53.ぼっち少女のウルフ迷宮再攻略
4月19日水曜日。
この世界に来てから、1週間が経った。
いろいろなことがあったし、まだ知らないことも多いけど、この世界にだいぶ馴染んできたと思う。
私は、ほっこり亭で朝食を食べ、5日分の延泊手続をしてから、昨日に引き続きウルフ迷宮に向かうことにした。
一応、ギルドに行って、ウルフ迷宮関連の依頼がないかを確かめておく。
いつものように朝の混雑時間を避けて来たからか、ウルフ迷宮関連の依頼は一つもなかった。
朝早く来たことのない私には、もともとないのか、すべて取られてしまったのかはわからないし、知りたいとも思わない。一昨日の依頼でお金は十分稼げたから、無理して依頼を受けなくても問題はない。ギルドランクもついでに上がればいいかな、といった感じで、積極的に上げるつもりはないし。
私は、依頼ボードを確かめると、受付にいたアニタさんに軽く会釈をして、冒険者ギルドをあとにした。
ウルフ迷宮に着いた私は、「光球」を明かりにして、第1層を進んでいった。転職必要討伐数を達成できる数だけ倒し、死骸を回収すると、次の階層に進んだ。
第2層以降も、必要最小限の数だけ倒して死骸を回収していった。前回でほとんど達成してしまっていたので、第2層から第5層に辿り着くまでにかかった時間は、15分ほどだった。
第5層のパラライズウルフとポイズンウルフは、接触しないように気をつけながら倒していった。この2種類は、前回あまり倒していなかったから、転職に必要な討伐数を達成するのに少し時間がかかって、階段に着くまで1時間近くもかかってしまった。
1匹1匹がスライムよりも強いせいか、スライム迷宮のときよりも沸きが少なく、移動に時間がかかってしまったのだ。
前回は、戦闘を減らすために少ない道を優先的に探していたから気付かなかった。敵が少ないのは、戦闘を避けたいときにはいいけど、逆に戦いたいときは探す手間が増えて困ると思った。
私は第6層へ向かう階段で15分ほど休息を取ると、ボス部屋に入り、36匹のウルフを瞬殺した。
ハティさんに聞いたところによると、ボス部屋の敵は、一度倒すと30分は再出現しないらしい。私は、その時間を使って、黒魔術の実験をすることにした。
「無限収納」からノートを取り出し、昨日アルファベットで書き換えた呪文が書いてあるページを開いた。そして、左手でノートを持ち、右手を手のひらを上にして前に出し、一番上に書いてある呪文を心の中で適当な発音で読んでみる。
まずは、無難にローマ字読みしてみる。
『Leafices-nwu, Jackdelis nua Meth Hand or Dan'des'e?』
一応、英語っぽい発音を意識して読んでみた。
すると、右手の手のひらに、一瞬だけだけど青白い炎が現れて消えた。
……これって、成功なのかな?あ、でも、一瞬だけ出ても実用的じゃないから、失敗なのかな?
ここには私ひとりだけなので、成功なのか失敗なのか教えてくれる人はいない。
とりあえず、ここは半分成功半分失敗ということにして、読み方を少し変えて、もう一度やってみることにした。
変えられるとしたらどこだろう?候補はいくつかあるし、ひとつずつ比べてやってみようかな。
まずは、最初のLeaficesをリーフィセスと読んでみた。でも、炎は出なかった。ということは、Leaficesの読み方はレアフィセスで合ってるってことだよね。
次は、Jackdelisをヤックデリスと読んでみた。この本のタイトルに書いてあったKapitelは、確かドイツ語だったはず。ドイツ語が元になっているのなら、Jの読み方はヤ行の音になると思ったのだ。結果は、炎の出現時間が、少し伸びた。だいたい5秒くらい。つまり、Jackdelisの読み方はヤックデリスということになる。
次に、Methの読み方をメスからメトに変えてみた。ドイツ語的な読み方をするなら、thはスではなくトだと思ったのだ。でも、結果は失敗。炎は全く出なかった。Methの読み方はメスで合っているみたい。
……この言語、どういう基準で読めばいいんだろう?だんだん訳がわからなくなってきたけど、ここまでやったんだから最後までやっておきたい。
といういわけで、最後に、orの読み方をオアからオルに変えてやってみた。すると、炎は1分くらい出ていた。これは、成功、なのかな?
もう一度同じ読み方でやってみると、さっきより出ている時間が少し長くなった。
どうやら、これが正しい読み方らしい。
私は、正しい読み方をノートに書くと、次の呪文に移った。




