52.ぼっち少女の言語解析
私は部屋に備え付けられている机に向かうと、椅子を引いて腰掛けた。
そして、「無限収納」からゴブリン迷宮の攻略特典としてもらった「黒魔術の書 ~第一章 召喚~」と、「全世界迷宮辞典」、それからリリスにもらった読めない文字の一覧表が書かれた紙を取り出して机に並べた。
さらに、「想像創造」でB5サイズのノートとシャーペン、消しゴムを創って机に置いた。
これで準備は整った。
私は、一応アラームを夕食の時間の18時にセットして、「黒魔術の書」の解読に取り掛かった。
ところで、なぜこれをしようと思ったのかというと、この本は魔術書のようだし、読めればもっといろんな魔法が使えるようになると思ったからだ。あとは、単純にこういう作業が好きだからというのもある。
そういうわけで、私は嬉々として解読に取り掛かった。
まず、文字の一覧表が書かれた紙を見て、文字をノートに書き写していく。何か書き込むときはノートに書き込めば、一覧表を汚さずに済むからね。
書き写し終わると、「全世界迷宮辞典」を開いて、使われている文字をチェックする。
現在読み方がわかっているのは、「全世界迷宮辞典」の「フィルリア」という単語だけ。とりあえず、そこから解読の糸口を見つけることにした。
「全世界迷宮辞典」に書かれている文字と表の文字を見比べて、同じ文字をチェックする。
「フィルリア」の1文字目は、アルファベットの小文字の"t"の下に横棒があるような形をしていた。表に全く同じ文字はなかったけど、文字の下の横棒を抜かせば、5文字目とよく似ていた。とりあえず、他に似た文字もなかったから、暫定的に表の5文字目と同じだということにしておくことにした。
2文字目と6文字目は同じ文字で、十字架のような"✝"の形をしていて、表の9文字目と同じだった。
3文字目は、アルファベットの大文字の"L"で、表の18文字目と同じ。
4文字目と5文字目は、漢字の"日"の一番下の横画がない形をしていて、表の12文字目と同じ。
そして、7文字目は、"Ⲡ"の形をしていて、表の1文字目と同じだった。
一通り探し終わると、今度は表の文字を私の知っている文字に置き換えられないか考えてみた。
アニタさんに教えてもらった文字は、多少違うところはあったけど、ひらがなに置き換えることができたし、この文字もできるんじゃないかな、と思ったのだ。
そこで注目したのは表の文字数。全部で26文字。これは、アルファベットと同じ数だ。
というわけで、私は表の文字をアルファベットに置き換え、「全世界迷宮辞典」の「フィルリア」の文字をアルファベットに書き直してみた。
すると、「firllia」となり、一応「フィルリア」と読めるようになった。
あ、これ、いきなりアタリかな?
私は、確認のために、今度は「黒魔術の書」を取り出し、表紙にある文字をアルファベットに置き換えてみた。
すると、「aterris-magia to arnia ~dyron ker-kapitel arnorimoa~」と書いてあることがわかった。
意味不明な単語もあったけど、見覚えがあり意味がわかる単語もあった。例えば、Magiaは魔法や魔術、Kapitelは章という意味だったはずだ。マンガとかで出てきたのをなんとなく覚えてる。
読める単語があるということは、やっぱり、アルファベットに置き換えるということで間違いないらしい。
ただ、置き換えはできても意味がわからないから、内容を理解するのは難しいかな?でも、解読の糸口が見つかったんだし、知ってる単語もあるかもしれないから、もう少し頑張ってみようかな。
私は、表の文字とアルファベットとの対応表をノートの新しいページに書くと、「全世界迷宮辞典」と一覧表を「無限収納」に仕舞い、ノートから対応表を書いたページを抜き取った。
これで、机が少し広くなってやりやすくなった。
私は、飲み物を出して喉を潤すと、再び解読作業に戻った。
「黒魔術の書」の1ページ目を開き、上から文字をアルファベットに置き換えてみる。
一番上は項目名のようで、他の文字より大きめに書かれていた。
その後は、何かの説明文のようで、長い文章が何行も続いていた。
そこも一通り置き換えてみたけど、知ってる単語が少なすぎるし、文法もよくわからないため、内容を理解することはできなかった。
ただ、文の初めの文字や、文中のいくつかの文字が、下に横棒が付いていたことから、文字の下の横棒は、大文字であることを表しているのだろうことが推察できた。
ということは、この本の表紙に書いてある文は、正しくは「Aterris-Magia to Arnia ~Dyron Ker-Kapitel Arnorimoa~」となるのか。
中には大文字で始まっていない単語もあるし、ハイフンで単語が繋がっているものもあった。
内容も知りたいけど、情報が少なすぎて無理だ。
私は、説明文の内容を理解するのは諦めて、その次の部分の文字の置き換えに移った。
説明文の次の部分は、文の初めと終わりが「"」であることから、セリフ的なものであると考えられた。
この本は魔術書だから、魔術の呪文と考えるのが妥当だと思う。
短い文だったから、文字の置き換えはすぐに終わった。
"Leafices-nwu, Jackdelis nua Meth Hand or Dan'des'e."
ほとんど意味がわからない単語だけど、Handは英語の手と同じ意味かな?それから、Leaficesは、この世界の古い言葉で、火を表す言葉だと前にアニタさんに教えてもらった。火曜日を表す言葉、レアフィルダンの語源なのだとか。
つまり、これは火を手に喚ぶ呪文ということになる。
試しにやってみようかな、と思ったけど、さすがに室内で火を使うのは危険なので止めておいた。そもそも、単語の読み方がわからないから唱えられない。
今度、迷宮に行ったときにでも何通りか読み方を試してみようと思った。
その後、夕食の時間までいくつかの呪文をアルファベットに置き換えて、ノートに書く作業を続けた。
最終的に、全部で4つの呪文を書いて、今日の作業を終了した。
机に出してあるものを忘れずに「無限収納」に仕舞うと、私は夕食を食べに部屋を出ていった。
とても有意義で楽しい時間だった。




