44.ぼっち少女のウルフ迷宮攻略1
忙しかった日から一夜明け、今日は、4月18日火曜日。
今日は、ハティさんと親方と一緒に、迷宮攻略に行く予定だ。
私は、いつもより少しだけ早く起きて、8時に待ち合わせ場所である街の門のところに着いた。
ちょうど、朝3の鐘が鳴る頃に着くと、待ち合わせ場所には、装備を整えたふたりが立っていた。
でも、ふたりでなにやら話し込んでいて、私に気付く様子はない。少しいたずら心が芽生えた私は、できるだけ足音を消して二人に近付いていった。
そして、あと1メートルというところまで近付いたところで、やっと気付いてくれた。
「うわっ!ト、トモリちゃん!?いつの間に来たの?」
「ついさっきだよ。ハヴィティメルネ、お前、気付かなかったのか?」
「えっ!?そうなの?」
ハティさんは、急に私が近くに現れたことに驚いてあたふたしてくれた。その反応が面白くて、つい笑ってしまう。
一方、親方は私に気が付いていたみたいで、まったく動じていない。ちぇっ、つまんないの。
「それで、今日はどこに行くんだ?」
ハティさんが落ち着いたところで、親方が聞いた。
そういえば、迷宮攻略に行くのは聞いていたけど、どの迷宮に行くんだろう?できれば行ったことのない残り3つのうちのどこかがいいな。
そう思っていると、ハティさんが言った。
「そうね……。このメンバーなら、3人だけでもウルフ迷宮に行けると思うのだけれど、どうかしら?」
「そうだな。俺もお前も元Bランクの冒険者だし、嬢ちゃんも強いみてぇだから、実力的には問題ねぇだろ」
「じゃ、決まりね。トモリちゃんもいいかしら?」
また私抜きで話がまとまってしまった。
まあ、ウルフ迷宮にはまだ行ったことがないからいいんだけど、私も一応当事者なんだから、仲間外れにしないでほしいなぁ。
出発する前から、少し不機嫌になる私だった。
目的地が決まると、私たちは森に入った。
そして、周りに人がいないところまで来ると、ハティさんに頼まれてゴブリン迷宮に転移し、そこからウルフ迷宮を目指すことになった。
ゴブリン迷宮とウルフ迷宮は、歩いて1時間弱のところにあるらしい。
1時間も歩くのか……と落胆したけど、ふたりによると、街から歩くと休憩なしでも2時間以上かかるし、この時間だと馬車もないから、これがベストだという。
ここで私は、1時間も我慢して歩くのか、飛行魔法を使えることを話してラクに飛んで行くのか、どちらがいいか考えた。
その結果、飛行魔法なしだと、このあとの迷宮でも歩きっぱなしになるだろうし、いくらステータスが上がったからといって、インドア派でもともとあまり体力がない私が、一日中歩き回れるはずがないので、話すことにした。
私は、ゴブリン迷宮の入口前の開けた場所から、森に入っていこうとするふたりを、服の裾をつかんで引き留めた。
「何?トモリちゃん?」
「嬢ちゃん?なんかあったのか?」
いきなり引き留められたことに困惑するふたり。
私は、すぐに紙とペン、それから、この間買った本のうち外装が固いものを出して、下敷き代わりにして「飛んで行こう」書いて見せた。
「飛ぶって、飛行魔法のこと?悪いけど、私たちはそんなもの使えない……ああ、トモリちゃんは使えるのね」
言っている間に、私が飛行魔法を使えることに気付いたハティさん。その表情には、驚きよりも呆れの方が強いように見えた。
「飛行魔法って、風属性魔法か、『飛行』のスキルがないと使えないんじゃなかったか?」
「ええ、そうよ。トモリちゃんの魔法属性は確か、水だったわよね?ということは、『飛行』を持っているのかしら?」
ハティさんと親方から興味津々な眼差しを向けられ、思わず頷いてしまった。何でも、『飛行』のスキルはかなりのレアスキルらしく、冒険者の中でも持っている者は1割ほどなのだとか。
思わず頷いてしまったけど、「飛翔」もスキル「想像創造」で創った魔法だし、似たようなものだからいいよね。
ふたりが飛んでいくことに納得してくれたので、「飛翔」の対象にふたりを加え、発動させる。
『飛行』
声に出さずに唱えると、三人の体が淡い紫色の光に包まれ、宙に浮いた。
コントロールするのはあくまでも私で、ふたりはできないようだったので、ハティさんに道案内をしてもらいながら、ウルフ迷宮まで飛んで行った。
いつもより少しだけ魔力消費量が多かったこと以外は、ひとりのときと変わりなく、10分弱で目的地に着くことができた。
ウルフ迷宮の入口の造りは、スライム迷宮やゴブリン迷宮とほぼ同じだった。
石製の上り階段に、こっちの文字で「ウルフ迷宮」と書かれた看板。
……迷宮って、どこもこんな造りなのかな?
ウルフ迷宮の入口を見ながら、そんなことを思った。
着いてすぐに迷宮に入ろうとしたら、親方に止められてしまった。
迷宮に入る前に、役割分担だけでもしておきたいと言われ、ハティさんもそれに賛成したので、私もおとなしくふたりのところに戻った。
「パーティーで戦う場合、ある程度役割を決めておかないと、問題が起きるからな」
「特に、ウルフは群れで襲ってくるから、連携がうまくいかないとかなり悲惨な目に遭ったりするのよね」
ふたりとも遠い目をして語る。
冒険者時代に何かあったのかな?気になったけど、こんなところでのんびりする気はなかったから、今はおいておいて、休憩ときにでも聞くことにした。
「それで役割だが、とりあえず、俺とハヴィティメルネが前衛、嬢ちゃんが後衛でいいか?」
……前衛ふたりに後衛ひとり?それはそれでやりにくそうだと思ったけど、ふたりとも魔法より剣で戦うタイプだから、これがベストだと言われ、反論できなかった。
私の場合、大抵空から魔法で一掃するから、役割とかってあまりよくわからないんだよね……。
というか、役割分担する必要ってあるのかな?それに、こんなに大雑把で大丈夫なのかな?
ひとりのとき以上に不安になりながら、私たちはウルフ迷宮に入っていった。




