45.ぼっち少女のウルフ迷宮攻略2
階段を降り始めたところで、明かりを確保していないことに気が付いた。
私が「光球」を唱えようとすると、親方がカードから松明を取り出し、魔法で火を点けた。
親方って、火属性の魔法が使えるのか。
私は、「光球」と比べるとかなり薄暗い松明の明かりの中、親方とハティさんの後ろから、階段を降りていった。
特に戦闘もなく、私たちは最初の十字路に辿り着いた。
そこで、先頭を歩いていた親方が足を止めて振り返った。
「どの道を進めばいいかわかるか、ハヴィティメルネ?」
「あー、ちょっと待ってね。今地図を取り出すから」
そう言って、ハティさんがカードから地図を取り出すと、親方は松明を近づけて地図を見た。
私も、地図を覗き込む。「地図」と比べてみると、だいぶ違っていた。もしかして、迷宮の構造って定期的に変わるものなのかな?だとすると、ハティさんの持ってる地図って、間違ってるってことになるよね?
私は地図のことを言おうか迷ったけど、とりあえず今は黙っておくことにした。
この十字路は、どの道を進んでも階段までの距離に大して差はない。しばらくふたりに任せて進んでいれば、そのうち間違いに気付くだろう。
そう思って、私は特に口出しせずに、ふたりのことを見守っていた。
「うーんと、階段までの最短経路は、ここを右ね」
「右だな?了解」
ハティさんが地図から最短経路を探して親方に道を指示する。親方は、それに従って右に曲がり、地図を仕舞ったハティさんと私が続いた。
角を曲がって20メートルほど進んだところで、アースウルフAが接近してくるのがわかった。
アースウルフとの距離は約50メートル。接近速度から考えると、私たちのところに着くまであと1分もない。
私は、急いで前を歩くハティさんに近寄り、服の袖を引っ張った。
「わっ!な、何?」
ハティさんはいきなり引っ張られたことに驚いて足を止めた。
親方はハティさんの声に驚いて足を止め、振り返った。
「どうした、ハヴィティメルネ?」
「あ、トモリちゃんがいきなり引っ張ったから、びっくりしちゃって」
「そうか。で、なんでそんなことしたんだ?」
親方に聞かれ、私は通路の先を指差す。
松明の明かりは通路の先にいるアースウルフにまでは届かないから、ふたりともまだ気が付いてない。
でも、私が索敵能力を持っていることを知っているからか、ふたりは武器を抜いた。
親方は、私に松明を差し出した。
「ちょっと持っててくれ」
私が頷いて松明を受け取ると、親方は私より数歩前に出て武器である剣を構えた。
私は、「氷槍」を接近してくるアースウルフAの数である7本創り出すと、放たずにそのまま待機させた。
ハティさんと親方が戦う気満々なので、ふたりに危険が及ばない限り、手は出さないでおくことにした。
ふたりの実力も知りたいしね。
約30秒後、通路の先の暗がりから獣の唸り声が聞こえてきた。
ハティさんと親方が、剣を握る手に力を入れるのが見えた。
その数秒後、ようやく松明の明かりが届く範囲に、7匹のアースウルフAが入ってきた。
アースウルフが視界に入ると、親方は左に、ハティさんは右に動き、それぞれ剣でアースウルフを倒していく。
ふたりの戦いをじっと観察していたけど、特に問題はなさそうだった。
私は、少し安心してアースウルフが全滅するのを静観していた。
数分で戦闘は終わり、私は不発に終わった「氷槍」を消してから、アースウルフを回収しているふたりに歩み寄った。
私に気が付いた親方は、回収が終わると松明を受け取った。
そして、同じく回収が終わったハティさんと合流すると、また通路を進み始めた。
その後、何回か戦闘になったけど、私の出番はなかった。
ふたりとも、元冒険者というだけあって強い。これなら、この先も大丈夫かな?
ふたりの実力がわかって少し安心した私は、階段に着くまで黙ってふたりのあとをついていった。
結局、階段に着くまで、私は一匹もアースウルフを倒すことはなかった。
途中、こんなことがあった。
とある交差点で、親方がハティさんに道を聞くと、ハティさんが慌てて地図を出して道を探す。
「おい、ハヴィティメルネ、次はどっちだ?」
「え?えっと、今ここ……だから、次は……左、かな?」
「左だな。わかった」
そして、また、別の交差点でも同じようなやり取りがあった。
ふたりとも私のことは無視して道を決めていく。
まあ、松明の明かりじゃ文字を書いたり読んだりするのは大変だし、迷宮内でのんきにそんなことをしている暇はないから、いいんだけど……。
私、戦闘にも全然参加してないし、2回目からは、通路が狭くなったからか、ふたりとも私が言う前に敵の接近に気が付いたから私の出番はなし。
私、完全に空気だよ……。シクシク……。
私は心の中で泣いていた。
そして、階段まで完全に空気だった私は、その分ふたりのことをじっくり観察した。
それで、ひとつわかったことがある。
ハティさんも、親方も、地図が間違っていることに全く気が付かないということである。
なんで気が付かないんだろう?そう思って見ていると、どうやら、ハティさんは交差点の数しか見ておらず、通路の長さとか、交差点が十字路なのか丁字路なのか、全く気にしていないようだった。
そして、親方も、地図を読むのはハティさんに任せっきりで、自分は関与しない。
おかげで、ふたりとも地図の間違いに気が付かなかった。
……このふたり、よく冒険者としてやっていけてたよねぇ、と妙に関心してしまった。
私は、地図が違うことを言うタイミングを探していたけど、結局言い出せないまま階段に到着してしまった……。
うーん、どうしよう……。




