50.ぼっち少女のウルフ迷宮攻略7
私の魔法の話が終わると、ボス戦の作戦会議になった。
「次はボス戦だが、どうする?役割分担するか?」
親方がハティさんに聞いた。
「うーん……そうねぇ……。ウルフ迷宮は属性迷宮だから、ボス戦はすべての種類のウルフが3体ずつで数が多いわ。もし私とハンスが前に出ると、混戦になるのは間違いないわよね?」
「ああ。そうなるだろうな」
「でしょう?それで、混戦になると魔法が打ちづらくなるから、トモリちゃんの援護はアテにできなくなる。でも、私とハンスだけで勝てる数でもないわ」
「あー、確か、ウルフは全部で11、いや12種類だったか?それが3匹ずつだから……ボス戦に出るウルフは36匹か。多いな」
「ええ。私もそう思うわ」
ハティさんと親方の間だけで話が進む。私が割り込む隙はない。
また、仲間外れ……。
そう思ってしょんぼりしていると、急に話が振られた。
「というわけだから、ボス戦はすべてトモリちゃんにお任せするわ」
え!?いきなりのご指名!?
おかしいな。話はちゃんと聞いていたつもりだったんだけど、今までの会話とハティさんの発言がつながらない。
急にボス戦を任せると言われて混乱したので、ふたりの会話を思い出して整理してみることにした。
えーっと、確か、ボス戦ではウルフがたくさん出て、前衛ふたりが前に出ると混戦になって、魔法が打ちづらくなるって話だったよね?混乱で魔法が打ちづらくなるのは、敵と味方が入り混じってて狙いがつけづらくなるからだと思う。
それで、そのあと、親方がウルフは36匹出て多いって言って……それから、ハティさんが私に任せるって言い出したんだよね。
……うん。やっぱり話が飛んでる。けど、まあ、別にいいや。ハティさんの話が飛ぶのが、よくあることだっていうのはもうわかってるし、細かいところを気にしすぎると疲れるのはステータスの説明とかで学習済み。
無駄に精神疲労を増やすのは嫌だし、あまり深く考えるのはよそう……。
私は、よくわからないまま、ハティさんの言葉に頷いた。
「じゃあ、ボス部屋に入ったらよろしくね。私たちは後ろで見ているから、何かあったら合図してちょうだい。すぐに行くわ」
「よろしくな、嬢ちゃん」
ハティさんと親方は戦闘に参加しないことになったらしい。丸投げされた形だけど、これはこれで良いと思う。だって、これなら、範囲魔法で一掃できそうだもの。
私は、どうやってウルフを倒そうか考えながら、休憩を終えたふたりに続いて階段を降りていった。
ボス部屋に入ると、事前の宣言どおりハティさんと親方は、私の後ろに下がって待機した。
私は、ふたりが十分に離れているのを確認すると、部屋の真ん中に近づいてウルフが出てくるのを待った。
私が部屋の中ほどまで歩いていくと、前方が薄っすらと光り始めたので、私は急いで光に背を向け、腕で目を覆った上で目を閉じた。
光が収まると、私は振り返って、36匹のウルフと対峙し、さっさと魔法を唱えた。
『凍結』
『凍結解除』
アイスウルフを除く33匹のウルフを一気に凍らせて倒し、続いて「凍結解除」でアイスウルフを倒すついでに解凍もしておく。
最後に、倒したウルフを「無限収納」に一括収納する。
こうして、開始後わずか十数秒で、ボス戦は終わった。
終わって振り向くと、ハティさんと親方が固まっていた。あ、凍ってるとかそういうのじゃなくて、あくまで比喩的な意味だけど。
私が近寄っていくと、復活した親方が乾いた笑いを浮かべて言った。
「いや、嬢ちゃんの魔法の腕前はここまででよくわかってたつもりだったんだが、ボス戦をこんなに呆気なく勝っちまうのを見ると、ちょっとな……。ハハ……」
なんか、引かれてる気がする。なんでだろう?
続いて、やっと復活したハティさんが、呆れた顔で言った。
「はあ……。やっぱり、トモリちゃんは規格外だわ。たった2発の魔法で終わらせてしまうなんて……。すごいわ」
ハティさんの言葉は、どちらかというと私に対して言ったのではなく、独り言のように聞こえた。
言い終わってからも、私に返事を求める素振りを見せず、何かを考えている様子だった。
状況からして、私の戦闘を見て何か思うところがあったんだと思うけど、人のことだし、あまり深く突っ込むのは止めておいた。
そして、私たちはボス部屋を拔け、核水晶で称号と特典をもらうと、私の転移魔法で街に帰った。
街に着くと、ハティさんと親方は、用事があると言って早々に別れていった。
私は、近くの屋台で適当にお昼を食べると、宿に帰った。
今日は、初めて他人と迷宮に行ったけど、気にすることが多くて疲れたな……。
やっぱり、私はひとりのほうがラクでいい。
そんなことを思いながら、お風呂にのんびりと入って、リラックスした。
はあ……お風呂は癒やされるなぁ……。




