ていった。


 

次話から第二章です。明日か明後日には更新する予定です。

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