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閑話6 とあるギルマスの再始動


 私の名前はハヴィティメルネ。フィルリアの街の冒険者ギルドのギルドマスター。

 ギルドマスターになる前は、冒険者をしていたわ。ランクはB。こう見えて、意外と強かったのよ、私。

 まあ、私は剣は得意だったけど、魔法とか作戦考えるのとか苦手で、パーティーの仲間の協力がなければダメダメだったんだけどね……。よく皆の足を引っ張っていて、申し訳なく思ってたわ。

 でも、パーティーメンバーの他の3人は、そんな私に優しく接してくれた。私の欠点を補ってくれた。

 3人のおかげで、私はBランクまで上り詰めることができたの。


 パーティーの中での私の役割は前衛だったわ。

 ひたすら剣で敵を斬り倒す前衛は、私にぴったりだった。魔法職の仲間に教わって、簡単な魔法を使うことができるようになったけど、私の職業は剣士系の上級職の真・剣術士(ソードマスター)。もともと魔法はあまり使えない職業だから、中級以上の魔法を覚えることはできなかった。

 だから私はひとりではあまり戦えないの。特に魔法を使ってくる敵や、防御の硬い敵とは相性が悪い。私の剣は速さ重視で、力とかはあまりないからね。

 パーティーを組んでいたときは、それでも良かったんだけど、メンバーの加齢を理由にパーティーを解散してからは、迷宮にも行けず、依頼もこなせなくなって、冒険者を辞めた。

 また新しいパーティーを組むことも考えたけど、20年近く一緒に冒険したあのメンバー以上の人に巡り合うことはできなくて、諦めることにしたの。



 冒険者を辞めて、貯金を切り崩して生活しながら、職を探していたとき、パーティーメンバーだったハンスからフィルリアの街の冒険者ギルドのギルドマスターにならないかと誘われたわ。

 ちょうどその頃、フィルリアの街の冒険者ギルドのギルドマスターが病気で引退して、後任を探していたらしいの。そして、次のギルマスの条件が、元冒険者で、今でも現役並みに戦えること、それから、外見が若く見えることで、私にぴったりだって思ったの。

 私はハーフエルフで、人族よりも寿命が長い。外見も、人族でいうと20代くらいを保ち続ける。それに、戦闘だって、まだまだできる。……ひとりでどれくらい役に立つかはわからないけれど。

 そうして私は、一か八かで応募したギルドマスターの仕事に就くことになったの。

 ギルマスとしての仕事は初めてのことばかりで大変だったけど、面倒見のいいサブマスや、いつの間にか解体部の部長になっていたハンスのサポートで、なんとかこなしていたわ。

 書類仕事の他に、ギルド職員と仲良くしたり、冒険者と仲良くしたり、問題児を懲らしめたりした。

 見た目が若い私は、多くの冒険者たちと仲良くなることができたわ。始まりの街であるここフィルリアの冒険者の多くは、駆け出しのひよっこばかり。見た目の歳が近い私は、親しみやすかったのだと思う。

 ギルマスとしての日々は、冒険者だった頃とはまた違って充実してたわ。

 ただ、時折、楽しそうに冒険に行く冒険者の姿を見て、できるなら、自分もまた冒険者として冒険したいと思うことがあった。

 今の私には、実力的にも、人間関係的にも無理な話だけれど……。




 そして、ギルマスになってから5年近くの歳月が経ったある日、ひとりの少女に出会った。

 名前はトモリ。このあたりでは珍しい黒髪黒目の少女。

 彼女は口がきけないようで、一声も発しなかった。

 珍しいタイプの子だから、つい異能「真偽眼ジャッジメント・アイ」で彼女を視てしまったの。

 「真偽眼ジャッジメント・アイ」は、相手のステータスや嘘を見抜くことができる異能。それで私はトモリちゃんを視た。

 ステータスは、ごくごく普通の魔法使い(ウィザード)のものだったし、話をしていても、特に嘘をついてはいなかったわ。隠したいことはあるようだったけど、秘密のひとつやふたつ、人として当たり前のことだから、特に気にしなかった。

 でも、トモリちゃんがいろいろ常識外れなことをしてくる度に、驚かされて、だんだん興味を持つようになったの。

 何でひとりなのにあんなに強いんだろうって。

 魔法職は、一騎当千の実力を持つ人もいる。魔法は剣と違って範囲攻撃ができるから、戦い方を工夫すれば初級職でも十分強い。そのことは冒険者時代からよく知っていた。


 でも、トモリちゃんの強さは規格外だった。

 レアスキルを複数持っていることはまだいいわ。珍しいけど、全くいないわけじゃないから。

 魔法だって、氷系は水属性魔法の中でも少し難しい部類だけど、使える人はそれなりにいる。それにトモリちゃんが使う魔法の種類は多くない。むしろ少ないと言える。

 それなのに、トモリちゃんは強かったわ。

 確実に敵を仕留める巧みなコントロール。状況に応じて正しく使い分けられる魔法。スキルや魔法をうまく使った、安全な戦闘……。

 トモリちゃんの戦う姿を見て、私はトモリちゃんをとても気に入ったわ。

 この子となら、パーティーを組んでもいいかもって。

 そう思って、ちょっとハンスの力も借りて、ウルフ迷宮に一緒に行ったの。

 冒険者の手の内を無闇に詮索してはならないのが暗黙のルールだけど、私はどうしてもトモリちゃんのことをもっと知りたかった。迷宮で戦っている姿を見れば、もっとわかるかもって。

 ウルフ迷宮は、前衛の私とハンスだけだと少し厳しいところがあるけど、魔法職がひとりいれば十分いける。念のため回復薬ポーションを一通り持って、装備も整えて行った。

 途中、久しぶりだからか油断して攻撃を受けてしまったけれど、トモリちゃんがなんとかしてくれたわ。それに、なぜかトモリちゃんは光属性魔法が使えるってことがわかったの。光属性魔法は聖職者にしか使えないはずなのに。トモリちゃん自身も理由はわかってないみたいだったけど、私には細かいところはどうでも良かった。


 重要なのは、トモリちゃんがとっても優秀な子だってこと!

 トモリちゃんとなら、また冒険してもいいって思えた。それが重要なの!

 本当は、すぐにでもトモリちゃんを誘いたかった。でも、今はまだダメ。

 私は冒険者だった頃より弱くなっている。それに、たぶん、今の私じゃトモリちゃんの足手まといでしかないわ。

 だから、もっと強くなる。

 剣技を磨いて、魔法を覚えて、戦術を学んで。

 ひとりでも、ある程度戦えるように。



 トモリちゃんと離れてしまうのは寂しいわ。

 もしかしたら、もう会えないかもしれない。

 でも、トモリちゃんはきっと、有名な冒険者になるはずよ。そうなれば、トモリちゃんの居場所を見つけることなんて簡単なはず。

 だから、そのときまで、私は私にできることをしよう。

 私はやっぱり、ギルマスよりも冒険者の方が性に合っていると思うから。

 また、信頼できる大切な仲間と一緒に冒険がしたいから。


 私、頑張るから、待っててね、トモリちゃん!

 

 

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