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49.ぼっち少女のウルフ迷宮攻略6


 私は松明を持って立ったまま、ふたりの手当が終わるのを見守っていた。

 ふたりとも一応防具を身に着けているから、外傷はない。でも、ポイズンウルフの毒は、接触すれば服の上からでも効くらしい。毒の影響か、ふたりとも顔色が悪い。

 ……大丈夫かな?もし大丈夫じゃなかったら、回復魔法を使って治そう。本当は、あとが面倒そうだからあまり使いたくないんだけど、ふたりを見捨てるなんてできない。

 私は、毒攻撃を受けた場合の一般的な対処法を知るためと、助けが必要か見極めるために、ポイズンウルフを片付けた通路の壁に寄りかかって座るふたりを、じっと見つめていた。



 ハティさんと親方は、座り込むとそれぞれカードから小瓶を取り出した。

 10センチくらいで、透明な小さな小瓶。元の世界にあった栄養ドリンクの瓶の形によく似ている。色は違うけど。

 小瓶の中には、オレンジ色の液体が入っていた。見た目は完全にオレンジジュースだ。

 状況からして、あれは回復薬なんだろうけど、見た目は瓶入りオレンジジュースなので、ちょっとおいしそうだと思ってしまった。そんなことを思っている状況じゃないんだけど、ついそう思ってしまった。

 ちょっとしたピンチだった戦闘が終わって、全員無事だっから、私はすっかり気が緩んでいた。だからおいしそうとか思ったのだ。

 ここは迷宮。しかも、安全地帯である階段ではなく、普通の通路。警戒を怠ればどうなるか……。

 私はすぐに、このとき警戒を怠っていたことを後悔することになった。




 小瓶の蓋を開けて、中身を一気飲みするハティさんと親方。飲み終わると、ふたりの体が淡いオレンジ色の光に包まれた。そして光が収まると、ふたりの顔色はすっかり元に戻っていた。


「はあー、生き返るわー。やっぱり、回復薬ポーションの効き目は抜群ね。ポイズンウルフの毒も一発解毒!」


 元気になったハティさんが立ち上がって伸びをしながら言う。


「ああ。一通り回復薬ポーションを持ってきておいて正解だったな」


 親方も立ち上がって、軽く動いて体の具合を確かめながら答える。

 そんなふたりの様子を眺めていると、ハティさんがこっちを向いて言った。


「でも、トモリちゃんがいて助かったわ。私たちだけじゃ、あの数のポイズンウルフを相手にこんな軽傷では……!トモリちゃん!後ろ!」


 話の途中で言葉を切り、驚き焦った顔で叫ぶハティさんに言われ、私は反射的に後ろを振り返る。

 すると、すぐ目の前に、ポイズンウルフが迫っていた。

 咄嗟に後退るけど、ポイズンウルフの速度の方が早く、追いつかれてしまう。

 魔法を発動させようとしたけど、なんの準備もしていない状況では間に合わなかった。

 私は、ポイズンウルフに体当たりされ、後ろに吹き飛んだ。

 幸い、親方が受け止めてくれたおかげで衝撃は少なくて済んだけど、毒攻撃を受けてしまったようで、気持ち悪い。

 しかも、吹き飛ばされたときに松明を落として火が消えてしまい、真っ暗になった。

 このままじゃマズい。

 私は、毒による吐き気を堪えながら、「光球ライトボール」を出して視界を確保し、「氷槍アイスランス」でなんとかポイズンウルフを倒すと、親方の手を借りて壁を背に座り込んだ。


「大丈夫か?」


 親方が心配そうな表情で私の顔を覗き込んでくる。

 ハティさんも、ポイズンウルフを回収して駆けつけた。


「トモリちゃん、回復薬ポーション持ってる?」


 私は、首を横に振った。それを見たハティさんが自分のカードから回復薬ポーションを出してくれようとしたけど、手でそれを制し、心の中で魔法を唱えた。


異常回復キュア


 唱えると、体が淡い紫色の光に包まれ、気持ち悪さがおさまっていく。

 光が消える頃には、すっかり良くなっていた。

 私は、心配そうに私を見つめるハティさんと親方に、もう大丈夫だという意味を込めて微笑むと、立ち上がった。


「……嬢ちゃん、もう大丈夫なのか?」


 立ち上がるとき、さり気なく手を貸してくれた親方の問いに、頷いて答える。


「そうか」


 私が大丈夫だとわかると、親方はほっとした顔をした。


「ねぇ、トモリちゃん。いくつか聞きたいことがあるんだけど」


 一方、ハティさんは、安心半分、驚き半分といった顔で聞いてきた。

 ……やっぱり、特別らしい光属性の魔法を使うのはマズかったようだ。でも、非常事態だったのだから仕方ない。

 私は、急いで書く道具を取り出すと、紙に「あとで」と書いてハティさんに見せた。

 ここは迷宮の中。のんびりしていられる場所じゃない。

 紙を見せながら、周囲を見回す仕草をすると、ハティさんもここがどこだか思い出したらしく、納得してくれた。


「わかったわ。それじゃあ、あとでちゃんと教えてね」


 私は、それまでに忘れててくれるといいな、と思いながら頷いた。




 その後、私の「光球ライトボール」を明かりにして、それまでよりも慎重に進んだ。

 そして、ようやく階段にたどり着くと、休憩がてら話をすることになった。


「それで、トモリちゃんは、どうして回復職じゃないのに光属性魔法が使えるの?」


 ハティさんに聞かれて、私は理由を考えて首を傾げた。

 聞かれても、説明に困る。

 回復師ヒーラーでもあるなんて言っても信じてはくれないだろう。複数の職業を持っている人がいるなんて話はまだ聞いたことがないし、もしいない場合、怪しまれるだけだ。

 でも、それ以外にうまい説明も思いつかない。

 私は、ペンを持ったまま首を捻りつつ考えたけど、結局、うまい説明は思いつかなかった。

 とりあえず、紙に「私もよくわからない。気付いたら使えてた」と書いて見せると、微妙な顔をされた。


「よくわからないって……それ、説明になってないわよ」


 そう言われても、なんで職業が複数あるのか……の理由は、「万能者」の称号のおかげだけど、どうやってその称号を得たのかは謎なんだよね。

 つまり、私もよく知らない。わかんない。

 ハティさんへの回答に、嘘はついてないよ?

 ハティさんは、そんな私の顔をじっと見つめていたけど、やがて諦めたように言った。


「はあ……。その答え、嘘ってわけじゃないのね……。なら、仕方ないわ。疑問には思うけれど、本人が知らないことをここで追求しても答えなんて出ないでしょうから」


 なんかよくわからないけど、納得?してくれたようで良かった……のかな?

 まあ、いいや。これ以上追求されないなら、それで。


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